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戦国異伝

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第四話 元康と秀吉その六


 竹千代は己の忠臣達と共に駿河の駿府城に入った。そうしてまずは義元に会った。その面会はつつがなく終わった。
 その後でだ。彼に親しく声をかける者がいた。それは。
「なっ、貴方は」
「まさか」
 まずは竹千代の周りの者達が驚いた。そこにはどう見ても公達にしか見えない若者がいた。その彼が竹千代に親しく声をかけてきたのだ。
「氏真様」
「まさか」
「ははは、何を驚く」
 だがその若者氏真は明るく笑って驚く彼等に告げた。
「麿がこの者に声をかけてはいかんのか?」
「ですが我等はです」
「その。この今川の」
「よいよい」
 氏家はここでも明るく笑って話す。
「そんなことはどうでもよい。竹千代じゃったな」
「はい」
「これから楽しくやろうぞ」
 実に気さくに声をかけてきていた。
「よいな」
「ですが私は」
「だから人質とかそういうことはよいのじゃ」
「はあ」
「麿は麿、そなたはそなたじゃ。卑屈になってはいかん」
「それは駄目ですか」
「何故卑屈になる必要がある」
 笑って竹千代に問うてきた。
「ないではないか」
「そうなのですか」
「うむ、ない」
 また彼に告げた。
「そうしなければならぬ理由は全くないぞ」
「人質であっても」
「それ程人質にこだわるか」
 氏真はそんな竹千代の態度にいい加減思うところができたのか。まずは一旦考えた。そうしてそのうえでこう彼に告げるのであった。
「さすれば今から麿とそなたはじゃ」
「氏真様と私は」
「友じゃ」 
 それだというのである。
「友じゃ。これでよいな」
「あの、しかしそれは」
「だからじゃ。堅苦しくなる必要も卑屈になる必要もないのじゃ」
 このことは強く言う彼だった。
「例えばじゃ。麿は戦は嫌いじゃ」
「はあ」
「血を見るのは好きではない」
 戦国の世に生きる者としてはどうかと思う言葉だ。ましてや大名の嫡子である。しかし彼は今そのことを竹千代に対して話した。
「太平の世が来ればいいと思うておる」
「そうなのですか」
「戦は嫌いじゃがそれで誰にも引け目は感じぬぞ」
 こう竹千代に話す。
「何故そう感じることがある」
「戦が嫌いであってもですか」
「和歌や蹴鞠は好きじゃ」
 どちらも公家の遊びである。
「政はそうじゃな。民の笑顔はやっぱり好きじゃ」
「それは私もです」
「これを嫌うてはどうしようもない。民を苦しめる大名なぞいらぬ」
 このことについては強い言葉を出す氏真だった。このことはどうしても引けぬといった面持ちでさえある。
「そうであろう。まあとにかくじゃ」
「はい、とにかく」
「今より麿とそなたは友じゃ」
 またこのことを竹千代に告げた。
「それでよいな」
「それでは」
「ではこれより和上のところに参ろうぞ」
「和上といいますと?」
「太源雪斎殿じゃ」
 氏真は楽しそうに笑ってそのお歯黒を見せながら竹千代に話した。
「我が今川の軍師殿じゃよ」
「あの方ですか」
「ふむ、知っておるな」
 竹千代の顔を見てすぐにそれを察したのだった。 
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