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Fate/magic girl-錬鉄の弓兵と魔法少女-

作者:セリカ
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無印編
  第二十一話 情報共有

 日は沈み、闇に染まる海鳴公園でなのは達と合流する。

「まだ大丈夫だよね」
「ああ、約束の時間まではまだすこしある」
「よかった。
 ならこれ、ずっと預かったままだったから」

 なのはが差し出したシーツに包まれたモノを受け取り、シーツを取り払う。
 そこのあったのは赤い魔槍ゲイ・ボルク。
 そういえばジュエルシードを破壊した時は壊れた幻想(ブロークン・ファンタズム)を使用しなかったし、破棄した記憶もない。

「すっかり忘れてたよ。ありがとう、なのは」

 なのはに礼を言いつつ、外套にしまう様に槍を霧散させる。

「これで士郎君の武器庫になるのかな?
 そこに戻ったの?」
「ああ、ちゃんと戻ったよ」
「よかった」

 外套にしまう様に霧散させなければ、転送しているようには見えないだろうな。
 今後も外套から取り出すような形で誤魔化すか、最初から投影して武器を用意しておく方がいいかもしれない。
 まあ、それは後で考えるとしよう。

「ところで士郎君」
「ん? どうかしたか?」

 じっとこっちを見ているがどうかしたのだろうか?

「士郎君ってモノを転送できるのにいつも赤い外套姿なんだね」

 ああ、そういう疑問か。

「手の中とかある程度なら転送の位置は調整できるんだけど、なのはの服みたいに着替えるように転送させることは出来ないんだよ」

 まあ、投影であるが故に仕方がないが、レイジングハートのように一瞬で戦闘用の服を纏う事が出来れば便利だとは思う。
 そういえばあのイカれた杖(カレイドルビー)は可能だったな。
 仮にアレがあっても使う気はさらさらないが。
 そんな時俺達の前にモニターが現れる。

「お待たせしました。時空管理局です。
 これから我々の船、次元空間航行艦船『アースラ』に転送しますが、準備はよろしいですか?」
「は、はい。大丈夫です」

 美由希さんと同じ年頃の女性の言葉になのはが返事をして、俺も頷く。

「ではいきます」

 その言葉と共に足元に魔法陣が浮かび輝きが増し、輝きが収まった時には見たこともないところにいた。

「……ここは」

 いきなりの事に少し呆けてしまうが、背後の気配に振り返る。
 そこには

「いらっしゃ~い。
 時空管理局、次元空間航行艦船『アースラ』にようこそ。
 歓迎するわ」

 笑顔で俺達を出迎えるリンディ提督がいた。

 ……まあ、ここが時空管理局の船という事も納得しよう。
 いきますという言葉と共にいきなり転送されるのは驚いたし、元いた世界や今住んでいる世界よりも遙かに進んでいる科学技術にも驚いている。
 そんなことよりだ。

「協力者の出迎えがわざわざ提督自らというのはよいのですか?」

 今回の件の最高責任者が出向くなど普通はありえないだろう。

「僕もそう言ったんだが、聞き入れてはもらえなかったよ」
「……苦労するな」

 俺の言葉にリンディ提督の後ろにいたクロノのまったくだと言う様にため息を吐く。
 クロノに内心同情しながら笑顔で俺達を迎えてくれた最高責任者であるリンディ提督と改めて向かい合う。

「わざわざお出迎えありがとうございます。
 そして、この件が片付くまでよろしくお願いします」
「ええ。こちらこそお願いね」

 リンディ提督と握手を交わす。
 ここにこの件の片がつくまでの期限付きではあるが契約が交わされた。

「それにしても、その格好で来るのはどうなんだ?」
「クロノの言いたいこともわかるが、私はなのはのように一瞬で出し入れと着替えが出来るような便利なモノは持ってないんだよ」

 つい先ほどなのはにも同じようなこと言われたな。
 時間と資金に余裕が出来たら服を一瞬で着替えることができる魔具の開発研究でも取り組んでみるか?
 ずいぶんと先の事だろうが。

