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その男ゼロ ~my hometown is Roanapur~

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#29 "homecoming"

 
前書き

撃っていいのは撃たれる覚悟のあるやつだけ?

一々そんなこと考えてられるかよ。

覚悟がねえって言うんなら、そのまま死んでいけ。




 

 
【11月2日 AM 3:33】

Side レヴィ

子供(ガキ)殺し、ねえ……」

ベッドの上で胡座をかき、煙草を(くゆ)らせながら一人呟く。
シャワーを浴びて未だ湿り気の残る髪を軽くかき上げる。
長く伸ばしっ放しの髪は水を含んで、結構な重さを感じる。
最近は考え事するときに、こんな風に髪を触るのが癖になった。
昔は考え事なんて面倒臭えことする気もなかったけど。
何も考えずにただ暴れていただけだったけど。

あれから『イエロー・フラッグ』を出て、ベニーの車でアパート近くのストリートまで送ってもらった。
運転したのはゼロのやつ。
ベニーは色々ありすぎて運転どころじゃなかったんだろう。
アタシが店を出るかと提案した時は、黙ったままキーを差し出してきた。
カウンターに臥せったままだったから顔は見えなかったけど、さぞかし酷い面になってたんじゃねえのかな。
店出る時もずっと下向いたままだったからな……
さすがに可哀想過ぎて掛ける言葉が見つからなかったよ。
あたしは先に車降りちまったけど、 ゼロの奴ちっとはフォローしたのかな?

……アイツの考える事はとことん分からねえ。
どこまで真面目で何処からが冗談なんだか……

でもまあ、

視線をデスクの上に置いたホルスターに入ったままのカトラスに固定したまま、脳内でポツリと呟く。

アイツが襲撃されたってのはマジだろ。今街を騒がしてる連中にな。

灰皿を手元に引き寄せ灰を落とす。
また唇に挟んで煙を肺へと入れる。
体ん中でニコチンとアルコール、そしてアドレナリンが混ざり合い、何とも言えねえ気分になる。

これは麻薬(ドラッグ)なんぞじゃ味わえねえ。
あんなもんに頼るやつはクソだ。そんな紛い物なんざどうでもいい。
鉄火場の中でテメエの命懸けて掴み取るもの。それだけが本物だ。
それでこそアタシは熱くなれる。拳銃遣い(ガンスリンガー)だからな。

あの馬鹿は未だアタシの事が分かってねえ。
それなら教えてやらなきゃいけねえよな。相棒として、しっかりと。

口角が上がる。
鏡を見なくても分かる。今アタシは笑ってる。
こんな薄汚え街の小汚え部屋の中、真夜中の真っ暗闇の中でアタシは独り笑ってる。
その笑いが自分の事を知らねえ相棒に向けられたものか。
その相棒を襲ってくれたガキ共に向けられたものかは、自分でも分からなかったけど。

相手が子供(ガキ)だから?
それがどうした。

あたしにガキ殺しはさせたくない?
何のジョークだ、そりゃ。

ガキを殺す事は大人を殺す事とは違う?
何が違う。
第一向こうは殺る気なんだろうが。

もう何人殺してんだ?
そのガキ共はよ。

人殺しにガキも大人もねえ。少なくともあたしの目の前に立ちゃあ、何の違いもねえ。
そんなもんただの標的でしかねえ。殺られる前に殺るだけだ。

人を殺しておいて自分は殺されたくねえなんて巫戯けた理屈も認めねえ。
それこそ人類皆平等。
神は等しく子供らに接したもうってやつだ。

他人(ひと)に銃向けるって事たあ、自分にも向けられるっていう覚悟を持たなきゃいけねえ。
こんなクソッタレの街でも通用する数少ないルールだろ、それが。

短くなっていた煙草に気付き、灰皿に押し付け、新しい一本に火を点ける。
今夜は未だ眠らない。

未だガキ共が襲撃犯だってのは、姉御も旦那も気付いてない。
ゼロも特に自分から言うつもりはないらしい。
アイツは裏でゲームを仕組んで楽しむタイプじゃねえ。
言わないって事はそれなりの理由があるはずなんだ。
まさか、ガキ共を逃がすつもりか?
……それはねえか。いくらなんでもそりゃあヤバ過ぎる。
ホテル・モスクワと三合会を敵に回す事になっちまう。
それにアイツは安っぽい同情なんぞで動く男じゃねえ。

