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戦国異伝

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第二十二話 策には策でその三


「あの男だけはです」
「殺すというのですね」
「誰が何と言おうとも」
「好きにするのです」
 津々木については一行に構わないというのだ。御前も。
「あの男は織田家にとって放っておけばまた害になりかねません」
「はい、ですから」
「そうするのです」
 御前も津々木については殺すことで一致した。そうしてであった。
 信長が落馬して死線を彷徨っていると言う話はだ。すぐに信行の下にも届いたのであった。
「お母上からですか」
「そうだ」
 彼は古渡の城にいる。そこで家臣達の言葉を受けていた。見れば彼はまだ頭は剃ってはいない。髷をそのままにしているのだった。
「何でも兄上がだ」
「殿がですか」
「何かあったのですか」
「落馬したとのことだ」
 そうなったとだ。文を見ながら彼等に話すのだった。
「その傷で今にも亡くなられそうだとのことだ」
「まさか。あの殿がですか」
「落馬されたと」
「まさか」
 信行の家臣達もそのことはすぐに疑った。まさかという顔だった。
「そんなことがあるのですか」
「いや、それはないでしょう」
「しかも亡くなられそうだとは」
「そうだ。まさかとは思うがな」
 信行はだ。真剣な顔でこう彼等に返すのだった。
「しかし文にはそう書いてある」
「左様ですか」
「そうなのですか」
「そうだ、そしてだ」
 文に書かれているのはそれだけではないというのだった。信行は文を手にしたままでそのうえでだ。彼等にこうも話すのだった。
「尾張の次の主にだ」
「勘十郎様がですか」
「そうなれというのですか」
「そうだ、そう書いている」
 そうだというのであった。
「それですぐに清洲に来いとのことだ」
「ううむ、謀叛は終わりましたし」
「まだ蟄居をしていませんが」
「それでもですか」
「そうも言っていられぬ状況のようだ」
「確かに。お命が危ういとなれば」
「それもですな」
 家臣達は信行の言葉に頷いた。言われてみれば確かにそうだった。
 頷いてからだった。そのうえでまた言うのだった。
「では。今すぐにです」
「清洲に向かいましょう」
「兄上の死に目に会えないというのも不孝です」
「それもありますし」
「うむ、わかっている」
 こうしてだった。信行は清洲に向かうことになった。そのうえでだ。
 己の家臣達にだ。命じたのだった。
「では用意をな」
「そうですね。それでは」
「我等もお供します」
「頼んだぞ。ではな」
 彼等に馬の用意をさせる。そのうえで己の部屋に入った。するとだ。
 何処からだ。声がしてきたのであった。
「信行様」
「誰だ」
「私です」
 こう言ってきたのだった。あの声が。
「私ですが」
「まさかとは思うが」
「はい、私です」
 いきなり目の前にだった。その男が出て来たのであった。 
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