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戦国異伝

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第二十話 信行謀叛その一


                第二十話  信行謀叛
 信長はだ。清洲において家臣達に命じていた。
「それではだ。よいな」
「はい、そうなのですね」
「今から美濃との境に」
「兵をですね」
「そうだ、そうするのだ」
 こう家臣達に言う。既に誰もが青い具足を身に着けている。旗もだ。
 旗も立ててだ。青い旗も連なっていた。
 その青い旗もだ。信長は見ていた。そのうえでの言葉だった。
「さて、この青い旗を見ればだ」
「必ず動きますね」
「間違いなく」
「動かない筈がない」
 信長の言葉は確信しているものだった。
「間違いなく動く」
「そしてその時にですね」
「我等もまた」
「真の動きをする」
「そういうことですな」
「その通りだ。今の動きは仮のものだ」
 それだとだ。信長は言う。
「真の動きはその時にだ」
「わかっております」
 平手が応える。彼もまた青い鎧に兜の出で立ちだ。陣羽織も織田の青だ。それを身に着けて信長の前に立っているのであった。
「それでは殿」
「うむ。しかし爺よ」
 ここでだ。信長は少し笑顔になって述べたのであった。
「御主のその鎧の姿はのう」
「どうされました、それがしの鎧に何かありますかな」
「似合わぬのう」
 笑顔は苦笑いであった。
「何時見てもな」
「似合わぬと。それがしの鎧兜の姿が」
「そうじゃ。何故か似合わぬ」
 信長はまた言った。
「いつもの袴の方がずっと似合っておるぞ」
「いえいえ、これでもですぞ」
 平手はだ。自分より遥かに若い主に対してだ。咎める口調になってこう返すのであった。この辺りはやはり平手であった。
「それがしは殿がお生まれになる前よりです」
「戦場にいたというのだな」
「戦場で戦うこと数十、百にも手が届くでしょうか」
 この戦国の世では至って普通の数ではある。ましてや平手程長きに渡って織田家に仕えていればだ。それも当然のことであった。
「戦の場に出て。受けた傷もこれまた百にてが届くでしょうか」
「しぶといのう」
「何と、しぶといとですか」
「そこまでなってまだ生きておるのか」
 信長は思わず吹き出しそうな顔になっていた。
「しかもそれでまだ似合わぬのか」
「ですから。似合う似合わぬの問題ではありませぬ」
 平手はむっとした顔になっていた。
「ですからそれがしはです」
「まあまあ平手殿」
「殿のいつもの悪ふざけでありますぞ」
「そうそう怒ってはなりませぬ」
「怒れば怒る程ですぞ」
「しかしじゃ」
 平手の小言は若き彼等にも向かう。これも常である。
「殿のこのお言葉。似合う似合わぬなどとは」
「わかったわかった」
 信長は困った苦笑いになってこう言った。
「そなたが戦の場に長くいるのはわかった」
「はい」
「とにかくだ。今はだ」
 信長はその顔を真剣なものに戻してそのうえで話を変えてきた。
「わかっておるな」
「はい、わかっております」
「敵は美濃にあらず」
 言葉は真剣そのものだった。
「尾張にあるぞ」
「それでは」
「さすればまずは向かえ」
 その美濃との境にというのだ。 
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