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戦国異伝

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第十九話 夫婦その六


「尾張は今急速に整いつつある」
「政が非常に整っているとか」
「田畑は開墾され治水も行き届き道は整され」
「町も発展しているとか」
「それでは」
「国の力もあがっておる」
 それもだ。信玄は知っていた。尾張のそうしたことまで調べているのだった。
「そのうえどうやら伊勢志摩まで手中に収めるつもりのようだ」
「あの豊かな伊勢志摩まで手に入れるとなると」
「その力はかなりのものになりますな」
「そのうえで美濃を手中に収める」
「それがあの男の考えですか」
「しかしです」
 内藤が言ってきた。
「そう上手にいくでしょうか」
「今川殿がいますな、そういえば」
「確かに」
「あの方がおられます」
「さすれば」
「勝てればいいがのう」
 信玄はだ。手を結んでいる義元に対してだ。不安な感情を見せるのだった。
「無事な」
「では義元殿も危ういと」
「織田の前では」
「左様ですか」
「尾張には一万五千の兵がおる」
 信玄はここではまずは兵から述べた。
「それが相手ではだ」
「今川殿の勝利はですね」
「それは難しいですか」
「二万五千の兵を以てしても」
「それでも」
「そうだ、難しい」
 実際にそうだと話す信玄だった。
「二万五千の兵は勝ったとしてもだ」
「尋常な損害を受けませんね」
「間違い無く無傷では済まない」
「それは確かですね」
「義元殿はそう思ってはおらんがな」
 信玄は同時にこのことも見抜いていた。義元のその油断をだ。
「だが雪斎殿は違うだろうな」
「あの方は織田を見抜いておられますか」
「そうなのですね」
「あの方はですね」
「織田信長もわかっている」
「それでは」
「しかしじゃ」
 ここでまた言う信玄だった。
「あの御仁位か。義元殿に言える者でわかっておるのは」
「そこまでわかっているのはですか」
「少ないと」
「人に才を見せる者はおらん」
 信玄はこのことも見抜いていたのだった。
「能があるならばな」
「敵に知られずしてこそ」
「だからですか」
「しかし織田はすぐにわかると思いますが」
「尾張を一つにしたことと」
 まずはそれについて言うのだった。
「そして政を見れば」
「それでもなのですか」
「今川殿はおわかりになられぬと」
「義元殿の悪い癖だ」
 ここでだ。信玄の顔が曇った。そのうえでの言葉であった。
「相手を侮られる」
「確かに。今川殿は強勢です」
 まずはこのことがあるのだった。 
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