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戦国異伝

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第十四話 美濃の蝮その七


「そしてじゃ」
「休むか」
「そうするとしよう。次の仕事までの間にな」
「いや、仕事は多いからのう」
 蜂須賀は笑いながらこんなことも話した。
「その分尾張は凄いことになってきておるな」
「殿が一つにされてからな」
「うむ、悪い奴はおらんようになった」
 治安を徹底させているのだ。信長は不埒者は何処までも追い徹底的に処罰しているのだ。だから治安はかなりいいのである。
「しかも田畑は開墾され町は整えられ」
「しかも水は治められじゃな」
「よいことじゃな」
「尾張はこれからどんどんよくなっていくぞ」
「よくなるか」
「殿がいてわし等はいるのだぞ」
 だからだという木下だった。
「それでよくならない筈があるまい」
「確かに。人がえらく揃っておるのう」
 蜂須賀は木下のその言葉に頷く。これもまたよく実感できることであった。何故ならばだ。
「わしもそうだしのう」
「確かに御主もな」
「自信はあるぞ」
「ただ腕っ節が強いだけではないからな」
 木下は蜂須賀がそれだけの男ではないことを見抜いていた。それは信長とて同じだ。だからこそ今こうして織田家の家臣にいるのだ。
「忍の術も使えるし」
「うむ」
「そして水のことにも詳しい」
「川並はそれで生きておったからのう」
「おかげで政も戦もできるではないか」
 蜂須賀のそうしたことを見ての今の言葉だった。
「どちらも充分にな」
「しかし町は詳しくはないぞ」
「それはこれから学べばいい」
「これからか」
「そうじゃ。学べばそれで得られるものじゃ」
「学問は好きではないが」
「まあそう言うな」
 木下は学問と聞いて困った顔になった蜂須賀にこう述べた。そうしてそのうえで自分のことを話してみせる。これも彼の話術の一つである。
「わしはそもそも字はあまり読めん」
「そうらしいな」
「しかし話を聞くことはできる」
「それも学問のうちか」
「そういうことじゃ。御主は字を読めるな」
「うむ、読めるぞ」
 確かな声で木下に返す。
「それはな」
「では学ぶことじゃな」
「町のこともか」
「町も治めてみると楽しいものぞ」
「そういえば柴田殿や川尻殿といった武辺も町にも駆り出されておるのう」
「殿は何でもさせてくれるぞ」
 実際に信長はあらゆる政に家臣達をやっている。それは彼等に政を学ばせるという意味もあるのだ。無論彼もその中にいるのである。
 木下はそれがわかっている。それでこう話すのだった。
「だから学ぶことじゃ」
「ではそうするか」
「おそらく尾張だけではあるまいしな」
「では他に国にもか」
「今伊勢に盛んに手をやっておるな」
「実はわしも行ったことがある」
 彼は伊勢にも回されているのだ。調略もしているのだ。
「今は順調に国人達を味方につけておるぞ」
「それに北畠やそういった家にも手を回しているのだな」
「そうしておるぞ」
 まさに木下の言う通りだった。
「皆でな」
「ではわしも伊勢に回されるかのう」
「すぐにそうなるだろうな」
「おそらく次の仕事はそれじゃな」
 こう察しをつけた木下だった。 
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