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八条学園騒動記

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第二十六話 ナンのお家その四


「それ自白剤よね」
「そうなんだ」
「そうなんだな、じゃなくて何であんたが持ってるのよ」
 話が訳のわからない方向に転がってしまった。
「そんなのを」
「実家から送られてきたものだけれど?」
 アンジェレッタは別に驚くことなく答える。あどけない言葉で。
「それがどうかしたの?」
「いや、ちょっとそれは」
「あんたの実家って本当に只の薬屋さん?」
「そうだけれど」
 この場合見事なまでに説得力のない言葉である。
「何かおかしい?」
「いや、いいわ」
「凄い気になるけど」
「何でかな」
 やはりアンジェレッタにはそれがわからない。
「どっか変なのかな」
「もうそれはいいから」
 皆話を強引に終わらせる。やばい方向にいってそのまま収納がつかなくなってしまいそうだったからだ。
「とにかくこのままじゃ行けないわよ」
 パレアナがそう言う。
「住所がわからないとさ」
「そうだな」
「とりあえずナンはいるかしら」
 ジュディが教室の中を探しはじめた。
「話はそれからね」
「そういうことね」
 話を一旦は終わらせようとした。しかし実にタイミングのいいことにそこに当のナンがやって来たのであった。本当に絶妙のタイミングであった。
「あらっ」
「噂をすれば」
 皆ナンが姿を現わしたのを見て思わず声をあげてしまった。そのうえでナン自身に問う。
「ねえナン」
「ダンから聞いたんだけれど」
「ええ、わかってるわ」
 ナンの方もそれに答える。それから述べてきた。
「私のお家のことでしょ」
「そう、それ」
「今何処にいるの?」
「実は昨日場所を変えててね」
 ナンはこう説明してきた。皆の危惧は当たった形になった。
「ちょっと面白い場所にね」
「面白い場所!?」
「ええ、そうよ」
 皆にこう述べる。
「そこに」
「何処なの、そこ」
 パレアナが最初に尋ねた。
「よかったら教えて。皆で行くから」
「うん、それじゃあね、ええと」
 ここで紙とペンを探した。すぐにジュディがその二つを渡してきた。
「これでしょ」
「うん、それ。有り難うね」
「ええ。じゃあそこに書いてよ」
「わかったわ。じゃあ」
 それを受けて地図を描きはじめる。だがそこに描かれた地図とは。
「・・・・・・何これ」
「何処なのよ」
 皆それを見て絶句してしまう。そこにあったのは想像を絶する地図であったのだ。
 まず学校が描かれている。そこから一直線に斜めにかなり歪な形の道があってその先にナンの家と思われるパオが描かれていた。それだけであった。
「目印は?」
「目印って?」 
 ナンはパレアナの質問にキョトンとした顔を見せてきた。
「そんなのいるの?」
「いるに決まってるでしょ」
 パレアナはそう返す。
「何言ってるのよ」
「だって草原じゃそんなの一切ないから」
 ナンは答えてきた。やはりここでもモンゴル民族の草原のやり方が出て来た。
「普通に見えるし」
「見えないわよ」
「何処なのよ、本当に」
 パレアナだけでなくジュディも問うてきた。
「だからそこよ」
「そこって」
「何処にあるんだか」
「とにかくね」
 ナンは話を聞かずに強引に話を収めてきた。天然である。
「待ってるから。宜しく」
 そう言ってその場を去る。後には呆然とする皆だけが残った。
「これが地図か」
 ダンもその地図を見て何と言っていいかわからないといった様子であった。首を捻ってばかりである。
「どうにもな。何が何なのか」
「とりあえず本人は呼ぶ気満々みたいね」
 ジュディがその中で言う。
「行くしかないわね」
「やっぱりラッシー呼ぶ?」
 ジョンがまた提案してきた。
「ナンの匂いを嗅いでもらってさ。これだとすぐだよ」
「そうねえ」
 パレアナは今度ばかりはそれを真剣に検討しだした。
「このままじゃそれどころじゃないしね」
「っていうかモンゴル人ってこれでいつもお家に辿り着いてるの?凄いわね」
 ジュディはそちらにも感心していた。
「いや、それナンだからでしょ」
「そうか。何か本当に野生児なのね」
「草原の民だからね」
 パレアナが言ってきた。
「やっぱり独特の感性があるわよ」
「この地図ってそれ以前じゃないの?」
「そう言うかも」
 パレアナは少しは前向きに肯定しようと思ったがこの地図はそれすらも許さないものがあった。そこまでのスケールがあるものであった。
「とにかくどうするの?」
 ジョンが皆に対して言う。
「ナンのお家に行くんだったら」
「そうね。やっぱりラッシー呼んでくれる?」
「うん、じゃあ」
「いえ、皆さんここは待って下さい」
「!?」
 誰かが言ってきた。皆そこに顔を向ける。
「えっ」
「あんたが!?」
「はい、ここはお任せ下さい」
 誰かが名乗り出て来た。
「ううん」
「貴女なの」
「はい」
 出て来たのはセーラであった。後ろにラムダス、ベッキーの二人の従者を連れてにこりと微笑んでいる。何故かその微笑が結構底知れぬ恐ろしいものに見える。
「私がすぐにナンさんのお家を見つけますので」
「そうやってなのよ」
 まずはそれが引っ掛かる。しかし話は何時の間にか彼女のペースになっていく。こうして話は思わぬ方向に流れてしまうのであった。


ナンのお家   完



                 2006・12・30
 
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