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久遠の神話

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第十話 偶発戦その四


「俺は先程の分身ではなくだ」
「本体だからか」
「そうだ。話せるのだ」
 宙を漂いながらの言葉である。今炎は消えている。
「だがそれを見てもか」
「全く驚きはしないというのだな」
「何度も見てきたか。我等が喋ることを」
「そういうことだ。今更驚くことはない」
 まさにそうだとだ。工藤も返す。
「貴様等のことはな」
「よくわかっているのか」
「そうだ。そしてだ」
「そしてか」
「宙にいることができるのは貴様だけではない」
「俺達もなんだよ」
 工藤だけでなく高橋も言ってきた。そうしてだった。
 二人は階段を登る様に足を上に踏み出しだ。それからだ。
 宙に上がった。瞬く間に怪物と同じ高さまで来た。そのうえで対峙してだ。
 彼等はだ。怪物に対して言った。
「こうしてだ」
「上から攻められても対処はできるのさ」
「剣の力をそこまで出しているのか」
 そうしたことができるのもだ。剣故だというのだ。
「かなりの強さだな」
「少なくとも並の強さならさっさと死んでただろ」 
 高橋はオルトロスの今の言葉にこう返した。
「違うか?それは」
「確かに。そうだな」
「じゃあ話が早いな。じゃあ行くか」
「面白い。相手にとって不足はない」
 こう言ってだった。怪物は再び。
 その口からだ。虹色の炎を出してきた。その炎でだ。
 工藤と高橋を襲う。しかしその炎もだった。彼等はこう返すのだった。
 岩と雷を出してだ。それで弾き返す。それで防いだのだ。
 それを見てだ。怪物は再び面白そうに話した。
「いい感じだな」
「面白いか」
「戦いが面白いというんだな」
「俺は兄弟とは違う」
 この場合はケルベロスだ。その彼と比べての言葉だった。
「戦いを楽しむのだ」
「だが貴様も番犬ではなかったのか」
「確かに。俺もまた番犬だった」
 三身一体の巨人ゲーリュオンの番犬を務めているのだ。ギリシア神話においてはそうなのだ。工藤はそのことを言ったのである。
「しかしその番犬の仕事の中でだ」
「戦いを好んでいるのか」
「如何にも。そのことは言っておこう」
「わかった。しかし」
「しかしか」
「俺は戦いは好まない」
「俺もなんだよな」
 工藤だけでなく高橋も言う。
「だからな。そっちの趣味にはな」
「付き合うつもりはない」
「こんな戦いさっさと終わらせるぜ」
「それでいいな」
「下らないことを言う奴等だ」
 怪物は彼等の言葉を聞いてだ。つまらなさそうに述べた。
 そしてそのうえでだ。二人にこうも言ったのだった。
「しかしそれならだ」
「どうするのだ」
「戦いを止めるつもりはないんだよな」
「俺だけで楽しませてもらうか」
 これが彼の返答だった。
「あんた達を倒してな」
「そうして楽しむというのか」
「戦いを」
「そうさせてもらう。では行くからな」
 この言葉と共にだった。怪物はその身体を屈めさせて。全身に彼の炎、虹色の炎を出してまとった。そしてそのうえでだった。
 駆けた。そして跳んだ。そうしながら。 
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