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戦国異伝

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第十四話 美濃の蝮その十二


「やはり」
「どうでしょうか、それは」
「一度調べてみる必要があるやも知れませぬな」
「そんな筈がない」
 だがここで義龍が二人の言葉を否定した。
「あのうつけがここまでできるものか」
「では一体誰がなのでしょうか」
「ここまで治めているのは」
「家臣の誰かじゃ」
 義龍はそれだというのである。
「織田の家臣は多いという。その者達がしておるのじゃ」
「ですがそれを命じているのはです」
「うつけというのか」
「そうではないでしょうか」
「ふん、まさかな」
 あくまでだ。信長のことを認めようとしない義龍だった。
 そのうえでだ。彼はまた言った。
「家臣の誰かが気を利かせてやっておるだけだ」
「それでここまでなのでしょうか」
 細川はまた周囲のその水田や畑を見回した。そのうえでまた言うのだった。
「家臣達が勝手にやっているだけでここまで」
「何が言いたいのじゃ」
「これは家臣達が勝手にやってできるのではないのでは」
「ではうつけがだというのか」
「それがしはそう思います」
 そうだと。細川は己の考えを述べた。
「違うでしょうか」
「違うな」
 やはりこう言う義龍だった。
「どう考えてもあのうつけではないわ」
「ふむ」
 しかしだった。ここで道三は考える顔になって細川の話を聞いていた。そしてそのうえで彼に顔を向けてそれで声をかけたのだった。
「細川殿はそう思われるな」
「そうですが。間違いでしょうか」
「だとするとだ」
 道三は彼と話しながらだ。言うのだった。
「戦では瞬く間に尾張を一つにし」
「はい」
「そして政はこれだとするとだ」
 そうならばだとだ。道三は一つのことを言った。
「もしや大うつけどころではないのかもな」
「といいますと」
「それもまた見たい」
 こう家臣達に述べた。そしてだ。こんなことも言った。
「今ならまだ間に合うか」
「?何がですか」
「一体」
「美濃三人衆や半兵衛達も呼ぶか」
 こう言ったのである。
「早馬で飛ばしてな」
「それでここに、ですか」
「そうじゃ。呼ぶとするか」
 こう言ったのである。
「稲葉山からな。呼ぶか」
「それではです」
「今すぐにですね」
「そうするとしよう」
 もう決めた。恐ろしいまでの即断だった。道三はその決断の早さでも知られているのだ。
「では行くがいい」
「はっ」
 家臣の一人が応えた。そうしてだった。
 後ろにいる一人の男に目配せした。するとだった。
 男は姿を消した。道三はそれを見て静かに言った。
「これでよいな」
「そう思います」
「あの者達にも見せておきたい」
「織田信長をですね」
「もしやだ」
 またこう言う彼だった。 
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