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ソードアート・オンライン~漆黒の剣聖~

作者:字伏
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フェアリィ・ダンス編~妖精郷の剣聖~
  第四十四話 王の名

一月八日

SAO帰還者を対象にした定期健診を京都にある病院から東京の病院へと変更したいと行きつけの病院の結構親しい仲にある担当医に相談した結果、渋りに渋っていた彼だが最後には折れ、東京にいる知人へと紹介状を書いてもらえることとなった。今回はその紹介を得た東京にあるとある病院へと通院する手続きと挨拶を含めた定期健診を行うためにその件の病院へと足を運んでいるのだが、そこで予想外の人物と出会うこととなった。

「はい、これで手続きは終わりです。お呼びするまでお待ちください」

手続きを終えた桜火は近くにあった空いている椅子へと座る。規模の大きな総合病院なため看護婦や医師、客足も多い。そんな風景をぼうっとして眺めていると入り口にある扉が開いた。それくらいなら、桜火も気に留めることはなかったのだが、次いで耳に入ってきた聞き覚えのある声があった。

「―――、―――。―――・・・」

あまり聞き慣れない単語を交えながら話すスーツ姿の長身の男性に桜火は懐かしさを覚えながら、その男性のもとへと足を進める。近くまで行くとちょうど話が終わったのか、白衣を着たした医師たちがスーツの男性のもとを去っていく。その姿が見えなくなったところで男性は疲れたように目頭を押さえながら溜息を吐いた。

「はぁ・・・」

「ずいぶんお疲れのようですね、鷹明叔父さん」

「・・・桜火か」

桜火に叔父さんと呼ばれた男性、天宝 鷹明(たかあき)は声色で声をかけてきた人物を当てた。それに驚くことなく桜火は挨拶を続ける。

「お久しぶりです」

「ああ、久しいな。事件後の具合は大丈夫なのか?」

事件とは言わずと知れたSAO事件のことである。

「ええ、順調に回復中です。アスクレピオスと呼ばれるあなたの腕を煩わせるほどじゃないですよ」

天宝 鷹明の職業は医師であり、国際免許まで取得している。今までどんな病気だろうと直し続けている医師故に、病魔にすら恐れられている医師として有名人なのである。そして、そこから着いた別名が桜火の言った≪アスクレピオス≫というものだった。

「そうか・・・それはそうと、京都にいるものばかりと思っていたが?」

「ええ、まぁ・・・いろいろありまして、今姉さんのところに居候しているんです」

ある程度自分の心内をはぐらかしながら話す桜火に鷹明は何かを悟った様子で桜火に言った。

「・・・はぁ、お前は昔から危なっかしかったからな・・・無茶だけはするな、死なない限りは治してやる」

「―――ええ、わかりました」

鷹明の言葉を心に刻むように頷く桜火。そこから少しの間雑談を交えていたら桜火を呼ぶアナウンスが流れたため、久しぶりの再会はここまでとなった。

「では、失礼します」

「ああ」

アナウンスの指定した場所に行くために桜火は鷹明に別れを告げ、去っていく。少しの間その背中を鋭い目つきで見ていた鷹明だが、自分の目的を果たすため桜火とは真逆の方向へと歩いていく。

