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木の葉芽吹きて大樹為す

作者:半月
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青葉時代・終末の谷編<中編>

 絶対に破ってみせよう。
 その決意の込められた私の拳が、マダラの纏う絶対防壁の鎧に皹を入れる。
 大きな亀裂が紫の炎を纏う鎧に走り、そのまま打ち砕いた。

 私の目の前で最強の防御力を誇る須佐能乎が破砕音を立てながら、紫の破片と成って砕け散っていく。

 ――致命打を与えるのならば、今しかない!

 相手が体勢を立て直す隙を与えずに無防備になったマダラ目がけて、土中に木々の根と絡めて隠していた幅広の刀を突き刺す。
 ――嫌な音を立てて、マダラの腹に刀が貫通した。

「ぐぅっ!」

 マダラの口の端から血が飛び散る。
 殺さなければ、殺される。
 里のため、皆のため、夢のため……ここでマダラに殺されてやる訳にはいかなかった。

 だからこそこの機を逃さず止めを刺すために、地中に隠しておいた大剣を続けざまにマダラへと放つ。
 同時に地に刺さった刀の一本を引き抜いてマダラへと肉迫した私の目の前に、黒い影が過って――そうして。

 ……ぐちゅり、としか形容し得ない不吉な音が耳に届いた。

「――うっ、ぁあっ!?」

 視界の端に、漆黒の夜空に映える赤色が散らされる。
 アカイロが視界の端で飛び散っている光景を、私は『片目』で目撃した。

 それがなんなのか、どうしてその光景を私は左目だけで見ているのか。
 それを理解した途端――……痛覚が警報をかき鳴らした。

「う、あぁ……っ!!」
「どんな強者でも、決して鍛えられない箇所と言うのは存在する……眼球もその一つだ」
「っひゅ、うあ」

 だくだくと零れ落ちていく鉄の匂いのする液体が押さえた指先の間を伝って、大地へと滴り落ちる。
 無理矢理穿たれた事による痛みと、予測し得なかった出来事への混乱が頭の中でぐるぐると巡る。

 何があった、どうして私は目を押さえて無様に呻いている? 一体何が、どうして!?
 疑問ばかりが脳裏を駆け巡る中、引き攣る喉を意識して動かして息を吐く。

 落ち着け、落ち着け、落ち着け!!
 この程度の傷は今までに負って来た物に比べたら大した事じゃないだろう!!
 冷静に現状を把握しろ、これくらいの痛みに動揺などするな!!

 ――戦場では自分を見失った方が負けだ。
 父や先輩忍者から教わった事を必死に思い浮かべて、歯を食いしばる。
 慣れ親しんだ鉄錆の臭気が辺りに漂い、喉が引き攣っては無様極まり無い悲鳴が零れ落ちた。

「流石の貴様も平静ではいられないらしいな」
「うるさ……いっ!」

 意地の悪いマダラの物言いに皮肉にも現状を理解する。
 私の放った攻撃を避けたマダラは、その瞬間に私との間の距離を詰めて、鎧に覆われている急所ではなく他の場所――つまり眼球を抉り出したらしい。

 視界に走った黒い影はおそらくこいつの伸ばした手。あの厭な響きの音は目玉が刳り貫かれた際の音……といったところか。

 ああもう! つくづく理解などしたくない事実のオンパレードだ!
 腹を抉られたりするのであれば兎も角、うちはでもない私が目を奪われるだなんて想像出来るか!
 胸中で毒を吐いて、再度大きく深呼吸をする。

 ――意地でもこれ以上の醜態は見せられない。
 腹に力を込めて、空っぽの眼孔へとチャクラを集中させる。

 引き千切られた視神経と零れ落ちる私自身の血を媒介に、細胞を再生させる治活再生の術を発動。
 その間マダラの攻撃を受けては堪らないので距離を取ったのだが、何故か追撃を受ける事は無かった。

「千手の……、いや貴様の印を使わない再生術か。つくづく忌々しい体質だな、その陽遁の体」
「――はっ! お前ご自慢の万華鏡には及ばないさ!」

 吐き捨てる響きの言葉に、私の声も自然と荒くなる。

 術が無事に発動し、窪んでいた眼孔が喪った物を取り戻す。その証拠に押さえている指先へ確かな反発が返される。
 取り戻した片目と共にマダラを睨みつけるが、生憎と再生したばかりの片目が上手く働いていない事に気付いて舌打ちした。

「人の目玉を抉り出しやがって……悪趣味だぞ、この野郎」

 引き攣る声を押さえて、肩で息を吐く。
 私の目を奪ったマダラの右手は真っ赤に染まって、今も滴る血を大地へと落としている。

 自らも腹に刀が刺さったままであると言うのに悲鳴一つ上げる事無いうちはマダラ。
 まず間違いなくその強靭な精神力は賞賛に値するね、腹立つ程に。

 ……いや、何か可笑しくないか?
 血に染まったマダラの空の右手に引っ掛かる物を感じて眉根を潜める。
 
 しかしながら次いで聞こえて来たマダラの心底忌々しそうな声に、私はそちらへと気を取られてしまった。

「片目を摘出したと言うのに……直ぐさま喪った目を再生するか。流石だな、千手柱間」
「人の目を奪いやがったお前にだけは……誉められたく、ないね……」

 再生に成功したとはいえ、涙の様に流れ落ちていく血のせいで右目分の視界が真っ赤に染まったままだ。
 ……本当に洒落にならない事ばかりしてくれやがるな、こいつ。

 ともすれば我を失いがちになる頭を必死に冷やして、冷静に状況を分析する。
 相手の腹には刀の一本が突き刺さったまま。
 対する私と言えば、片目を盗られ視界は不安定とはいえ、自動治癒のお蔭で大事無い。
 精神的にかなりの負担を与えられこそしたが、私の方がそういう意味では状況は有利ともいえる。

