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木の葉芽吹きて大樹為す

作者:半月
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青葉時代・逝去編

 
前書き
一代限りの英雄だけでは世界を変える事が出来ないと思うので。 

 
 『終末の谷』と呼ばれるようになった、あの場所での戦いから数年後。
 世界は一時の平安に包まれてはいた。

 しかし平穏な日常の裏側では、各国の隠れ里は軍備拡張と情報収集に勤しみ、不穏な気配を漂わせつつあった。
 下手すれば明日にでも戦端が開かれそうな、そんな危うい均衡の上に並び立つ日々。

 それでも世界が一時の平和に微睡んでいられるのは、私がしぶとく生き続けているのも原因の一つであると思う。

 ――木の葉に千手柱間あり。
 そう謳われる様になったのは何も最近の事ではない。

 他里では私は尾獣を従え、山をも砕く、一騎当千の忍びだと言われているらしい。
 まあ本当の事だし出来なくもないのだが、なんというか人の事を怪獣の様に言わないで欲しいなぁ……。

 一国一里が広がり、国の中で忍び達が争う事はまず無くなった。
 その代わりに敵を国外に求めるようになった各隠れ里は、虎視眈々とその切欠を狙っている。

 悔しいなぁ、と思う。
 出来るだけ戦火を無くそうと努めたが、結局それは叶わなかった。
 それどころか、世界がより大きな憎しみと流血を求め始めているなんて。

 ――けど。

「柱間様〜、遊びましょうよ!」
「ううん、それよりもお話をして!」

 着慣れた火影の衣装に身を包み、里を歩けばあちこちから子供達が駆け寄って来る。
 無邪気なその姿が嬉しくて、微笑みが零れ落ちた。

「いいよ。お話ししようか、何の話がいい?」
「えーとね、柱間様が昔木の葉の里を作った時の話がいい!」
「僕は柱間様が尾獣と戦った時の話が聞きたいなぁ!」

 子供達に手を引かれながら、皆で木陰を目指す。
 大きく枝を広げる木の下に並んで腰を下ろせば、遠くで心配そうに見ている人々の姿が目に入って、そっと口元に人差し指を押し当てる。

「柱間様! 最近はお加減がよろしくないのですから、大人しくしていてくださいな!」
「そうです! お前達も柱間様に無理をさせるんじゃない!!」
「コハルちゃん、ホムラ君。心配してくれるのは嬉しいけど、今日は大丈夫だよ。滅多にないほどいい気分なんだ」
「ですが……!」

 出来るだけ私の体調の事を隠そうと思ったんだけど、この里で忍びの仕事に就いている人達にはバレてしまった。
 ある日いきなり過保護になった人達の姿に苦笑が零れたのは語るまでもない。

 心配してくれる二人に手を振って、子供達と里の中を歩く。
 そうして適当な木陰に座りこんでおしゃべりに興じていれば、遠くから走って来た扉間に見つかって怒られるのも、既に日常茶飯事となっている。

「兄上! また仕事をほったらかして、外になど出て!」
「あ、扉間様だー!」
「本当だぁ! じゃあ火影様、また抜け出して来たの?」

 扉間の背後ではダンゾウ君とヒルゼン君が呆れた様に、でも少しだけ心配そうに私を見つめている。

「じゃあ、今日はここまでだね!」
「火影様、また明日!」
「じゃあねー」

 きゃらきゃらと子供達がお互いに笑い合いながら立ち去っていく。
 彼らの間には一族とかそう言う面倒なしがらみは無い。同じ子供同士、今度は何をして遊ぼうかと楽しそうに語り合っている姿に頬が緩む。

「あれほど黙ってお出かけにはならない様にと! あれほど言ったのに、全く!」
「はは。コハルちゃん達に聞いたのか?」
「そうですよ! 全く、火影様と来たらちょっと目を放せばすぐこれだ」
「油断も隙もないって、きっと柱間様の様な人を言うんだろうな」

 怒る扉間とダンゾウ君。ヒルゼン君はちょっとだけ遠い目をして、私達を見守っている。
 被っていた笠を外して、里を吹き抜ける風に髪を靡かせる。昔に比べれば大分髪も伸びたな、今では腰の辺りにまである。

「火影様! それに扉間様!」
「おや、カガミ君。扉間を探していたのかい?」
「お二人を、です! 火の国の大名からの鷹便が届いて、なんでも例の件で話がしたいとか……」
「『例の件』?」

 この間扉間の小隊に編成されたばかりのうちはカガミ君が、木陰で顔を向き合わせている私達の姿を見つけて走り寄って来る。

 訝し気に眉根を寄せた扉間に小さく笑って抱きつけば、驚いた様に皆が私達を見やる。

「な、何をするんですか!? あね、兄上!」
「んー、別に。愛しいなぁ……と思って」

 ぎゅ、と一度力を込めて、扉間から離れる。
 そうした後子供達三人も抱きしめれば、扉間が疲れた様に溜め息を吐いた。

「……私がいなくなった後の、木の葉を頼むよ」

 それぞれの耳元で小さく囁けば、三人の内の誰かが息を飲んだ様な気がした。

「火影様、今のって……」
「んー、何でも無い! 名残惜しいけど、そろそろ戻るよ」

 『火』と書かれた笠を扉間の頭に被せて踵を返せば、扉間がどこか狼狽した表情を作る。
 そんな顔しないでよ。遅かれ早かれ、いずれ来ると言う事は分かっていたんだろ?