ちなみに―――

「ところで桜火・・・私は常々思うことがあるのだが・・・」

「はい?」

「私はまだ、おじさんという歳ではないとは思うのだが・・・」

「でも家系図上は叔父さんですよね?」

―――とは、アナウンスが流れる直前の会話である。どうやら、天下の名医アスクレピオスと言えど意味合いは違えどおじさんと呼ばれるのは不本意らしい。



定期健診で特に異常は見つからなかったので、早々に帰宅した桜火はある人物に電話をかけていた。

Trrrrrr---Trrrrrr---ガチャッ

『はい、もしもし?どちら様?』

「どうも、迅さん。桜火です」

その人物とは、昨晩焔に連絡先を聞いた迅である。予想外の人物からの連絡に迅は少しばかり驚くが、すぐに気を取り直す。

『よっ、桜火。一体どうしたんだ?急に連絡なんかしてきて』

「烈の連絡先を教えてほしいんですけど」

『おう、いいぜ。メモの準備はいいか?』

いきなりの桜火の質問に特に気にした様子を見せることなく教えようとする迅。桜火は近くにあった白紙の紙とペンを手元に引き寄せると迅がいう烈の連絡先をメモしていく。

「どうもです。おれのことは烈にでも聞きましたか?」

『ああ、嬉しそうに話してたぜ。なぁ、≪剣聖≫ソレイユ殿?』

「・・・最後のは褒め言葉として受け取っておきますよ。では、これで失礼します」

『おう』

そういって電話を切ると、今度は迅に教えて貰った連絡先に電話をかけていく。

Trrrrr---Trrrrr---ガチャッ

『はい、もしもし?』

「よう、久しぶりだな。シリウス」

『その声、ソレイユか?どうして俺の電話番号知ってんだ?』

「ああ。おまえの兄とおれの姉が知り合いでな・・・っと、そんなことはどうでもいいんだ。ちょっと話したいことがあるから東京に来られるか?」

『東京?月影は京都だろ?』

「わけあって今東京に住んでる姉のところに居候してんだよ。そんで、出てこれんのか?」

『今静岡の実家にいんだよ。そっちに行けるとしたら明日になるぞ』

「ああ、大丈夫だ。集合は東京駅のほうがいいだろ。着く時間はあとで連絡くれ」

『わかった。そんじゃ、また明日』

「ああ」

シリウスこと霧雨 烈と連絡が取り終えると、桜火はそのままナーヴギアをかぶりアルヴヘイム・オンラインにダイブしていった。



アルヴヘイム・オンラインにダイブしたソレイユだったが、特に狩りに行くことはせず手短なカフェで紅茶を飲みながらあるアイテムについて悩んでいた。

「どうすっかな、これ・・・」

メニューウインドウを開き、そのアイテムをじっと見つめているがそんなことをしても状況は何も変わらない。そんなとき、声をかけてくる顔見知りがいた。

「よっ、優雅なティータイムか?」

インプ領主であるルシフェルがいた。普段なら仕事はどうした、と無性にツッコみたくなるところだが、この時ばかりはそんな気は起らなかった。

「ルシフェル、か・・・ちょうどいいや、聞きたいことがあったんだ」

「おう、なんだ?答えられる範囲でいいなら答えるぜ」

「これのことなんだけど・・・」

ルシフェルの言葉に甘えて、悩みの種であるアイテムをオブジェクト化させた。そのアイテムを見たルシフェルは盛大に顔をひきつらせた。

「グリモワールってアイテムらしいんだけど、何か知ってる?」

顔をひきつらせながら固まっているルシフェルにはソレイユの言葉など耳に入っていないようで何も反応がない。そのことをソレイユが不審に思っていると、ルシフェルは大きく溜息を吐きソレイユの向かいの席へと座った。