だとすると、ガキ共の裏が狙いか?
確か、ガキ共を援助してる存在については確認出来なかったって言ってた筈だ。

全く見当がついてねえのか、確証が持てないだけなのか……

アイツは慎重に事を進めたがるからな。迂闊に手え出したらマズいと見たか……

ラグーン商会(うち)はダッチの考えもあって中立を保ってる。
外の勢力が絡んでるにせよ、街の中の連中が絡んでるにせよ、抗争には巻き込まれたくない、と。
そう考えたか?
これは有り得る話だな。

アタシが奴の話を聞いてて一番引っ掛かてたのはそこなんだよな。

"何でゼロほどの男が一発も撃たずに、ただ逃げ回ってたのか"

その後ガキ共と仲良くお喋りしてた、なんてのはどうでもいい。
どうせイカれたガキ共だ。ただの気紛れでも起こしたんだろ。

けどゼロのその態度は気になった。
万が一にもねえと思うけど、相手が子供だから撃てませんでした。なんて巫戯けた理由だったら……

迷わずカトラスの9mm弾を野郎の(ドたま)にぶち込んだだろうな。二挺分ありったけ。

ただ最後の様子を見る限りじゃあ、そんな機会は来ねえかな。
店でバーボン飲み干した時の野郎の眼。
正直ゾクッと来たぜ。相棒じゃなけりゃあ、マジで闘り合いてえって思ったほどだ。

デカいパーティか………
上等じゃねえの。派手に踊らせてもらうぜ。

ゆっくりと髪の間に指を通す。不思議と熱く感じられる髪は何だかとても心地良かった……













【11月2日 AM 2:58】

Side ロック

部屋に戻ってきた俺が一番にしたことは顔を洗う事だった。
ふらっと散歩に出たお陰でハンカチも持って出なかったからな……
さぞ酷い顔を晒していたことだろう。
あの子達も呆れたんじゃないかな?
特に何も言われなかったのは優しさからか?
見た目よりも大人だろうしね、 精神的には俺なんかよりもずっと。

家まで送っていこうかという俺の提案は アッサリと断られた。
曰く、秘密の冒険は無事家に帰ってこそ完結するのだそうだ。誰の力も借りることなく、二人だけで。
全く逞しい子供達だ。
結局その場で手を振って別れる事にしたのだけれど、弾むように歩く二人は本当に幸せそうだった。
笑顔を浮かべ手を繋いだまま去り行く彼等を見送りながら、俺の心まで暖かくなっていくようだった。

洗面所に入り叩きつけるように水で洗った後、鏡で確認した顔は多少はマシなものに見えた。
あくまで多少はだけど。
水が滴り落ちるその顔は何と言えばいいのか、憑き物が落ちたようというのは言い過ぎだろうか。
やたら締まりのない情けない男の顔を見るっていうのはそんなに楽しい事じゃない。

あとその時、頬から顎にかけて流れる水に若干の赤い色が混じっているのに気付いた。
指で触ってみても特に傷があるわけでもなし。当然何処かで血を流したような覚えもない。
気にはなったが、まあ虫にでも刺されたのだろう。そう思う事にした。
別にあの二人とは関係ないことだろうし。

タオルを手に取り顔を拭き終わると、もう鏡を見ることもせずにそのまま洗面所を出た。

寝室に入るや否や、シャツとズボンを脱ぎ捨て床に撒き散らす。
ランニングとパンツ姿になり、そのままベッドに倒れ込んだ。
軽く軋む音が聞こえる。
貰った中古品のやつだから、あまり乱暴に扱わない方がいいかな?
まあ、今夜くらいはいいか。