 ――――自由になった髪を風に遊ばせながら、火影邸を目指した。

*****

 道行く人々と挨拶を交わして、慣れ親しんだ火影邸へと入る。
 大名からの手紙に返書をしたためて、ミトと一緒に午後の一服をする。

 ミトはとても綺麗になった。
 幼い頃の妖精の様な可憐さは、今では成熟した大人の女性の優雅な雰囲気に。
 そして彼女の纏う落ち着いた空気は、羽衣の様に彼女を包んで誰をも魅了させる。

「ミト。お前さ、結婚したい人がいるか?」
「は、柱間様……!?」

 真っ赤になったミトの顔はそれ自体が返事の様な物で。
 そっか、と心の底から嬉しくなる。ミトが好きになる様な相手なんだから、きっと彼女の事を不幸にはしないだろう。

「なんとなーく、相手の察しは付いているんだけど……少しばかりお姉ちゃんは寂しいなぁ」
「柱間様!」

 人柱力と言う道を選んだ彼女のこれから先の人生は、決して平坦な物ではないだろう。
 でも……。

「大丈夫ですわ、柱間様。私の中には確かに九尾がいますけど、それよりも先に私の器には注がれた物がありますもの」
「そう?」
「はい。幼い頃からずっと……私は貴方の愛情をずっと受けていましたから。九尾が入ってくるよりも、もっと前から」

 そう言って大輪の花の様な笑みを浮かべる妹の、解れた髪をそっと直す。
 きょとんとした表情は幼い頃の日々を思い出させて、我知らず微笑みが浮かんだ。

「そうか……。幸せになるんだよ、ミト」
「柱間様?」

 あの子ならきっと……ミトの事を幸せにしてくれるだろう。
 だから、大丈夫。

*****

「火影様、早く中に戻って下さい。風邪を引かれますよ」
「大丈夫、大丈夫。言ったろ、今日は気分が凄くいいんだって。もう少ししたら、オレも中に入るから」
「はぁ……。後十分だけですからね」

 夜空の星々を眺める。
 火影邸の屋上は、私が見つけた星がよく見える絶景ポイントだ。
 今宵は月の無い晩。その代わりに星々がこれでもか! とばかりに各々輝きを放っている。

 中から持ち込んだ肘掛け椅子に座り込んで、黙って星空を見上げる。
 静かで心地よい夜であったせいでどうしても瞼が重くなる。
 ――眠気に襲われて、じんわりと瞼が下がっていく最中に、とても美しいアカイロを見た。



「……やぁ、なんとなくそんな気はしていたよ」

 ふふふ、と口から吐息が零れる。
 それにしても眠たいせいか、瞼がとてつもなく重い。
 勿体無いなぁ。折角目の前にはこんなにも美しいアカイロがあるというのに、目に焼き付けておけないだなんて。

「見たか、これが今の木の葉だ。人々は一生懸命、明日を目指して生きているぞ」

 千手もうちはも、山中も奈良も秋道も。
 油女も犬塚も、志村も猿飛も日向も――それぞれ一族の垣根を越えて、人々は同じ里の仲間として暮らしている。

「残念ながら、オレの見たかった光景にまでは至らなかったけど、それでもオレは満足だぞ」

 出来れば里や国単位ではなく、それらを越えて人々が交流する姿をこの目で見たかった。
 ――けど、残念ながら時間切れらしい。

 そういうニュアンスを込めて呟けば、まるで揺らめく炎を切り取った様なアカイロが不安定に揺れる。
 ミトの赤い髪、九喇嘛の鮮血の瞳と合わせて、その色は私の好きな色だったっけ。

「お前の目、オレは結構好きだったんだぞ。綺麗だなってずっと思ってた」

 内に秘めた意思の激しさを物語る様な、炎を映した様な赤い瞳。
 彼らの黒い髪とその瞳の色が交われば、まるで暗く陰鬱な夜を破る太陽の力強さを連想させた。
 ――今だからこそ、言える事だ。

「世界平和……ちょっと無理だったみたいだ。残念だなぁ……」

 でも、大丈夫だ。
 ヒルゼン君かダンゾウ君か、それとも扉間かミトか。
 私が見ることのない、遠い未来に生まれてくる子供達の誰かかもしれない。

「オレの、私の残した遺志を受け継いでくれる者は……出て来るさ。その時こそ、世界は平和へと導かれるんだろうなぁ……」

 私はその礎だ。
 余命宣告を受けて後、里の人々と触れ合う事でそう思えるようになった。

 でもやっぱり、ちょっと残念だなぁ。
 自分の歩いてきた道に後悔なんてしないけど、もうちょっと長生きしてみたかった。

 段々と意識が闇に包まれていく。
 闇でも、冷たく凍えた感じはしない――まるで母の腕に抱かれている様な、そんな安心感さえ覚える闇だ。

 体の感覚が徐々に薄れていく中、そっと頬に何かが触れる。
 今にも壊れてしまいそうな物を触れる様に優しく、傷つけない様に慎重に――それは震えていた。

 唇が弧を描く。
 なんでか、とても心が温かかった。

「……さよなら、だな」

 脳裏に巡るのは大事な弟妹と愛しい里の人々の姿。
 今まで関わって来た人達全員に心の中で別れを告げれば、瞼の奥の優しい闇が私を招き寄せてくれる。
 その心地よさに、肩の力を抜く。

 ――――最後に、誰かが何かを呟いている様な……そんな声が聞こえた。 
 

 
後書き
とりあえず、その死だけでも安らかな物でありますように、と。
原作で初代火影がどのような死に方をしたのかはわかりませんが、ここではこうです。

本編内には書きませんでしたけど、彼女は自動治癒能力に物を言わせてかなり無茶苦茶な戦い方をしておりました。番外編でマダラとの戦いで大怪我して帰って来る話、とか考えてました。
青葉時代、あと二話です。 
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