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戦国異伝

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第六話 帰蝶その十四


「織田との戦いに専念するとするかのう」
「ひいては斉藤とも」
「織田信秀には今まで痛い目にも遭ってきたわ」
 義元はその公家そのものの顔に嫌悪を漂わせて話す。
「それをまとめて返してやるわ」
「そしてその息子も」
「ああ、あれか」
 だが義元の言葉はここで色を変えたのだった。
「あのおおうつけか」
「左様です」
「あんなものはどうということはなかろう」
 まるで相手にしていない調子であった。
「おおうつけではないか」
「噂によればですね」
「あ奴の代になればどうということはない」
 義元は笑って話すのだった。
「織田は終わりじゃ。その時に攻めるとしようぞ」
「ですが殿」
 雪斎の言葉は真剣そものもだった。
「それでもです」
「どうしたのじゃ?」
「織田を侮ってはなりませぬ」
 信長のことを言ってもわかってもらえぬと見てだ。家の名前を出したのである。そうしてそのうえで主に対して話をするのだった。
「若し尾張を統一すればその時は」
「尾張一国で六十万石はあるな」
「はい」
「一万五千の兵を出せるか」
 義元はすぐに己の頭の中で計算した。石高から出せる兵力はおおよそ決まっていた。彼はそこから尾張の兵を出してみせたのである。
「それに対して我が今川はじゃ」
「二万五千です」
 雪斎が述べた。
「駿河、遠江、そして三河で百万石です」
「それで一気に攻めよというのじゃな」
「若し尾張が統一されていれば」
 その場合について話す。だがこれは雪斎の頭の中では仮定ではなかった。彼は信長が信秀の跡を継いだならばすぐさま尾張を統一すると確信していたのだ。
「その時は」
「今川の全ての兵でじゃな」
「攻めるが宜しいかと」
「そうじゃな」
 義元もこのことには頷くのだった。
「それはそうじゃな」
「はい、ではその時は是非拙僧が先陣を」
「そこまでするというのか」
「一万五千の兵、決して少なくはありませぬ」
 兵に話を置いて話す。やはり信長は話には出さなかった。
「ですからここは」
「よし、ではその時は和上に先陣を任せよう」
「はっ」
「そしてじゃが」
 義元はここでさらに言うのであった。
「もう一人先陣を任せたい者がおるが」
「松平ですね」
「竹千代じゃ。どうじゃ?あれは」
 義元の顔がここで少し崩れた。
「あれはよいとは思わぬか。馬も刀も泳ぎも見事じゃ」
「確かに。どれを取っても素晴しいものです」
「おまけに頭もいいのじゃな」
「教えたことはすぐさま覚えます」 
 雪斎は主に問いにその通りだと返した。
「学問なら何でもです」
「それはよいのう。氏真は歌や政のことはすぐ覚えるのじゃがな」
「兵法についてはどうも弱く」
「わしもそういうところはあるが」
 義元の顔が暗いものになった。
「あれはわしに似たのか」
「殿、そういうことは言われぬべきかと」
「左様か」
「しかしその時はです」 
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