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戦国異伝

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第二十五話 堺へその十二


「しかもです。今川は近頃です」
「もう一人ですな」
「あの松平のです」
「かつて我等の人質であった」
「あの松平元康です」
 その彼だというのだ。彼のことも既に織田の耳に入ってきているのだ。
「あの者もかなりだとか」
「では今の今川は」
「これまで以上に手強いかと」
 優れた将が率いるならだ。それも当然のことであった。
「ですから。その今川相手に奇襲は」
「できませぬか」
「はい、そう思います」
「そうでありましょうな」
 平手も森のその言葉に頷いて答える。
「やはり。そうは」
「普通はそう考えまする」 
 森は常識の範疇での考えて述べた。
「ただ。殿ですからなあ」
「左様ですな、殿でございまする」
「殿ならば若しくは」
「やられますかも知れませぬ」
 二人の言葉と考えは奇妙なまでに一致した。
「そうした状況でも」
「もしや」
「それではでござるな」
「はい、それでは」
 そしてだ。二人でお互いに言い合ってであった。そのうえでの言葉であった。
「殿のされることを」
「信じるとしましょう」
「それが尾張の、織田の為になるのなら」
「そうするべきですな」
 こう話すのであった。そしてだ。平手が森に言ってきた。
「それでなのですが」
「はい、何でしょうか」
「今お暇ですかな」
 微笑んでだ。森に言ってきたのである。
「今は。如何でござろう」
「はい、時間はあり申す」
 素直にこう答えた森だった。
「さすればでござるか」
「茶はどうでしょうか」
 それに誘ってきたのである。平手は尾張でも随一の茶好きで知られている。信長に茶のよさを教えたのも他ならぬ彼である。
 その彼に誘われてだ。森も微笑んで言葉を返した。
「さすれば」
「では今から」
「いや、それがしも最近茶のよさがわかってきました」
「はい、あれはいいものでございます」
 平手は同年輩同士であろうか。他の家臣達に対する厳しい顔はなかった。穏やかな顔でだ。森に対して話をしていた。そうしているのだ。
「落ち着きますし眠気も取れます」
「左様ですな。いや全く」
「では」
「はい、今から」
 こうしてであった。二人は茶を楽しむのであった。
 信長の上洛は続く。その中でそれぞれ動いていたのであった。


第二十五話   完


               2011・1・27 
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