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対決!!天本博士対クラウン

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第二百七十話


            第二百七十話  小田切君の愛読書
「それでじゃ」
「はい」
「何の本を読んでおるのじゃ?」
 博士はこのことを尋ねてきた。
「文学というがじゃ」
「泉鏡花です」
 小田切君は懐から一冊の文庫本を出しながら答えた。
「これを」
「ふむ。天守物語か」
「中々いいですよね」
 その天守物語を博士に見せたうえで微笑んで言うのだった。
「泉鏡花も」
「研究所に全集があるぞ」
「えっ、そうなんですか」
「わしは文学博士でもあるのじゃ」
 とにかく無数の博士号を持っている。それは日本だけに留まらない。
「じゃからそうした作家の全集もな」
「持ってるんですか」
「谷崎潤一郎もあれば志賀直哉も三島由紀夫もあるぞ」
「ジャンルも多彩ですね」
「当然芥川や太宰もある」
 どちらかというと博士からはイメージできない作家である。
「海外の作家のものも原語であるしのう」
「そういえば博士語学にも堪能でしたね」
「英語も中国語もスペイン語もじゃ。東南アジアの言語も大抵いけるぞ」
 伊達に知能指数二十万ではない。
「それもそれぞれの方言までもじゃ」
「コックニーもいけますか?」
 ロンドンの下町の言葉である。かなり独特な訛りで有名である。
「それもですか」
「うむ、喋れるぞ」
 やはりそれもいけるというのだった。
「ロシア語もいけるしヒンズー語もじゃ」
「本当に何でもなんですね」
「昔の言葉も知っておるぞ。帝政ローマの時代のラテン語もじゃ」
「そんなのまでなんですか」
「古代エジプトの象形文字の解読もできる。まあ言語もわしにとってはどうということはない」
 博士の異常な天才故である。
「それでじゃ」
「はい、それで」
「泉鏡花じゃな」
 話がそこに戻った。
「それの全集なら何時でも出せるぞ」
「そうですか。それじゃあですね」
「何なら全部読むか?最近暇じゃしな」
「はい、ではそれで」
 小田切君もいいと頷いた。
「御願いします」
「読書は秋だけでなくいつもするものじゃよ」
 最後にこう言う博士だった。読書量もそのジャンルも何もかもが桁外れであった。


第二百七十話   完


                 2010・3・8 
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