「ああ、デバイスを持っていないから仕方がないと言えば仕方がないのか。
 ……ってちょっと待て、じゃあアースラでの普段の行動も」
「ああ、いつ発動するかわからないジュエルシードが相手だからな。
 基本、この格好になる。
 さすがに眠るときは着替えるが」
「はあ、まあ仕方がないか。
 ところでユーノ、君もいい加減元の姿に戻ってもいいんじゃないか?」

 は?
 ちょっと待て。
 ユーノの元の姿?
 初耳の話に事実を確かめるように、なのはに視線を向けてもブンブンと首を勢いよく横に振っている。
 なのはも知らないらしい。

「ああ、そう言えばそうだね。ずっとこの姿でいたから忘れてました」

 で、さも当然のように返事をして光に包まれるフェレット。
 そして、光の中から現れたのは俺達と同じ年の頃の少年。

「ふう、なのはにこの姿を見せるのは久しぶりになるのかな」

 なのはが当然知っているかのように言うユーノ。
 それとは対照的にユーノを見て固まっているなのは。
 その様子に手で耳を塞ぐ。

「ふええええええええええ!!!!!!!!」

 アースラ中に響き渡る勢いで叫び声をあげた。
 ……耳を塞いでいても少し耳がキーンとした。
 まあ、衛宮家の虎の咆哮に比べれば可愛い声なのだけど。

「えと、えっとユーノ君って、そ、その、ふえええ!!!」

 大混乱のなのは。
 これはまともな質問にならないだろう。

「ユーノ、少なくとも俺もなのはもお前のその姿は初めてみたんだが」
「え!? なのはと初めて会ったときは……」
「違うよ! 最初からフェレットだったよ」

 これは問題だろ。
 人間という事を隠してフェレットの姿で高町家をはじめとする色々な方々と交流をしていたのだから。
 しかも、温泉の時にはフェレットの姿で女風呂にまで行っている。

 恭也さんや士郎さんが知ったらどうなることやら。
 最低でも腕の一本。
 最悪なら首だな。

「クロノ、とりあえずジュエルシード云々の前にユーノ・スクライアの犯罪の取り締まりをしないか?」
「は? こいつ犯罪なんてしてるのか!」
「し、してないよ! いきなり何言うのさ!」

 俺の言葉にクロノがユーノに詰め寄り、必死に首を横に振るユーノ。
 しかし、犯罪をしてないだと?
 アレを犯罪という自覚がないのはまずいだろう。

「忘れているなら言ってやろう。
 連休の温泉の時、自身が男という真実を隠し、なのは達と共に女風呂に入ったではないか。
 ユーノ・エロクライア」
「スクライアだ! って違う。
 アレはそんなつもりじゃ」

 じりじりと追い詰められる淫獣ユーノ
 その時、ユーノが何かを閃いたかのような表情をした。
 この状況をどうこう出来るモノがあるとは思えないが

「君だってなのはと一緒にお風呂に入ったじゃないか!」
「あれはお互い同意していたから問題はない」

 まあ、同意していたとはいえ一緒に風呂に入ったなど恭也さんが知ったら襲いかかってくる可能性が、いや絶対に襲いかかって来る。
 これは別の問題として対応を考えておこう。

「さあ、恭也さん達に捧げられるのか。
 ここで罪を認め、償うのかを。
 選ぶがいい、ユーノ・エロクライア
 まあ、前者は腕の一本、いや首を差し出すぐらいの覚悟しておいた方がいいだろうが」
「だからスクライアだ!
 それに士郎さんと恭也さんがそんなことをするはずが」
「ないと言えるか?」

 俺の一言にユーノが固まる。

「高町家で生活していたなら、士郎さんと恭也さんのなのはへの溺愛っぷりは知っているだろう。
 ましてあの時、恭也さんの恋人である忍さんを始め、美由希さんやアリサ達までいたのだ。
 恋人と妹の裸を見た相手を恭也さんがどうするかなど考えたくもないし、私は全力で遠慮したいがな」

