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八条学園騒動記

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第二十五話 手綱は誰の手にその五


「プリシラ」
「一言で説明がつくわ」
「そうなのか」
「ええ」
 プリシラはクラスメイト達に頷く。
「そうなのよ」
「じゃあその答えは」
 皆二人に尋ねる。
「愛よ」
 プリシラが答えた。
「愛!?」
「何か急に雰囲気が恥ずかしくなってきたような」
 皆はプリシラのその言葉で場面が急に変わりだしたのを察していた。しかし彼女は大真面目である。
「そういうことよ」
「つまりだな」
 フックが彼女にかわり説明する。
「お気に入りのアイドルに食べてって差し出されたものならどうだ?」
「ああ、それならわかる」
 洪童が納得したように言ってきた。
「俺だって春香の出したものなら何だって食べるしな」
「そういうことだ」
 春香は洪童にとって妹なので事情が少し違うがまあその通りであった。そうした意味でフックとプリシラの言っていることは実にわかりやすいものであった。
「成程」
「じゃあルシエンは」
「やるわ」
 プリシラはクールに述べた。
「絶対にね」
「そうか」
「じゃあ本当に」
「アンネット、見てろよ!」
 彼は今必死にカレーを口の中に叩き込んでいた。最早それは修羅であった。
「御前とのデートの為に俺は1」
 もう当初の目的を完全に忘れてしまっている。そして今遂に終わった。
「おお!」
「見事!」
「どうだ、食ったぞ!」
 顔中から汗を流してアンネットに言ってきた。
「これでいいな!デートだ!」
「ええ、いいわ」
 アンネットはにこりと笑ってそれに応える。
「じゃあ今日の放課後ね」
「よし!」
 彼はその言葉に頷く。
「放課後だな!楽しみに待ってるぞ!」
 話はすぐに決まった。彼は恐るべきカレーを完食してデートを勝ち取ったのであった。しかし当初の話は完全に忘れてしまっていた。
「ただ、ちょっと待ってよ」
 ルシエンは喜び勇んで食堂を後にする。彼がいなくなった後でトムがふと皆に言ってきた。
「今日の放課後だよね、デートって」
「今アンネット言ったわよね」
 それにパレアナが頷く。
「確かに」
「占いじゃ今日交通事故に遭うんだろ?じゃあまずいんじゃないかな」
「それを避ける為のカレーだったんじゃ?」
「そうだけれどさ」
 トムはそうパレアナに返す。
「けれど何かさあ。引っ掛からない?」
 腕を頭の後ろに組んでいぶかしがる顔をしてこう述べてきた。
「そもそも難を避けるのにどうしてカレーなの?大体アンネットがデートって言ったし」
「そういえば」
 クラスメイト達はトムのその言葉に気付いた。
「そうだよな」
「何かおかしいな」
「そうだな」
 マチアも頷いてきた。
「まさかこれは」
「アンネットが」
 だがその場にアンネットはいなかった。彼女は既に屋上にいてベッキーと話をしていた。何故か二人でそこにいたのである。皆に見つからないように。
「上手くいったわね」
「はい」
 ベッキーはアンネットの言葉に笑みを浮かべて笑って返していた。アンネットも得意げな顔でそれを受ける。
「しかしですね」
 だがここでベッキーはアンネットに言ってきた。
「何か回りくどいような」
「いいのよ、それで」
 しかしアンネットはその指摘に笑って返す。
「こういうのはね。遠回りだから面白いのよ」
「そうなのですか」
「だからあえてお願いしたのよ」
「はあ」
「ルシエンのことはね。わかってるのよ」
 彼女は言う。
「ああ言えば乗るし」
「そしてアンネットさんの言葉で確実に、ですか」
「そういうことよ。何か利用して御免ね」
「いえ、それはいいです」
 ベッキーはそれはいいとした。しかしそれとはまた別に言いたいことがあった。
「ただ」
「ただ。何?」
「やはり回りくどいですね」
「だからそれがいいのよ。こういうのは楽しんだ者勝ち」
「ですか」
「そうよ。じゃあ今からデートの用意をしないと」
「楽しそうですね」
「勿論よ」
 また笑ってみせる。心からの笑顔であった。
「最高に楽しい気持ちよ」
 そう言って屋上から消える。何だかんだ言って彼女も楽しんでいたのであった。


手綱は誰の手に   完



                 2006・12・26 
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