戦国異伝

「戦になります」
「戦か」
「殿と信長殿のです」
「話が戦になるとはな」
「いえ、話もまた戦です」
　竹中の言葉は今度は鋭いものになった。
「国と国の運命を決めることもありますから」
「それでなのか」
「そうです。そしてその戦に勝つかどうかです」
「この会談で美濃の命運が決まるというのか」
　不破はこのことには懐疑的だった。まさかそれはあるまいと思った。ただ会うだけのことだと。しかし竹中はだ。彼のところに来た三人衆にも話すのだった。
「はい、決まります」
「馬鹿な」
　それをまず否定したのは稲葉だった。
「殿が娘婿殿に会われるだけだぞ」
「そう思われますか」
　だが、だった。竹中はその稲葉の目を見た。そのうえで彼に問うたのだった。
「稲葉殿は本当にそう思われますか」
「見抜いておるか」
「とても。それだけとは思えませんので」
　だからだと返すのだった。
「そして稲葉様もそれは当然」
「わかるわ。殿だからな」
「殿はただそれだけで人と会われはしません」
「うむ、その通りだ」
「だからこそです。殿も織田殿の器を計るというのでしょう」
「器か」
　氏家が述べてきた。
「どうやらあの婿殿の器はだ」
「そうだな」
　氏家の言葉に安藤が応える。
「わし等が思うにだ」
「殿と同じか」
「そうだな」
「いえ、若しかするとです」
　しかし。竹中は言った。あえてであった。
「殿よりも」
「それ以上は言うでない」
　安藤が彼のそれ以上の言葉をここでは止めた。
「殿が何も言われなくともだ」
「そうだな。誰が聞いているかわからぬ」
　氏家もだった。竹中に告げた。
「何があってもおかしくはないぞ」
「申し訳ありません」
「まあそれはこれからよ」
　安藤は竹中を宥めるようにして述べた。
「これから寺でわかることよ」
「さて、織田信長か」
　稲葉がまた言う。
「どうも青が好きなようだな」
「そうだな」
　不破も稲葉の言葉に頷いてみせた。
「軍は全て青らしいな」
「鎧も陣笠も旗も何もかもな」
「それは面白いな」
「全くだ」
　氏家と安藤もこのことには興味を覚えていたのだ。それでこの話にも加わる。
「武田が赤で上杉が黒でな」
「北条が白で毛利が緑」
「そして織田が青か」
「軍が色によって分けられているな」
「そうですね」
　竹中もその言葉に応える。また話に入るのだった。
「青は木で」
「五行思想か」
「それだな」
「他の色も入っているがな」
「はい。色はです」
　竹中はこうしたことにも詳しかった。その色のことについても話すのだった。