 にしても……木の葉を去っていた期間に、また一段と腕を上げている。
 それまでは使う事の無かった私の技や独自に開発したらしき忍術など、それまでのうちはの火遁に対するこだわりなども無くなり悪い意味で行動が読み難くなった。

 ――けど、負けられない。いや、負けない。

「お前が木の葉に害を為し、オレの守るべき物に……手を出す以上……オレは、お前には、絶対に負けられない……!」

 木の葉は私にとって守るべき物であり、失ってはならないかけがえのない存在だ。
 火影として、木の葉の里の一員として、負ける事だけは絶対に許されない。

 マダラのために死んでやる事など出来ない、絶対に。
 ここで私が死ねば、最大の障壁を失ったマダラは直ちに九尾への支配権を取り戻し、里へと攻撃を仕掛けるだろう。
 その様を容易に思い浮かべる事が出来て、私は決意も新たにマダラを睨む。

 そんな私をどう思ったか。
 自らの体から突き刺さった刀を引き抜くと、マダラは血に染まった武具を離れた場所へと放り飛ばす。
 そうしてから、くぐもった嘲笑を上げた。

「――……守るべき物、か。かつてはあったな、オレにもそんな物が」
「ああ。……背負い、この身に変えても守らねばならぬ物。お前に取って木の葉は、里の皆は、もうその対象には成らないのか?」
「一族の栄光と未来のために友を殺し弟の目を奪い……一族のためだからこそ、千手の貴様とも同盟を組んだ。だが、オレが守っていた一族の連中は――オレを捨てた」

 静かだった。
 さっきまであんなにも激しく殺し合っていたと言うのに、今ではすっかり風も凪いでいて、私達の会話する声以外に何も聞こえない。

「友も、弟も、一族も、既にオレには存在しない。守る物など何も無い。あるのは己の身一つと、千手柱間――貴様と一族に対する憎悪の念、ただそれのみだ」
「――オレも……ヒカクさんも、お前が木の葉に戻ってくるのを待ってたぞ。オレ達だけじゃない、他のうちはの人達だって……きっと」

 ――分たれてしまった道と、交わる事の無い平行線の会話。

 仲間だと思っていた。
 同じ痛みを経験した者同士、いずれは分かり合う事が出来るのだと信じていた。
 そう思いながら言葉を紡げば、マダラの表情が歪む。

「その目……」

 目? 目がどうしたのだ? 訳が分からなくて、眉間に皺を寄せる。

「貴様はいつからオレをそういう風に見る様になった……?」
「……どういう意味だ?」
「憎しみも、敵意も貴様は抱いていない。こんなにもオレは……貴様の事が憎く、殺してやりたいと思っていると言うのに……!」
「――っ!!」

 マダラの足が地を蹴って、私へと肉迫する。
 咄嗟に木遁の壁を作って、背後へと後退――それから印を組んで水遁の術を正面へと放つ。
 マダラの豪火球と私の水遁・水龍弾とが激突して周囲を水蒸気の幕で包み込んだ。

「オレがこの目で見たいのは貴様の亡骸と木の葉の滅亡!! 憐憫も同情も、オレには必要ない!!」

 その幕を蹴飛ばす様にして、マダラが私の方へと飛び込んで来る。

「なのに何故だ!? 何故貴様はそんな目でオレを見る……!」
「もう止せ! 自分がどんな具合なのか……!」
「何故そのような目でしか見ない……!? 憐れんでいるとでも言うのか!? ふざけるな!!」
 
 頭の横を狙って蹴り出された一撃を左手の篭手でガードして、そのまま身を捻る。
 軽く大地を踏みしめ体を回転させる事で心臓を狙った太刀の一撃を鎧で受け流せば、相手が舌打ちを上げる。
 私の振るったクナイが相手の鎖鎌とかち合って、火花を飛ばす。
 相手の一撃が掠め、私の額がぱっくりと裂けた。

「貴様もオレを憎めばいい! 里に攻撃を仕掛け、今ここで貴様を殺そうとしている――オレを!!」
「マダ……!? ぐ……っ!」

 その赤い目には以前垣間見た様々な感情が宿っていて、それを見て鈍い痛みが胸を刺す。
 瞳を揺らした私を見てどう思ったのか、マダラが雄叫びを上げながら襲いかかって来る。

 ああ、本当にどうしてなのだろう。
 千手の頭領であった私とうちはの頭領であったマダラ。
 共に一族の頭として一族の将来を憂えて、胸に凝る物があったとはいえ一族のために――ひいては忍界の未来のために手を結んで。
 新設された木の葉隠れの里で一族と里の皆のために、誰よりも頼りになる仲間として共に支え合って生きていけると、方針こそ違えどそれでも求める先にある未来は同じであると……そう思っていたのに。

 始まりは一緒だった筈、なのに。
 どうして私達は、ここまで引き返せない所にまで道を違えてしまったのだろう。 
 

 
後書き
たぶんきっと、サスケとナルトの病院の屋上での戦い同様に終末の谷での戦いは面白い物ではなかったのだろうなぁ、と。

奪われた細胞に関しては、六十巻の九尾の回想の場面に出てくる柱間が片目を開いていない状態だったので、目だったのではないかと。
なにせうちはは眼球保存のプロフェッショナルですし。
残念ながらマダラが柱間の細胞を奪わなければ色々と不都合が起きそうだったので、敢えて原作通りにさせていただきました。 
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