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木の葉芽吹きて大樹為す

作者:半月
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若葉時代・火影編<中編>

 
前書き
さくさく上げます。 

 
「あ、貴方が千手柱間殿なんですか! 逢えて光栄です、オオノキって言います!」
「初めまして、オオノキ君。千手柱間だ。――ところで、そちらの方は……」

 赤くて丸い鼻が特徴的な小柄な少年が、目を輝かせながら私を見上げる。
 一生懸命に顔を赤くしながら話しかけて来てくれる少年を微笑ましく思いながら、私は少年の背後に影の様に佇んでいる背の高い包帯ぐるぐる巻の男性に気を取られていた。

 だってさ、ツタンカーメンの黄金のマスクの中身みたいな人がじいっとこっちを見つめてるんだよ。口も鼻も覆っているせいで目しか見えないけど、息苦しくないのだろうか? 凄く気になります。

「こちらの方はオレの師匠で、無様です」
「厳密には初めまして、ではないがな。こうして直接相見えるのは今日が始めてだ」

 ククク、とシニカルに微笑んだミイラ男改め――無殿。
 彼の瞳が私達を見回して、最後に無言で腕を組んで佇んでいたマダラへと留まる。

「あんたにも会ってみたかった。名高きうちはの頭領殿ともな」
「…………」

 せめてもう少し愛想良く出来ないのか、お前は。

 眉間の皺を深めて、私達を睨んで来るマダラに必死に目で合図を送るが、柳に風と流された。
 ……まぁ、愛想のいいうちはマダラなんて誰も見たくはないと思うけど。

 内心で溜め息を吐きながらも、マダラへと向けていた視線をオオノキ君に落とす。
 少年は見ているこちらが恥ずかしく思う程純真な眼差しで私を見つめていた。
 どうしよ、なんだか照れるわ。

「そういえば、ここに来る途中で襲撃を受けたと話を聞いたが……なんともない様だな」
「え!? それってどこの者が……?」

 そんなに前の話ではないのに、もう彼らの耳に届いたのか。
 感心していれば、オオノキ君の目が心配そうに私を見上げている。
 何なのこの子、滅茶苦茶可愛いんですけど。

「新興の里……滝隠れの者達だった。けど、大した怪我も無く切り抜けられたよ」

 心配してくれてありがとうね、と囁いて肩を叩けば、照れた様に少年が耳まで真っ赤にする。
 うわぁ……。ミトとはまた違った意味で癒されるわ〜。

 ほのぼのとしていれば、背後からの滅多刺しにされそうな視線。
 め、滅茶苦茶背筋がぞっとしました。
 恐る恐る振り返れば、マダラが『何を遊んでいる。とっとと用件を果たせや、このボケが』的な視線で私を睨んでいた。
 はいはい、ちゃんと仕事もしますとも。

「ククク。……随分と仲がいいんだな」

 愉快そうに無殿が笑う。
 今のやり取りのどこがツボに入ったのか謎だ。

「――じゃあ、オレはこれから土影殿と話してくるから、ミトの事頼むよ。マダラ、行こう」
「お任せください、火影様!」
「……分かっている」
「それでは、御案内致します!」

 護衛を兼ねた一行に声をかければ、何とも頼もしい返事が返って来る。
 軽く深呼吸して、私はマダラと共に土影殿が待つ建物内へと足を踏み入れた。

*****

「――――では、これより先は私の仕事ですわね。皆様、お下がりくださいな」
「頼んだよ、ミト!」
「勿論です、柱間様」

 凛然とした返事に、張っていた肩を軽く落とす。
 今回は前に交戦した七尾と違って、最初からマダラが味方してくれただけあって、結構楽に話は進んだ。
 尾獣相手に戦って、大きな怪我も無く済ませる事の出来る忍びなんて数人しかいないだろうね。
 その数人の中に自分が入っていると思うと……思えば遠くに来たもんだなぁ。

「残念だったなぁ。上手くいけば戦わずに済むと思ったのに」
「力しか持たぬ獣相手に何を言っている。あれらは会話が通じる様な相手ではなかろう」
「そんな事無いさ。今回は上手くいかなかったけど、今度彼が正気を保っている時にでも話をしてみる。その時はきっと、上手くいくさ」

 九喇嘛と数年話していて気付いたのだが、尾獣と言う存在は少々不安定な存在らしい。
 そのせいで時折堪え切れない破壊衝動に襲われはする。けれども、そうでない時は話が通じる存在なのだ。
 今回の四尾や前の七尾の様に人の血の匂いに酔ったり、破壊衝動に支配されている時は兎も角、全く最初から言葉が通じないと判断するには早すぎる。

「以前にも見せてもらった天狗型の須佐能乎だけど……どうにも上手く扱えないみたいだな」
「……九割五分は完成している」
「けど、未完成なんだろ? 多分だけど、あまりにも膨大なチャクラを必要とするせいで、写輪眼だけでの制御は難しいみたいだな」

