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久遠の神話

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第十一話 意外な素顔その二


「見るのもな。けれど匂いがちょっとな」
「匂いがきついからですね」
「家には犬と猫がいるけれどな」
「あっ、そうだったんですね」
「犬はブリヤードで猫は三毛の雑種だよ」
 中田は目を自然と細めさせてこの話をはじめた。
「両方共メスでな」
「そちらは大丈夫ですか」
「犬や猫の匂いは。慣れてるからな」
 それで大丈夫だというのだ。
「今じゃ俺の数少ない家族だよ」
「なんですね」
「大切だよ、家族は」
 中田は寂しげな顔も見せた。彼の家族を想ってのことだ。
「別れはあるにしてもな」
「そう無闇にはですね」
「誰も別れたくないだろ」
「はい」
 その通りだとだ。聡美も頷く。
 そうしてだ。彼女は中田にこんなことを話してきた。
「私は実はです」
「あんたは?」
「兄がいます」
 話すのはこのことだった。
「双子の兄が」
「お兄さんいたのか」
「今はギリシアにいますが」
 それでもだ。兄はいるというのである。
「その兄とはいつも一緒にいました」
「仲がよかったんだな」
「はい。対になる存在でしたし」
「双子でお兄さんだとそうなるよな」
 中田はそう思うだけだった。聡美の言う言葉を普通に認識しただけだからだ。
 それでこう応えた。その彼にだ。
 聡美は今度はだ。こう話したのだった。
「そして兄の他にも」
「お姉さんでもいるのかい?」
「それに近いです」
 そうした相手もいるというのである。
「血を分けた兄弟にも等しい方がいます」
「へえ、そうなんだ」
「そしてその方は」
「今ギリシアかい?」
「いえ、この国にいるようです」
 一瞬だけ視線を横にやってそれを戻してからの言葉だった。
「そう聞いています」
「日本にかい」
「何処にいるのかはわかりませんが」 
 今葉そう言うことにしてだ。聡美は中田に話す。
「日本に」
「そうなんだな」
「はい、できれば御会いしたいと思っていますが」
「じゃあ会えればいいな」
「そうですね。その時を待っています」
 切実な顔になって中田に話す。やや俯いたうえで。
 そうした話をしてだった。二人は厩舎の前にいてだ。そこからだ。
 広瀬を探す。しかしいるのは馬達だけで人はいなかった。それを見てだ。
 中田は残念な顔になり聡美に述べた。
「いないな」
「はい、どなたも」
「まあ考えられることだけれどな」
 探している相手がいない、そのことはというのだ。
「けれどそれでもな」
「そうですね。ここは何としてもあの方に御会いして」
「で、何処にいるんだ?」
 中田はいぶかしみながら周りを見回す。ここでだ。
 二人の傍にだ。乗馬服の若い女が来た。彼女を見てだ。
 中田はすぐにだ。こう彼女に尋ねたのだった。
「あのさ、いいかな」
「はい。何ですか?」
 女も彼の言葉に足を止めて問い返す。その彼女にまた言う中田だった。
「広瀬友則って奴いるよな」
「ああ、広瀬君ですか」
「あいつ今日乗馬部に来てるかな」
「はい、来ています」
 その通りだとだ。女は中田に答える。 
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