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その男ゼロ ~my hometown is Roanapur~

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#35 "Blessing for met you"

 
前書き

コンティニューだ。




 

 
【11月2日 PM 1:11】

Side シェンホア

張大兄との面会を終えた後、 街の調査を兼ねた買い物を済ませた私は用意してある隠れ家(セーフハウス)へと戻ることにしました。
三合会所有のビル内にあるこの部屋は、二年程前に組織から貸与されたものです。
ロアナプラに滞在する必要がある時は基本的にここを利用することにしています。
三合会の依頼外でも利用を許可されているのは大兄の寛恕故か、私の組織への貢献を評価して下さって故かは分かりませんが。

結果として今回は大兄からの依頼を受ける形になりましたので、昨日は一旦この家に泊まってから、改めて大兄の許へと挨拶へ向かったのです。
………私一人で。

目覚めた時には共に休んでいたはずのロットンの姿は部屋の中には見当たらず、置き手紙すらありませんでした。
(一応申し上げておけば私とロットンとの間に "そういう関係"は成立しておりません。
私もそれなりに人生経験は積んでおります。
今更貞操云々なぞ持ち出す気は微塵もございませんが、ケジメは必要です。
向こうも特に"それ"を求めてくるわけでもありませんしね。
だからこそ相棒関係が成り立っているのかもしれませんが)

相棒の風来坊さには慣れていたので、特に気にも留めずに私も身支度を済ませ、出掛ける事といたしました。
ロットンが大兄の前で余計な事を言わないだろうか。
そんな心配をする手間が省けたので、かえって良かったのかもしれない。
鍵は互いに持っているのだし、その内部屋に戻ってくるだろう……

そう思っていた時期が私にもありました。

私は大事な事を失念していたのです。

ロットンという男は私の浅はかな予測など容易く裏切ってくれるという事を。
彼の行動理念は私には決して理解出来ないであろう事を。

そして……

「………で、その女は一体誰ね?」

私は部屋のリビングで並んでTVゲームをしている二人に向かって、と言うよりロットンに向かって尋ねます。
二人はモニターに夢中で私の言葉にも振り向こうともしません。
画面の中では黒いコートを纏った銃遣いの男 と、やたらフリルの多いピンクと白の衣装を 身に纏った少女とが闘っています。

(わざわざ持って来たのですね……)

ロットンという男は無類のゲーム好きで、知り合った頃は私もよく付き合わされました。
今やっているゲームも彼がこの街まで持って来たものなのでしょう、きっと。
(仮にもプロのプレイヤーである私には、この格闘ゲーム?というものの面白さが全く理解出来なかったので、すぐに彼一人でやる事になりましたが。
銃弾を何発も浴びておきながら、 平気で立ち向かってこられるのは……)

画面を睨んだまま膝を抱えるように座って、ただ指先だけを激しく動かす二人にそれ以上話し掛ける事はせず、私は台所へ赴き昼食の準備を始める事としました。

どうせロットンは私の話など聞きはしません。
久し振りにゲームで対戦出来る相手が見付かったのですから尚更でしょう。
しかしまあ、何処から拾ってきたのやら。
あんな幼い女の子を……

今回ロットンが連れ帰って来たのは、黒髪に黒のゴスロリ風衣装を身に纏った小柄な体躯の女の子でした。
彼と一緒にいると言う事は彼女にも事情があるのでしょう、何かしらの。

"今回"と言ったのには理由がありまして、過去に何度も似たような事があったのです。 ロットンが理由(わけ)ありの女の子を助けるという事が。
女の子の方で彼を求めるのか、彼がそういう子を助けたがっているのか。或いはその両者の思惑が運命とやらを呼び寄せているのか。
神ならぬ人の身では与り知らぬことではありますが。

何を隠そう(全く恥ずかしながら)私も彼に救われた一人ではあるのです。
欧州でとある仕事を引き受けた際、幾人かで組んだチームの一人にロットンがいたのであります。
結論から申さばその依頼は失敗に終わり、チームは私とロットンを遺して全滅いたしました。
依頼主が土壇場で裏切ったらしいというのが後から知った失敗の理由です。
この世界ではままある話ですが。

標的のいる筈のホテルに侵入するや、マシンガンで武装された殿方の熱い歓迎を受けた我々は壁の花ならぬ、壁に華を咲かせる存在と相成りました。真っ赤な血の華を。
私も淑女の端くれとして壁の花とも華ともならぬように振る舞ったのですが、気が付けばホテルから遠く離れた路地裏で、己の腹に赤い華を咲かせておりました。

自分自身の過去の罪業を振り返る事もなく、黄泉路への旅を夢想していた私の目の前に差し出されたのが、ロットンの白い手でありました。
放っておいてとっとと逃げろと告げる私に、

"自分の目の前で女の子に死なれるのは気分がいいものじゃない"

そう言って私を引っ張りあげて、肩を貸して歩き出したんです。ロットンは。

その時、血が足りずにボンヤリとする頭で私はこう思いました。

"こいつは真正の馬鹿だ。とても長生きは出来ないだろう"と。

その後退院した私はロットンと相棒のような 形になり、今に至るというわけです。
それなりに長い付き合いになりますが、 ロットンという男の印象は今も変わりません

やたら女に甘い馬鹿で、面倒事ばかりもってくる奴。
何を考えているのか全く分からず、分かろうともしたくない相手。
本人は大真面目なのかもしれないが、傍からはただの可哀想な子にしか見えない。

そんなところでしょうか。
我ながらよくもまあ、相棒として付き合っていけるものだと自分でも感心するほどです。 今彼の隣にいるゴスロリ少女もきっと面倒事を運んでくるのでしょう。
全く困った相棒です。
でもまあ、

「退屈だけはしないんですだよ」

一向に上達しない英語で発せられた独り言は彼等の耳に入る事はないでしょう。
あれだけゲームに夢中になっていれば……










その後、昼食が出来上がり食卓に二人を呼び少女(と呼ぶべきでもないか)と話をした際、彼女があの"始末屋ソーヤー"だと分かった時は言葉を失いました。

貴女そんな顔してたんですね、ソーヤー……







 
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