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戦国異伝

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第七話 位牌その十


「一週間後です」
「その時まで待てと仰るのですか」
「はい、そうです」
「わかりました」
 平手は苦い顔だったがそれでも頷いたのだった。
「さすれば一週間後にです」
「城においで下さい」
 こうしてこの場は何とか収まった。一週間はすぐだった。平手は白いしに装束で城に来た。まさに覚悟を決めてである。
「殿、こうなれば死を以て」
 本気であった。葬儀のそれに絶望してだ。彼はそれで最後の諫めにしようとしていたのである。
 そのうえで城に行くとだ。やけに騒がしい。
「何じゃ、朝から」
 それにいぶかしみ中に入るとだ。そこは。
「よし、それはそこじゃ!」
「そこに置け!」
「槍は持ったな!」
「鉄砲はそこじゃ!」
「全員集まったか!」
 平手が知る者達の声が次々と聞こえてきた。それでその声がする方に向かうとだ。そこは。
「何と、これは」
「おう、爺」
 何と兵達が集まりだ。陣笠を被り槍や鉄砲を持ってだ。今まさに出陣せんとしていた。家臣達も皆鎧兜に陣羽織を羽織って兵達を見ている。
 それを見て驚く彼の後ろからだ。さらに聞き慣れた声がしてきたのだ。
「遅いぞ、年寄りは朝が早いのではないのか」
「殿、これは一体」
 後ろを振り向くとだ。そこに主がいた。彼もまた既に鎧と陣羽織を身に着けていた。
「どういうことでございますか」
「見ればわかるだろう。戦に行くのだ」
「戦ですか」
「うむ、実は清洲で変が起こった」
「変とは」
「守護の斯波様が殺されたのだ」
 一応尾張の守護は斯波氏となっていた。それで尾張にもいたのだ。この時の主は斯波義銀である。織田氏は彼に仕え守護代を務めているということになっているのだ。
「信友めと坂井太膳達によってな」
「何と、あの男がですか」
「そうだ。守護様が清洲を留守にされていたその隙を見計らい城を完全に己のものとしたうえでな」
「また大層なことを」
「それでわしはそれを名分に清洲に向かう」
 不敵に笑ってこう言ってみせた。
「守護様の敵討ちだ。清洲を手に入れるぞ」
「ではこれは」
「無論その為の兵だ」
「そうだったのですか」
「そして爺」
 信長はあらためて平手に声をかけてきた。
「そなたも当然出陣じゃ」
「それがしもですか」
「当然じゃ。それとも留守を守るか?」
「何を言われますか、この政秀まだまだ」
「では来るがいい」
 優しい微笑みでの言葉だった。
「わかったな。清洲に向かうぞ」
「そしてそこにいる信友を成敗するぞ」
「わかりました、それでは今より」
「皆の者!」
 信長の大音声が轟く。
「これより清洲に向かう」
「はっ!」
「そしてですね」
「左様、守護様を殺めた逆賊共を成敗する」
 最高の大義名分であった。
「わかったな」
「では今より清洲に向かい」
「賊達を」
「あの者達は賊よ」
 敵をだ。完全に定義付けていた。
「賊を討つのは何だ」
「はっ、義です」
「正義です」
 前田と佐々がすぐに答える。
「さすればです」
「大義は我等にこそですね」
「そうだ、では行くぞ」
 また言う信長であった。 
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