「なんで、お前はピンポイントでこんなもんを持ってくんだよ・・・」

そして、再び盛大に溜息を吐いた。

「・・・で、一体何なんだ?」

「・・・・・・昨日、特殊魔法の講義はしたな?」

「ああ」

「それを覚えられるアイテムがそれなわけだ」

簡単に【グリモワール】について説明するルシフェル。その説明を聞き、ソレイユは再び口を開いた。

「使うにはどうしたらいいんだ?」

「普通に使用すればそれでOKだ。あとはランダムで習得する魔法が決まる」

グリモワールをクリックすると、使用するか否かの確認メッセージが現れた。

【特殊魔法を習得します。よろしいですか?Yes/No】

表示されたそれのYesボタンを押すと本のページが自動的にめくれ、あるページが開かれた。そこには習得した魔法の名前が載っていた。

「複合魔法≪罪を裁きし審判の焔≫を習得しました、だって」

「それって、俺ら≪七大罪(アルカンシェル)≫に対する嫌味だよな・・・」

ソレイユの習得した魔法名を聞いたルシフェルはぼやいていたが、ソレイユはステータス画面を開き≪罪を裁きし審判の焔≫の詳細を見ていた。

「どうやら、火と光の複合魔法のようだ」

「ますます嫌味だろ、それ・・・」

再びぼやくルシフェルであるが、ソレイユはそれを完全に無視して覚えたての魔法内容とスペルワードを覚えていく。ある程度覚え終わったところでソレイユは先ほどまで飲んでいた紅茶を飲み始める。

「・・・そういえば、ルシフェル」

「なんだ?」

「・・・≪種族九王≫ってなんだ?」

その言葉を聞いたルシフェルは例えようのない表情になった。

「知らないのか?」

「ああ、知らない」

ルシフェルの問いに即答するソレイユ。そんなソレイユを見たルシフェルは、ホントにお前ってなんなんだよ・・・、といいながら影を落とした。どうやら、ルシフェルはソレイユが≪種族九王≫を知っていると思い込んでいたらしい。

「初代領主たちの総称した呼び方、ぐらいしか聞いてないぞ」

「ああ、わかったよ!説明すればいいんだろ、説明すれば!」

そこから、ルシフェルの≪種族九王≫講義が始まった。ちなみに、ちゃっかりと飲み物とつまみになるようなものを頼んでいた。

「種族九王たちっていうのは、各種族最強と呼ばれたプレイヤーたちに与えられた名称でな。その人たちを超えるプレイヤーはいまだに現れてないんだ。でも、あるときその王たちは追放された」

「それはまたどうして?」

「ある時、その王たちが力を合わせてグランドクエストに挑んだんだ。しかし、最強と呼ばれるプレイヤーたちの力をもってしてもクエストが達成されることはなかった。それで帰ってきた王たちはこう言ったんだ―――『あのクエストはクリア不可能だ』と」

ルシフェルは紅茶を飲みのどを潤した後再び語り始める。

「誰しもが負け惜しみだろうと罵り、嘲笑った。ここにダイブしてんのはネットゲーマーたちだ。そんなやつらが頂点に立つ者たちの失態を黙って見過ごすはずもなかった」

その言葉にソレイユが思い出したのは、SAO時代に知り合った趣味の悪いバンダナを巻いたプレイヤーの言葉だった。

『ネットゲーマーは嫉妬深いからな』

ソレイユ自身、≪剣聖≫と呼ばれていたので僻みや妬みを受けたこともあるので、それは痛いほどわかっていた。

「そして、サラマンダーの内情に変化があった」

「・・・それは?」

「サラマンダーの王がレネゲイトされたんだ。それを扇動したのが、今の領主であるモーティマーだ。奴はじっと王の失態を待ち望んでいたんだろうぜ」

「・・・・・・」

ソレイユは特に何かを言う訳でもなく、ルシフェルに続きを促した。

「いきなりのことだったが、それを機にほかの種族も王のレネゲイトを行った。誰も王たちの言葉を信用しなかったんだ。ただ、ケットシーやレプラコーン、プーカに至ってはそれに含まれない。その三種族は王たちをレネゲイトしなかった。だが、それではけじめがつかないと言って、その三種族の王たちは自ら領主の座を捨てた」

「・・・・・・」

「それからというもの、いくつもの種族がグランドクエストに挑んだがクリアされたためしはない。今になって王たちの言葉が真実味を帯びてきたんだ。各種族とも王たちに詳細を聞こうとしたが、連絡が返ってくることはなかった」