 俺の言葉にユーノは冷や汗をダラダラとかいて、顔色は真っ青を通り越して蒼白になっている。

「ごめんなさい。
 僕が悪かったです。
 許して下さい」

 物凄い勢いでなのはに謝るユーノ。

「にゃはは、いいよ。
 恥ずかしいけど、許してあげるから。
 士郎君も脅かし過ぎだよ。
 お兄ちゃんがそんなことするわけないよ」
「む、少し誇張していい過ぎたか」
「そうだよ」
「それはすまない」

 なのはは笑っているが、恭也さんは誇張でも何でもなくやるぞ。
 絶対。
 ユーノも俺と同じ意見なのか顔が引き攣っていた。

「まあ、ユーノの取り調べは後にするとして」

 クロノ、取り調べはする気なんだな。

「そうね。ひとまず私の部屋に行きましょうか。
 今までの事とか詳しくお話を聞きたいですし」
「はい」
「わかりました」

 リンディさんの後ろをついていく俺達。
 そして、辿りついたリンディ提督の部屋。

「まあ……なんというかすごいな」

 これがリンディ提督の部屋に対する正直な感想である。
 盆栽が並び、鹿威しまである。
 一つの部屋に茶室と日本庭園をまとめて押しこんだらこんな感じになるのだろう。

「いま、お茶を淹れるわね」

 用意されたのは抹茶に羊羹。

「ありがとうございます」
「「あ、ありがとうございます」」

 なのは達とリンディ提督に礼を言いつつお茶に口をつける。
 さすがの部屋になのはとユーノも困惑気味のようだが、俺にはそれよりも気になることがある。

 リンディ提督のお茶のすぐそばにある角砂糖が入った器はなんだ?
 コーヒーや紅茶ならまだしも抹茶が出ているこの場に砂糖がいるとは思えないのだが

「では早速で悪いのだけど、士郎君達が持っているジュエルシードの数を教えてほしいのですが」
「そうですね。あともう一人の魔導師の少女に関する情報もですね」
「そうね。それも貰えればありがたいわ。
 なら、ちょっと待ってね」

 俺の言葉にリンディ提督はモニターを開いて会話をする。
 モニターに映っている見覚えのある人も調査をしている人のようだ。

 リンディ提督が誰を呼ぶかはそれほど重要ではない。
 それに俺が管理局に提出できる情報というのはそんなに多くない。
 一つはフェイトの事。
 もう一つはフェイトが現在所有しているジュエルシードの数。
 これは海鳴市での魔力反応を感知出来ていたし、なのはとフェイトの戦いは見ていたので把握している。

 この二つの情報の内重要なのはフェイトの事に関する情報である。
 正確にはフェイト自身のことではなくて、フェイトの後ろにいる存在。
 フェイトに指示を出しているフェイトの母親の事である。
 この事ばかりは俺達の世界ではないのでいくら月村家の力を借りても調べることは出来ない。
 つまりフェイトの母親の情報は管理局の捜査能力にかかっているのだ。

「失礼します」

 扉が開き、リンディ提督と話をしていた見覚えのある女性が入ってきた。
 やはり間違いない。
 俺達がここに転送される際にモニター越しに見た女性だ。

「私はエイミィ・リミエッタ、アースラの通信主任兼執務官補佐をしてます。
 アースラの中でわからない事があったら何でも聞いてね。
 これからよろしく」
「衛宮士郎です。よろしくお願いします」
「高町なのはです」
「ユーノ・スクライアです」
「了解。士郎君になのはちゃん、ユーノ君ね」

 エイミィさんが自己紹介をしたので改めて俺となのはも自己紹介をしておく。
 執務官補佐ってことはクロノのパートナーか。
 それにしても通信主任も兼任とはクロノといい、エイミィさんといい若いのに大した役職だ。
 とりあえずプライベートの事は時間が空いた時に話すとして

