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戦国異伝

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第四話 元康と秀吉その十二


「織田の兵、いえ尾張の兵はです」
「それは変わらぬか」
「残念ですが如何ともし難いです」
 こうまで言うのだった。
「鍛えようとしてもちょっと厳しくすればへばってしまいますし」
「ううむ、本当に変わらぬな」
 信長も自分の兵が弱いのはよくわかっていた。織田といえば弱兵というのはだ。最早天下に轟いてさえいた。そこまで弱いのだ。
「それはまた」
「それでどうされますか」
 前田の言葉が実直なものになった。
「兵達を。どうされますか」
「殿、ここはです」
 信長の家臣達で最も血の気の多い者が出て来た。柴田である。
「軟弱な兵達を叱り飛ばしそのうえでびしびしと」
「権六、御主がやるというのか」
「御言葉とあらば」
 主のその言葉を待っていたかのような口調である。
「そうさせてもらいます」
「止めておけ」
 即座の否定だった。
「御主の怒鳴り声は敵だけでなくあの連中も震えさせるわ」
「しかしです」
「そこまでせずともよい」
 柴田に対してこうも話す。
「そこまではな。よいな」
「ではどうされるのですか」
「結局あれじゃな。百姓の次男や三男を引っ張ってきても所詮は百姓」
 信長が言うのはこのことだった。
「やはり田畑で働かせるのが一番じゃ」
「では百姓に戻しますか」
「戻りたい者はそうさせよ」
 信長は実際にこう言った。
「そしてじゃ。残った者をまず鍛えよ」
「残った者をですね」
「百姓に戻らずに足軽にいたいというのなら遠慮はいらぬ」
 その場合はというのだった。
「そうした者はじゃ。遠慮なく鍛えるのじゃ」
「はい、それでは」
「そしてその兵を戦の場に出す。これからはそうしておくぞ」
「ですが殿」
 今度は丹羽だった。
「強い兵を作るのはいいのですが」
「それをしたら兵が減るな」
「間違いなく」
 丹羽は厳かに告げた。彼はこのことを気にかけていた。
「兵が少なくては。それでは」
「何、兵は雇え」
 信長は素っ気無く答えた。
「なりたい者をな」
「といいますと浪人を多くですか」
 林がそれを聞いて述べた。
「そうなると見受けられますが」
「その通りだ。浪人でも誰でも兵になりたい者を雇いそのうえで強兵とする」
「ふむ、左様ですか」
 それを聞いて最初に頷いたのは河尻だった。
「成程」
「どう思う?」
 信長はあらためて家臣達に己の考えの是非を問うた。
「それはじゃ」
「わしはいいと思います」
 河尻はまた言った。
「それで」
「そうか。鎮吉はよしというのじゃな」
「強兵が集まればそれに越したことはありません」
「そうですな、確かに」
 次に頷いたのは金森だった。
「弱兵なぞ。幾らいても仕方がありませぬ故」
「確かに。ただ」
 ここで異論めいたことを述べたのは村井だった。
「一つ問題があります」
「人が集まるかどうかだな」
「そのことにも考えが及んでいましたか」
「無論。人が来てこそじゃ」
 やはりそれは充分にわかっている信長だった。既にという声と目だった。 
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