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久遠の神話

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第一話 水の少年その七


「御前なんかがな」
「けれど暴力は」
「教師はな、偉いんだぞ」
 まだこんなことを言う男だった。
「その俺が何してもいいだろうが」
「だから暴力を振るわれたんですか?」
「そうだよ。悪いかよ」
 男は言いながらだ。上城に近付いてくる。それを見てだ。
 上城は身の危険を感じた。それで身構える。
 しかしここでだ。彼の後ろからだ。
 声がしてきたのだった。その声は。
「おいおい、今度は通り魔かい?それとも絡んでるのかい?」
「手前は」
「あんた、本当に屑だね」
 その大学の剣道部で圧倒的な強さを見せていた。男がだ。上城の後ろから出て来たのだ。上城は彼の姿を見て教えてもらった名前を口にした。
「確か」
「ああ、中田っていうんだ」
 彼の方から名乗ってきた。
「有名人みたいだから覚えてくれよ」
「はあ」
「で、あんたは下がっておいてくれ」 
 こう上城に言うのである。
「ここは俺がやるからな」
「貴方がですか」
「この太ったおっさんはな」
 その目の前の濁った男を指差して言うのである。
「人間の屑なんだよ」
「人間の屑って」
「社会に不要なダニとも言おうか?」
 中田は男を見ながら言うのだった。
「部活で聞いてただろ。ほら、あの」
「あの生徒に暴力を振るってたっていう」
「その暴力教師だよ。元な」
「元ってつまりは」
「俺に叩きのめされてそれでな」
 それでだというのだ。さらにだ。
「今までの悪事がばれて懲戒免職になったんだよ」
「そういう人なんですね」
「で、今は落ちぶれてな」
「こんな風になってるんですか」
「まあよくいる社会不適格者さ」
 学校の教師には多い。悲しいことに。
「そういう奴なんだよ」
「そうなんですか」
「ああ。それでな」
 それでだとだ。中田は上城にあらためて話す。
「多分八つ当たりで誰彼なく殴りに出てたんだな」
「誰彼なくって」
「その竹刀が何よりの証拠さ」
 そのだ。竹刀がだというのだ。
「この屑にとっちゃ竹刀ってのは人を殴る為のものでしかないんだよ」
「それって」
 それを聞いてだ。上城もだ。
 眉を顰めさせてだ。こう言うのだった。
「間違ってますよ」
「あんたはそれがわかってるんだな」
「剣道は己を律するものですから」
 その真面目な考えをだ。彼は中田にも話した。
「そんなの間違ってますよ」
「そうだよ。それはな」
「はい、剣道をする資格がありません」
 毅然としてだ。上城は言い切った。
「人間として最低です」
「というか最低って言葉もまだ甘いけれどな」
「そこまで酷い人なんですか」
「だから俺も叩きのめしたんだよ」
 その元教師を見据えながらの言葉だった。 
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