「・・・・・・」

「これが黎明期の有名な話。今のほとんどのプレイヤーは王の顔すら知らんのよ」

お前みたいにな、と最後にルシフェルは付け加えながら遠い目をして言葉を続けていく。

「今は色々とめんどくさいことになってるが、王がいたころは純粋に楽しかったな」

「・・・・・・それで、王たちの名前は?」

「・・・知ってどうするんだよ」

ソレイユの質問の真意がつかめないルシフェルだが、当の本人は特に気にした様子もなく告げる。

「特に何もないさ。ただ、一応覚えておこうと思ってな」

ソレイユの言葉を訝しむルシフェルだが、直ぐ様無駄だと悟りそれぞれの王の名前を告げていく。

「サラマンダーの王がミレイユ、シルフの王がユリウス、ノームの王がヴィクター、ウンディーネの王がメビウス、インプの王がエレミア、スプリガンの王がレイヴン、ケットシーの王がエリス、プーカの王がリン、レプラコーンの王がアクセル」

「・・・・・・すまん。サラマンダーの王は誰だって?」

「ミレイユ、だ。≪火葬の軍神≫と呼ばれている人でな、刀の二刀流で魔法混じりに闘う魔法剣士であり、奸計にも優れている。サラマンダーが軍のようになってるのはこの人の影響だな」

ルシフェルがサラマンダーの王について詳細を述べていたが、ソレイユの耳には入っていなかった。正直な話、明日奈の件も含めて世界は狭いと感じていたが、どうやらそれ以上に世界は狭かったらしい。

「・・・・・・大体わかった」

「そうか。なら最後に一つだけ言っておく・・・あまりこの事は口にするな。大抵の奴はいい顔しない」

「肝に命じておくよ」

≪種族九王≫に関しての話はこれで終了となった。次の話題は必然的にこれからのこととなる。

「それで、今日はどうするんだ?」

「レプラコーン領にいこうと思うんだ」

「それはまたどうして」

「刀をもう一振り欲しいんだ。ここの鍛冶屋にはないらしいんでな。本職を訪ねることにした」

「まぁ、道理だな。幸いレプラの立ち位置は中立だ。下手なことをしなければ大丈夫だろ」

方針が決まればあとは行動するのみ。二人はカフェテリアを立ち去り、高い塔を目指して足を進める。その途中でルシフェルは思い出したように口を開いたので二人は歩きながら話す。

「そう言えば、ソレイユ。さっきグリモワールについてちょこっと話したな」

「ああ・・・ちょこっとっていうか、あれ意外にグリモワールについてなんかあんのか?」

「ああ、一つだけ。グリモワールから覚えられるのは昨日行った三つの魔法のみだ。だが、もう一つだけ隠された魔法があんだよお」

「なんでこのタイミングでそんなこと言うんだよ?」

もっともな疑問なのだが、ルシフェルは構わずに話を進める。

「これは冗談抜きな話なんだが・・・グリモワールにはその上の【グラン・グリモワール】っつーものが存在するらしい」

「らしい?」

ルシフェルの物言いに眉をひそめるソレイユ。だが、ルシフェルは首肯すると言葉を続けていく。

「俺もある人から聞いただけなんでな、確証はないんだが・・・けど、それから学べる魔法はものすごいとしか言いようがなかった」

「まるで実物を見たっていう口ぶりだな」

「ああ、見たさ。一番まじかでな・・・この世界の魔法常識を覆すほどの魔法を、使用する本人たち含め【伝説級魔法(レジェンダリー・スペル)】って言ってたな」

「・・・そういう魔法があるっていうのはわかった・・・だが、なぜこのタイミングでそんなことおれに教えるんだよ?」

「“王”の話が出てきたからな、そのついでだ」

「ふぅーん。じゃあ、その【伝説級魔法(レジェンダリー・スペル)】ってのを使う“王”ってのは誰なんだ?」

「【伝説級魔法(レジェンダリー・スペル)】を使える“王”は二人いた。一人はウンディーネの王、≪霊水の巫女≫メビウスだ」

「もう一人は?」

ソレイユの質問にルシフェルは不敵に笑ってから口を開いた。

「俺らインプの王、≪常闇の魔女≫エレミアだよ」 
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