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戦国異伝

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第十九話 夫婦その十二


「その時はわかりません」
「その時はなのですね」
「斎藤義龍はいいです」
 彼はだというのだ。これは他ならぬ彼自身が先に話した通りである。 
「ですがその息子ですね」
「斎藤龍興ですね」
「あの者は駄目です」
 一言でだ。謙信は否定してしまった。
「一国の主の器ではありません」
「一国の主のですか」
「おそらく一将としても務まりません」
 それでもだというのだ。
「彼が跡を継げばその時はです」
「美濃は危ういですか」
「そうだと思います。やはり危ういです」
 謙信はまた話した。
「その時はどうなるかわかりません」
「ではその時が来れば」
「織田が動きます」
 謙信は見ていた。既に彼のことを。
「蛟龍は既に美濃を蝮より譲られると言われていますね」
「はい、文によれば」
「大義名分は既に得ています」
 そうだというのであった。謙信はこのことも話すのだった。
「ですから。その時はです」
「攻めますか」
「美濃以前にです。伊勢志摩も狙うでしょうが」
 その国もだというのである。
「尾張だけでなく伊勢志摩も手に入れれば」
「かなり大きいですね」
「合わせて三万五千の兵力に」
 まずはその場合の兵力から話される。
「石高にして。百四十万国になるでしょうか」
「実高で、ですね」
「そうです。それだけの力を得れば暗愚な主のいる美濃はです」
「攻めるのは容易いですね」
「美濃は易々と手に入るでしょう」
 その信長の手によるというのだ。そうだというのであった。
「合わせて二百万国、そして兵力にして五万です」
「五万ですか」
「美濃の実高はより多いでしょうし」
 公に出ている石高と実高の違いがあった。無論実高が実際の国力であり頭の回る大名達は他の家のそれも既に調べているのである。おおよそであってもだ。
「兵力も五万以上になるでしょう」
「ではそれだけの兵力を得れば」
「織田は天下随一の勢力となります」
「そしてそのうえで」
「おそらく彼は」
 謙信は今も見ていた。その信長をだ。
「上洛し天下を手中に収めんとするでしょう」
「織田が天下を」
「ここで問題はなのです」
 謙信の目が光った。白く眩い光であった。
「彼がどういった天下を目指すかです」
「その天下をなのですね」
「王道か。それとも覇業か」
 言うものは二つであった。
「そのどちらか」
「果たしてどちらになるでしょうか」
「覇業でしょう」
「それですか」
「確かなことはわかりません」
 それは言う。しかしなのだった。
「ですが。それでもです」
「感じられますか」
「彼は突き進む者です」
 信長をだ。そこまでわかっていたのである。 
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