「ではまず俺達が知る限りの情報を改めてお話しいたします。
 ジュエルシード21個内、1個は破壊し、現在私が所有しているのは1個。
 そして」

 なのはに視線を向ける。
 その視線になのはが答え、レイジングハートを掌に乗せる。
 それとともに5つのジュエルシードが浮かび上がる。

「私が持っているジュエルシードは5個です」
「さらにもう一人のジュエルシードの探索者、黒の服の魔導師、フェイト・テスタロッサ。
 彼女が所有するジュエルシードが3個です」
「つまり残りのジュエルシードは11個という事ね」
「はい」

 既に半分は回収され、どちらかの手にある。
 余りのんびりしていると遅れをとる事になる。

「士郎君が言っていた黒い魔導師の子、フェイトさんの情報はそれだけではないでしょ?」

 リンディ提督が俺を見据える。
 よくわかっている。

「はい。フェイトに海鳴市に侵入した直後接触し、ジュエルシードを集める理由を問うた事があります」

 もっともフェイトとの直接の出合いは故意的に接触しというよりは偶然出会ってしまったの方が正しいのだが。

「彼女自身はジュエルシードを集めて何かするつもりはないようですが、集める様に命じた彼女の親の事が気になります」
「フェイトさんの親が裏でフェイトさんに命令をしているということですか?」
「恐らくはですが。
 そして、気になるのがユーノが言っていたジュエルシードの輸送中の事故」

 俺の言葉にリンディ提督達も気がついたようだ。

「あの事故も故意的に起こされたモノだと?」
「可能性は高いでしょう。
 ジュエルシードを狙っている者がいて、偶然にも事故が起きて、散らばったジュエルシードを管理局よりも先に回収して利用する。
 そんな話はあまりに出来過ぎでしょう」

 可能性が高いと言ったがほぼ間違いなくジュエルシード輸送中の事故は間違いなく故意的に起こされたものだろう。
 あれだけの高魔力を秘めたジュエルシードを利用するのだ。
 偶然目の前にあったから使用するなどというのは危険すぎる。
 前もって目的のためにうまく利用できるモノとして調査しているはずだ。

「わかりました。エイミィ」
「はい。輸送中の事故の再調査依頼とフェイト・テスタロッサちゃんの身元確認とその血縁に関して調べてみますね」

 リンディ提督の言葉に、しっかりと頷いたエイミィさんが部屋を後にする。
 俺が知る情報は少ないが、こうしてフェイトの背後に誰かいる事を話すことで、俺では調べることができない情報を管理局に調べさせ、そこから情報を手に入れればいい。
 全てはそこからだ。

 あと俺が知る情報としては話していないフェイトのマンションの情報があるが、恐らくもうあそこにはいないだろう。
 俺と時空管理局がどのような関係かはフェイトは知らない。
 確かに最後にフェイトと別れた時の状況では俺と時空管理局が敵対していると判断されてもおかしくはない。
 しかし今でも俺と管理局が敵対していると判断するにはフェイト達には情報が足りない。
 もし俺ならば自分の自宅を知っている者が敵対者と接触した場合、自宅の情報が間違いなく敵対者に知られていない事が証明できるまでは自宅には近付かない。
 そんな事を考えていると

「あと士郎君に要望があるのだけどいいかしら?」
「要望の内容にもよりますが」

 リンディさんが口を開いた。
 要望って何だ?
 魔術の知識・技術に関することか?
 いや、それは俺が断ることはわかっているだろう。

「なのはさんの事はこの前の戦闘データで魔力値などはわかってるのだけど、士郎君のデータがほとんどないのよ」

 それはそうだろう。
 魔法とは全く違う魔術だ。
 だからこそ余計な情報は与えないように注意してきたのだから。

「協力関係を結んでいまさらで悪いんだけど、クロノと模擬戦をして実力を見せてくれないかしら。
 じゃないと一般協力者の実力も把握してないのに管理局管理の下で戦闘に出した、なんて話しになったらこちらの責任問題に発展しかねないのよ」