頭の奥に鈍い疼痛を感じるが不快ではない。
眠りに入る予兆だろう。
全身を倦怠感が包む。
今夜は漸く眠れそうだ。
夢を見ることもなく、ぐっすりと。

今夜偶然出会えた子供達の顔が脳裡に浮かぶ。
あの二人には感謝しなきゃいけない。美しい髪と優しい笑顔を持ったあのふた……

そこまで考えてふと気付く。
結局あの双子の名前すら聞いてなかった事に。
彼等の事情にまで踏み込むつもりはないし、またそんな事出来るはずもないけれど。
名前くらいは聞いておきたかったな。

また会えるだろうか?
別れ際には確かにこう伝えた。 「ありがとう、またいつか」と。
ロアナプラはそんなに広い街じゃない。
ましてあんな可愛らしい二人だ。
探す事もそんなに難しい事ではないだろう。
会おうと思えば、また会える。そう信じるとしよう。

そう言えば俺だって名乗っていなかったな。
聞かれもしなかったけど。
ただ「おにいさん」と呼ばれただけだ。

何でだろう……
あの二人には言いたくなかったのか……
未だ・・・に成りきれていないから。
この街の住人だと胸を張って言えないからか。

もし、次にあの二人と出会ったら……

その時は何て言おう?
俺は誰だと名乗ればいい?
"岡島録郎"でもない。
"・・・"でもない。
俺は何と名乗ればいいのだろう。

それも自分で決めれば良いのか?
自分で考えて、自分の好きな様に、勝手にやっちまえばいいのか。
そういうものなのか。
新しい名前を付けたとして……
・・・はどうなる?
・・・はもう死んだのか。
生まれてすらいないのに。
今度は俺が殺すのか、・・・を。

レヴィが以前言っていたな。
ロアナプラ(この街)は歩く死人達の街。まともな奴なんて居やしない。それは"アイツ"でさえも。

じゃあ、いよいよ俺もこの街の住人になれる資格を得たのか。
何もかもを諦める事が条件だというならば。

……俺はまだ諦めきれない。
・・・になる事も。
ラグーンの一員である事も。
"アイツ"と向き合う事も。

頭の中に(もや)がかかり出す。
これ以上考え事は無理かな、今夜は……
眠ろう ゆっくりと、深く、深く。
今はただ、あの二人に感謝しつつ。 後は起きてから決めればいい。

朝になって、太陽の光を浴びて……事務所に…行って…… みん…なに……あいさ…つして………そ…れ……から……………………… ……………………………………………… ………………………………………………… ……………………………………………………





















Side 双子

ねえさま この街は本当に面白いね

ええ そうね にいさま 本当に面白いわ

あのおにいさんは"いい人"だね

だから歌を聞かせてあげたのよ 初めてだわ にいさま以外の人の前で歌うなんて

今夜も素敵だったよ ねえさま

ありがとう にいさま

あのおにいさんともまた会えるかな?

会えるわ きっと

また会えたら"お礼"をしてあげようか

それもいいわね

でも"外"だと寒いかな?

寒いのは嫌よ わたし

おにいさんは残念だね "お礼"はもらえそうにないかな

仕方ないわ 寒いのは嫌だもの

ふふふ

ふふふ

次は何処へ行こうか ねえさま

何処がいいかしらね にいさま

次は誰を殺そうか ねえさま

誰がいいかしらね にいさま

街には"黄色"が目立ってたね

"あの人"が話したのよ きっと

最後に食べたいものは決まっているんだけどね

まだ早いわ  街にも もっと火がまわってくれないと

生焼けはお腹を壊すからね

ええ しっかり焼いてからじゃないと

あはは

あはは

楽しいね ねえさま

楽しいわね にいさま

愛しているよ ねえさま

愛しているわ にいさま













 
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