 単純に攻撃だけに限定するのであれば、剣の一振りで山脈を両断する天狗型は申し分無い。
 けれども一定量の限界を越えた攻撃を受けてしまえば、あのチャクラの塊は簡単に揺らいでしまう。

「それにあの力は生身で扱うには少々リスクが高すぎるみたいだし……今後あまり使用しない方が良さそうだな」
「……フン」

 鼻を鳴らしたマダラから視線を逸らして、遠くに見える四尾へと意識を向けた。

「にしても、四尾の毛並みって、綺麗なアカイロをしているよな。猩々緋っていうのは正しくあんな色を指すんだろうなぁ」

 うっとりと呟けば、手にした団扇を背中に戻したマダラが仏頂面で私を見つめていた。
 こいつ口数少ないくせに、視線と態度だけで全部分かってもらおうとする癖があるから面倒くさい。
 何が言いたいんだよ、と目で促せば、ややあってからマダラが口を開く。

「貴様……。――あの様な不安定な存在に対して、本気でそのように思っているのか?」
「本気だとも。美しい獣じゃないか、彼らは」

 流石に大きな声で言うつもりは無い。
 だからマダラにだけ聞こえる様に潜めた声で応対すれば、眉間の皺がますます深まる。

「千手の頭領である貴様ならば知っている筈。あれらは所詮分散した力に過ぎない。六道仙人の生み出した知の足らぬ不安定な力。導きを与える者を必要とする、未完成な存在だ」
「一概にそうだと決めつけるのはお前の悪い癖だな。尾獣にだって感情があれば意思もある、オレはそれを知っている」

 ミトの手にした巻物の中に四尾の体が見る見る内に吸い込まれていく。
 今回は七尾の時とは違って充分に用意をしておいたから、あの封印は十年程は持つだろう。

「貴様、四尾をどうするつもりだ? 木の葉で所有するのか?」
「いや……。特にそんなつもりはない。どっか人里離れた所で解放するつもりだけど」

 大きすぎる力は人々を容易く弄ぶ。
 そのせいで、尾獣達は昔から力を求める人間達の垂涎の的だったせいで苦労していた――と五尾が以前言っていた。
 木の葉は以前封印した七尾を合わせて、既に充分な力を持っている。
 ならばこそ、これ以上の力を蓄えれば逆に各国の恐れの対象にしかならない。

 その思考は突如として響き渡った破壊音によって妨害された。

「――丁度いい。貴様とは前々から話したい事があった」
「……マダラ、お前……」

 先程の破壊音は、マダラの拳が岩に皹を入れた音だった。
 無事に四尾を封印し終えたミトも、一緒に来ていた木の葉の忍び達も突如として響いた音に驚いた様にこちらを振り返っている。
 それを横目で確認して、私はマダラを見据える。

「いいだろう。何を話したいんだ?」
「――――七尾に続き、四尾まで手に入れておきながら……貴様はそれらを活用する事無く、ただ奴らを遊ばせておくのか?」
「彼らを利用する気はない。戦国の世が終わりを告げたとはいえ、木の葉一つが突出すれば他の隠れ里の恐怖の対象にしかならないからな。国内の忍び一族を纏め上げた各隠れ里が木の葉を仮想敵国として扱う様になれば、少しの躓きで元の乱世に逆戻りだ」

 それだけは何としてでも避けたい。
 岩隠れの里に恩を売る形で四尾を封印こそしたが、彼らを長い間手中に収めておくつもりは無いのだ。
 あくまで、岩と木の葉の同盟のための足がかりというか、切欠に過ぎないのだから。

「ならば、木の葉が全てを支配すればいい。これだけの力があるならば――同盟などを結ぶ必要は無い! 力づくにでも従わせればいいではないか!!」
「言い過ぎだぞ、マダラ! 力で人を押え付けては反発しか生まない!! そうして押え付けられた人々の間には、恐怖とそれを為す者への反発……そして憎悪が植え付けられるだけだ!」

 マダラの言う事はおそらく不可能ではない。
 各国で忍び達が纏まりあるとはいえ、依然として木の葉がリードしている状態は続いたままだ。

 発展途中の各隠れ里を襲撃して、木の葉の名の下に従わせる。確かにそれは手っ取り早いやり方ではある――けれど。
 そうして生まれるのは一種の独裁国家だけだ。力で押え付ければ、表面的には従ってはいても、人々は木の葉へと反発し何時かは暴発する。

「反発が起こるのであれば、力で捩じ伏せればいい。それが不可能な貴様ではないだろう」
「ああ。確かに可能だろうな……しかし」

 皆が息を飲む中、私は静かに宣言する。

「――オレは今後もそのような手段をとるつもりは無い」

 その先に、私が望む世界は無いから。
 私の欲しい世界は、暴力と理不尽さの先には見つけられない。

「――だから先の滝隠れの襲撃も追い払うだけで追撃する事もせず、貴様はこのまま岩との話に応じるだけのつもりなのか?」
「そうだ。世に平和が訪れた今、過剰な反応は容易く火種に変わる。それだけは避けたい」

 ……気のせいだろうか。
 何かに――皹が入った音がした。
 
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