 そう言うことか。
 確かに戦闘能力がない者を戦闘に使ったりすれば責任問題に発展するだろう。
 組織においてそれは間違いないだろう。
 それに実力がわからなければ協力して戦闘を行った際に戦略が立てることが難しい。

 だが俺の情報がほしいというのはそれだけではないだろう。
 俺のデータがほとんどない現状では、万が一敵対した場合、強硬な手段に訴えることが出来るのか。
 それとも下手に戦闘する事自体が間違いないのかの判断基準がない。
 要するに

「少しでも情報がほしいといったところですか」
「そう取っても構わないわ。
 こちらとしても士郎君に出撃の要請をしていいのかすら曖昧ですもの」

 リンディ提督の言葉に内心でため息を吐く。
 契約の際にこちらの要望は全て受けてもらっているのだ。
 ここまで来て一方的に管理局側の要望無視するわけにもいかないだろう。

「はあ、わかりました。
 今からしますか?」
「来たばっかりですし、模擬戦は明日にしましょうか。
 それともう一つ」

 リンディ提督の視線が俺の腰のあたりに向けられる。

「転送前に少しスキャンさせていただきました。
 腰と鞄の中に銃を所持しているはずです。
 管理局は原則質量兵器の使用を禁じています。
 それを預けてはいただけませんか」

 なんとも予想外の依頼だな。

「ちなみに質量兵器とは?」
「一言でいえば魔法を使用しない物理兵器。
 この世界の銃器類もこれにあたります」

 銃を調べさせてほしいと言う依頼はあると思ったが、まさか銃を預けてほしいとはな。
 それに基本的には管理局に従うとした以上、質量兵器を使わないというのは従う必要はあるだろう。
 もっとも

「この件について質量兵器を使わないという確約では問題ですか?
 わざわざ預ける必要があるとは思えませんが」

 質量兵器を使用しないという約束だけではなく、銃を調べられる可能性が高い以上預ける事は出来ない。

「仮に士郎君の部屋に質量兵器を置いておいてそれが紛失した場合の責任はこちら側にも出てきてしまいます。
 本来なら押収、または証拠品の質量兵器は保管室に厳重に保管されますので、同じように処置するのが妥当だと考えます」

 なるほど何かあった時の過失責任か。
 管理局の質量兵器に対する事を知らなかったとはいえ、決めていなかったこちらの落ち度だな。
 仕方がない。

「こちらとしては一部とはいえ魔術技術を使用したものを預けて好きに調べられるのはいい気がしません。
 そこで代替案を提示します」

 預けて調べられるというなら調べられないようにすればいい。

「私の方で無許可で調べられる事のないように、悪用されぬように封印を施します。
 その封印された状態で管理局の保管室で管理してください」
「封印ですか?」
「はい」
「それはどういった封印なのですか?」
「簡単なものです、ちゃんとした手順を踏まずあけようとした場合に相手を眠らせる細工を仕掛けます。
 もっとも魔術の眠りなので私が起こさなければ半永久的に眠りますが」
「……わかりました。
 それでいきましょう」

 お互い完全に信頼関係を築けたわけではないのだからこれぐらいでちょうどいいだろう。

「なら厳重なケースを用意してください。
 それに銃と弾を全て入れて、封印します」
「わかりました。
 明日用意しますのでそれまで管理はお任せします。
 それと銃と弾をケースに入れる際は私も立ち会わせていただきます」
「はい」

 これでリンディ提督からの要望の話も終わったので

「それでは少し遅くなりましたけど、今日はここまでにしましょう。
 部屋に案内するわね」

 リンディ提督に部屋に案内される。
 ……提督に案内させていいものなのだろうか?
 そんな疑問が頭をよぎる。
 クロノのため息は増えるだろうが、細かいところは気にしないでおこう。

