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戦国異伝

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第四話 元康と秀吉その十


 そしてその時だ。織田にまた新たな者が加わっていた。
「木下藤吉郎か」
「随分小さいな」
「しかも猿みたいだな」
「そんな顔だな」
 足軽の者達がその彼を見て口々に言っていた。見ればその藤吉郎も足軽である。つまりは彼等の中の新入りなのだ。
「そんな小さな身体で戦の場に出るのか?」
「また無謀だな」
「命は惜しくないのか?」
「ははは、命があればこそですが」
 藤吉郎はその彼等の言葉にまずは笑って返す。何処か人懐っこい笑いである。
「しかしです」
「しかし」
「何だというんだ?それで」
「身を立てるには命を賭けなければなりませんね」
「まあそうだな」
「それはな」
 足軽達も彼のその言葉には頷いた。
「それでわし等もここにいるしな」
「足軽をやってるしな」
「そうだな」
「そういうことですよ」
 藤吉郎はその笑いのまま再度述べた。
「命を賭けますが命は捨てません」
「その言葉矛盾していないか」
「そうだな」
 足軽達は今の言葉にはこう述べた。
「命は捨てないとは」
「賭けるというのに」
「それでは違うではないか」
「そうだな」
「いえ、違いません」
 ところが藤吉郎自身はこう話す。足軽の粗末な鎧と陣笠姿のままだが彼だけは何かが違う感じだった。
「それが違わないのです」
「そう言われてもな」
「この稼業は生きるか死ぬかだからな」
「だからな」
 それが足軽なのだ。まさに命を担保にして生きているのだ。
「それでそんなことを言ってもな」
「死なない?」
「戦の場でか」
「ここを使って」
 ここでだった。藤吉郎は自分の頭を右の人差し指でこんこんと叩いてみせた。陣笠の上であるがそれでもだ。叩いてみせたのである。
「生きるんですよ」
「頭か?」
「腕ではなくか」
「頭でか」
「はい、頭でなのですよ」 
 またこう話すのだった。
「私は身体が小さいですし」
「確かにな。小さいな」
「そうだな」
 誰がどう見てもだった。彼は小柄だ。しかもその顔は本当に猿にそっくりだ。お世辞にも立派な外見とは言えなかった。見栄えのしないものである。
「それでは力もな」
「弱いな」
「違うか?」
「それもその通りでして」
 やはりその通りだった。
「ですから余計に頭を使ってです」
「結局は力だぞ」
「そして腕だ」
「頭が必要あるか?」
「ないだろ」
「なあ」
 彼等は口々にこう言う。しかしであった。 
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