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戦国異伝

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第五話 初陣その五


「政も見事だが。人を選ぶ目もだ」
「素晴しいものです」
「ではこの戦は」
「間違いなく勝てる」
 柴田は多くの戦場を生き抜いてきた勘から述べた。
「よいか、この戦勝つぞ!」
「はっ、それでは!」
「少しでも多くの敵の首を!」
「挙げよ、勝って織田の名を知らしめるのだ!」
 柴田も自ら大刀を抜いた。そのうえで戦場を荒れ狂う。そしてそこにだ。
 柴田と滝川の軍に押される今川勢の横にだ。突如として鉄砲が撃ち込まれた。
「なっ、何だ!?」
「いきなり。どの軍だ!」
 彼等はそれに動揺した。そこにだ。
 山からだった。信長率いる主力が一斉に駆け降りてきたのである。青い軍勢が緑の山から出てだ。そのうえで襲い掛かってきたのである。
「それ、一気に踏み潰せ!」
 信長はその軍勢の先頭に立ち叱咤を飛ばした。
「青い鎧と兜の者は味方ぞ、わかるな!」
「はっ、無論です!」
「よくわかります!」
 すぐに前田と佐々から声が返ってきた。
「作用ですか、この為にですか」
「青い鎧と兜に」
「それもある」
 信長は不敵に笑って二人の言葉に答えた。
「戦場で同士討ち程詰まらぬものはないな」
「はい、まことに」
「その通りです」
 今度は河尻と前野が答えた。
「ではその為にもはっきりとわかる色にですか」
「統一されたのですね」
「青は織田じゃ」
 信長は言い切った。
「これから織田の色になるのじゃ」
「そしてその青が今川の軍勢を倒す」
「今より」
「左様、ではかかれ!」
 また命じる信長だった。
「敵は権六と久助の攻撃を受けて怯んでいるうえに今の鉄砲で浮き足立っておる!」
「はい、では殿今より」
「全軍で」
「そうじゃ、わし等も行くぞ」
 傍らに来た林兄弟にも告げた。
「この戦い貰った!」
 法螺貝も高らかに吹かれ今織田の総攻撃がはじまった。これにより今川は総崩れになった。彼等は為す術もなく倒されていく。
 その中で黒母衣衆の者達も赤母衣衆の者達も暴れ回る。そしてこの男もだ。
「行くぞ松風!」
 前田慶次であった。彼は黒い見事な馬に乗り巨大な朱色の大槍を操りだ。今川の兵を次から次へと薙ぎ倒していた。
「この武辺の戦いを見せてやるのじゃ!」
「大きく出たな慶次!」
 前田がその暴れ回る彼に対して言ってきた。彼もまた巨大な槍を縦横無尽に振り回し敵を右に左にと吹き飛ばしている。
「武辺とな!」
「おお、叔父御まだ生きておるか」
 慶次はその叔父に顔を向けて笑って言葉を返した。
「それは何よりじゃ」
「抜かせ、この程度の戦で死ぬものか」
 言いながらまた敵兵を一人倒す前田だった。
「それよりもじゃ。武辺とな」
「うむ、『ふべん』じゃ」
 ここで慶次は笑ってこんなことを言った。
「わしはふべん者じゃ」
「ふべんとな」
「戦のない場所では何もすることがない。だからふべんじゃ」
「何を言うか、戦のない時は悪戯ばかりしておるではないか」
 すぐにこう突っ込みを入れる叔父であった。 
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