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戦国異伝

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第十三話 家臣達その十四


「よいな、権六」
「はっ、では」
「他の者もだ」
 信長は己の言葉を他の家臣達にも告げた。
「己をよくわかることだ」
「己をですか」
「それを」
「そういうことじゃ。さて」
 ここまで話してだ。信長は最後に言った。
「話はこれで終わりじゃ。そろそろ蝮も来る頃じゃな」
「はい、話は順調に進んでおります」
 平手が主に答えた。
「それは御安心下さい」
「うむ、期待しておるぞ」
「その時ですが」
 林も述べてきた。彼はいささか不安な顔になっている。
「やはり勘十郎様も」
「あ奴、やはりか」
「はい、どうも」
「怪しいままでございます」
 弟の林通具も述べてきた。
「あの津々木という男が常に侍りです」
「妙なことを吹き込まれているようです」
「しかもです」
 林兄弟以外に彼につけられている柴田も言ってきた。
「我等は遠ざけられております」
「見破られたか」 
 信長は彼等の言葉からこのことも察した。
「勘十郎、いやその津々木という者に」
「有り得るかと」
「それは」
 林兄弟もそれは否定しなかった。
「あの者、素性は知れませぬが」
「切れ者であるのは間違いありません」
「そこもわからんしな」
 信長は袖の中で腕を組みながら述べた。
「あの慎重な勘十郎が一見しただけの者を雇い入れるというのもだ」
「だからこそおかしいのです」
「何でも何かに魅入られたように用いたとか」
 また林兄弟が話す。
「それから勘十郎様の御様子がですから」
「これはやはり」
「殿」
「ここはなのですが」
 中川と蜂屋だった。
「その津々木という者をです」
「成敗しますか」
「それも手だが今は待て」
 信長はここでは彼等を制止した。そのうえでの言葉だった。
「まだ様子を見たい」
「左様ですか」
「今は」
「とりあえずは泳がせる」
 そうするというのである。
「その為に目付として新五郎達を付けているのだからな」
「ではここは」
「そうして」
「そうよ、勘十郎はわしにとっても必要な者」
 信長はこの認識を強く持っていた。
「それを忘れるな」
「わかっております」
「ではここはまだですか」
「見るとしよう」
 こう言ってまだ動かない信長だった。そのうえで道三を尾張に招くのだった。


第十三話   完


               2010・10・18 
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