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戦国異伝

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第八話 清洲攻めその三


「蜂須賀正勝じゃ」
「ふむ、蜂須賀か」
「小六とでも呼べ」
 己の幼名を男に話した。
「よいな」
「わかった。では小六よ」
「うむ」
「わしの名前は木下秀吉じゃ」
 男も自分の名前を返して述べた。
「藤吉郎とでも呼んでくれ」
「ふん、御主は猿じゃ」
 しかし蜂須賀は笑って木下をこう呼ぶのだった。
「猿じゃ。どう見ても猿そっくりじゃからのう」
「何と、御主までそう呼ぶのか」
「何じゃ?この呼び名で不服か?」
「誰からもそう呼ばれておるのでなあ。弱ったことにじゃ」
「当たり前じゃ。どう見ても猿ではないか」
 木下のその顔を見れば見る程だった。まさに猿であった。しかも小柄で身振り手振りも多い。誰がどう見ても彼は猿であった。それで蜂須賀も彼をこう呼んだのだ。
「全く以てな」
「やれやれじゃな。まあいい」
「よいのか」
「まずは信長様のところへ行こうぞ」
 猿と呼ばれてもあまり気にしていない感じであった。
「今からのう」
「うむ、それではな」
 こうして蜂須賀は木下に連れられ信長の前に来た。信長は馬に乗ったまままずは下馬して己の前にきた蜂須賀を見た。そのうえで言うのであった。
「わかった」
「わかったとは」
「猿と共に斥候をせよ」
 こう蜂須賀に告げた。
「よいな、斥候じゃ」
「いきなりですか」
「それで功を立てるがいい」
 蜂須賀に対して有無を言わせぬ口調であった。
「よいな、それでじゃ」
「左様ですか。では」
「小六よ」
 信長は彼を幼名で呼んできた。
「期待しておるぞ」
「いえ、そうではなくです」
 蜂須賀はあまりにもあっさりと軍勢に入ることを認められてだ。いささか拍子抜けしながら信長に対して問うのであった。
「わしを怪しいとか思ったりは」
「怪しければこの場で斬っておる」
 信長の返答はこれであった。
「それだけじゃ」
「それだけですか」
「そうじゃ。では行くがいい」
 信長の今度の言葉は素っ気無い。
「斥候にな」
「わかりました、それでは」
 蜂須賀とその一党は青い鎧や兜を与えられそのうえで先に向かう。そうして斥候のところに入ってあらためて木下と話すのであった。
「のう、猿よ」
「何じゃ?」
「信長様だがな」
「うむ。信長様がどうされた?」
「変わった方だのう」
 こう木下に話すのだった。
「どうにもこうにもな」
「そう思うか」
「わしは新参者だぞ」
 いぶかしむ顔でこのことを話すのだった。
「そのわしにいきなりこんな仕事を任せてくれるか」
「あの方はそういう方なのじゃ」
 木下は特に動じることなくこう蜂須賀に返した。
「だから特に思う必要はないぞ」
「だからか」
「そうじゃ。わしにしろあれじゃぞ。最初は足軽で入ったのだぞ」
「それで今は何じゃ?」
「足軽大将じゃ」
 それだというのである。 
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