 用意された部屋は三部屋。
 真ん中が俺の部屋で、左右になのはとユーノの部屋となっている。

「とりあえず、着替えとかの荷物を片付けるか」
「は~い」

 なのはと別れ、自分の部屋で着替えや荷物をしまう。
 片付けるといっても俺の主な荷物は予備の戦闘服と弾丸と銃の点検道具なのだ。
 すぐに片付け終わるし、銃関連の道具は明日全部預けるので取り出す事もしない。
 というわけでなのは達と少し言葉をかわし、その後はシャワーを浴びて休むことになった。



 ゆっくりと眠っていた意識が覚醒する。
 アースラの中というのは地上と違い朝日が入らないので変な感じだ。
 起きているのだが朝が来たという実感がないというか何とも言えない違和感がある。
 部屋に置かれた時計では一応、朝のようだけど。

「着替えるか」

 何があってもいいように戦闘用の服と外套を纏い、部屋を出る。
 そして、向かうは隣りのなのはの部屋だ。
 なんで向かっているかというと昨日寝るとき、なのはに

「実は朝弱いから起こしてほしんだけど」

 とお願いされたことが関係してる。
 だから断じて夜這いではない!
 ……ん? 朝だから夜這いにならないのか?
 いや、余計な事は考えるのはやめよう。

 部屋へのアラームを鳴らすが反応はない。
 であっさりと空く扉。
 いくらなんでも警戒心が無さ過ぎな気もする。
 そんな事を思いつつベットに近づくと未だ夢の中のなのは。
 温泉の時と同じようにいつも結ばれた髪は解かれている。

 ともかく起こすとするか。
 ベットに座り

「なのは、朝だぞ」

 声をかけるが

「んにゅ~」

 起きる気配ゼロ。
 本当に朝が弱いらしい。
 まあ、昨日はアースラに来てから話をしたりと結構寝るのが遅かったから仕方がないのかもしれない。
 そして、なぜか

「にゅ~」

 頭の近くにあった俺の手にすり寄ってきた。
 なんだか起こすのがかわいそうに思えてきた。

 手をそのままなのはの頭にやり、手櫛で髪を整える様に優しく丁寧に撫でる。
 気持ちいいのか表情がトロンとしてきた。

「……なんだか起こすのがもったいないな」

 起きれば魔法という非日常の中であまえることもほとんど出来なくなる。
 ならば

「……少しだけこのままで」

 この先、なのはが一人で進める時まで俺が守ろう。
 いや、なのはだけじゃない。
 フェイトのことだってある。
 これが終わった時、二人が笑えるように俺は戦う。
 俺が目指す先はまだ見えないが、今はこれでいい。
 二人のために剣を執る。
 それだけで俺には十分だ。




side リンディ

 昨日別れる時に

「朝食をよかったら一緒にしない」

 と士郎君達を誘って、了承も貰ったのだけど起きてこない。
 銃関係の封印やアースラの他のスタッフへの顔合わせなどもあるからそろそろ起きてきてほしいところでもある。
 でも昨日、遅かったしもしかしたらまだ眠っているのかもしれない。

 そして士郎君の部屋の前に立つ。
 私が士郎君達を起こしに行ったなんて知ったらクロノがまたため息をつくのだろう。
 だけど

「個人的に士郎君の寝顔はどんなのか興味あるのだから仕方ないじゃない」

 普段、アレだけ大人びているのだ。
 眠っている時の年相応の姿を見たくもある。
 だから

「失礼します」

 小声で一応断って士郎君の部屋に入ると

「あら?」

 意外な事に部屋には誰もいなかった。
 それにベットはきちんと片付けられて、まるで使用されていない部屋みたいにきれいだ。
 だけど士郎君のカバンがあるからこの部屋で間違いない。

「なのはさんなら知ってるかしら?」

 士郎君の部屋を後にして、なのはさんの部屋に入る。
 とそこには安らかに眠るなのはさんとなのはさんの頭を丁寧に撫でる士郎君の姿があった。
 本当なら声をかけるところだけどかけれなかった。

