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戦国異伝

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第二話 群星集まるその九


「そして御主はじゃ」
「私は」
「三河を統一するのじゃ」
 そうせよと。竹千代に笑って告げた。
「それから遠江でも駿河でも好きな場所を手に入れよ」
「まさか。私にはそこまでのことは」
「できる。わしとて尾張だけで終わりではない」
「といいますと」
「美濃も伊勢も。そして天下を手に入れてみせる」
 自信に満ちた言葉であった。
「そうしてみせるからな」
「それはまことですか」
「まことじゃ。わしはやるぞ」
 顔は笑っていた。しかし目は真剣だった。
「天下を手に入れるぞ」
「では私はその家臣として」
「家臣?違うな」
 吉法師は竹千代の今の言葉には大きく笑って返した。
 そのうえでだ。こう告げたのである。
「竹千代、御主はだ」
「はい、私は」
「弟だ」
 こう言ったのである。
「わしの弟になるのだ。よいな」
「弟ですか」
「左様」
 にやりと笑ってだ。こう告げたのである。
「わしの弟になれ。よいな」
「それはまた風変わりな」
「変わっていると思うか」
「はい、私の兄になられるとは」
「変わっていてよい。しかし本気じゃ」
「はあ」
「御主はわしの弟になるのじゃ」
 大きく笑っての言葉だった。
「よいな、そのうえで天下を共に歩もうぞ」
「ううむ。何と言えばいいのか」
「わからぬか」
「そう言われたことははじめてでしたので」
 だからだというのだった。
「この場合はどうしても」
「わからぬのならそれでよい」
 吉法師はこうも言ってみせた。
「今はな」
「左様ですか」
「それでも覚えておくのじゃ」
 吉法師はまた竹千代に対して述べた。
「そなたがわしの弟となるということはな」
「血がつながっていなくともですか」
「左様、それでも兄弟にはなれるのじゃ」
 やはり不敵な笑みを浮かべている。
「そういうことじゃ」
「我等にもそれはわかりませぬが」
「一体どういった御言葉でありましょうか」
 五人もこのことには首を捻る。
「そもそもどういったものか」
「わかりませんが」
「そなた達も同じじゃ。わからずともよい」
 吉法師は彼等にも同じ言葉を告げた。
「しかし。さすればじゃ」
「その時になってわかる」
「我等にもそう仰るのですか」
「竹千代様に対するのと同じく」
「そうじゃ。わしはわしが認めた者は決して見捨てぬ」
 こうも言うのだった。
「認めてから何かするよりは最初から近付けぬ」
「では吉法師様が今集めている方々は」
「認めておられるのですか」
「当然じゃ。認めたからこそ用いておるのじゃ」
 そうだというのである。
「そうしておる」
「では竹千代様も同じく」
「認められたのですね」
「織田家におれば家臣にするところだった」
 その竹千代を見ての言葉である。 
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