 なのはさんを見つめる士郎君の表情が余りにも大人びて見えたから
 その姿が余りにも儚かったから

「おはようございます。
 リンディ提督、朝食の時間ですか?」

 士郎君の言葉に意識を取り戻す。

「おはようございます。
 そのつもりだったのだけど出直してきた方がよさそうね」
「すみません。今、なのはを起こすのはちょっと」

 そう言いながらなのはさんに視線を戻す士郎君。
 その眼を見てわかってしまった。
 彼は

「……失ったことがあるのね」
「……はい」

 私が無意識に零した言葉に静かに穏やかに返事をして、私を向く。

「全てを敵にまわして、大切な者の手を振り払って、剣を執った」

 私を見つめる血のように赤い瞳。
 その赤い瞳が初めて恐ろしく感じた。

「多くを救うために命を奪ってきた」

 彼は一体どんな地獄を見てきたのだろうか

「だからいざとなったら切り捨ててください」

 彼はどんな絶望を味わってきたのだろうか

「なのは達を守るために一番最初に俺を切り捨ててください」

 管理局という組織の中にいて絶望したことも何度もある。
 だけどそんなものは

「そのために俺はあなた方に剣を貸したのだから」

 彼の闇とは比ぶべくもない。
 彼の赤い瞳に映る闇はとても深く、暗く
 正常な人間では耐えることも出来ないモノ

「っ! な、なのはさんが眼を覚ましたら一緒に朝食にしましょう」

 なのはさんの部屋を慌てて後にする。
 部屋から少し離れて、壁に背を預ける。
 全身は嫌な汗に濡れ、手が、膝が、震えている。
 私は何を考えたの?

 正常な人間じゃ耐えられないモノに耐えるモノは異常者か、化け物か

「そんな……」

 頭を振り、意識をしっかりと保つ。

 だけど……あの赤い瞳が頭から離れない。

 大丈夫、いつも通り彼と接することができる。
 彼が何者かはわからない。
 過去もわからない。
 でも信じる事は出来る。
 私達が裏切らなければ、決して彼は裏切ることはない。
 だから私は彼の信用に応える様に動くだけ。
 それが私に出来ること




side 士郎

 少し話し過ぎたかも知れない。
 リンディ提督の表情は見慣れている。
 俺の本質を見た人間はだいたい遠坂みたいにあきれるか、他の人たちのように拒絶する。
 もっとも拒絶するほうが圧倒的に多く、あきれたりする方が珍しい。
 アルトは

「ずいぶんと壊れてるのね。でも、だからこそ面白いのかもね」

 なんて言っていたが。

 これでも遠坂達と一緒にいた時はまだよかった。
 だが大切な人たちの手を振り払ってからは誰かと共にいることを選ばなかった。
 命が狙われている俺と共にいれば共にいる誰かを危険に晒すことになる。
 だか、隠れて生活しながらも見捨てることができなかった。
 だからいきなり現れて剣を振るい、命を奪うというやり方で多くを救おうとした。
 その行為は化け物と変わらなかった。
 いや、戦場から戦場へ命を奪い続けるために移動を続ける正しく化け物だった。 

「にゅ? 士郎……君?」

 と起こしてしまったかな?

「おはよう、なのは」
「うん、おはよう」

 さてと、なのはも眼を覚ましたし

「さて、部屋に戻るから顔を洗って着替えて、朝食にしようか」
「は~い!」

 なのはの返事を聞き、部屋を後にする。
 なのはは俺の事を知った時、どういう反応をするのだろうか?
 拒絶するのだろうか?
 それとも……

「考えても答えは出ないか」

 この答えはそう遠くない内に出ることになるだろう。
 俺はそう確信していた。 
 

 
後書き
第二十一話でした。

にじファン時代のユーノお仕置きは今回はなしの方向になりました。

それにしても3日連休っていいですよね。
日曜日の夜もゆっくり出来ますし。

と休日の夜をダラダラしてるセリカでした。

ではでは 
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