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木の葉芽吹きて大樹為す

作者:半月
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若葉時代・火影編<序>

「―――ー里長? どうしたの、いきなり」
「いや……。木の葉も大分大きくなって来たし、形も定まって来た。ここら辺で里の代表者を決めておくべきだと思ってな」
「ふーん。それで? 誰が候補に挙がってるの?」

 里が出来始めてから早数ヶ月。
 子供達と遊んでいた私の元を訪れた猿飛殿に生返事で返せば、やけに深々と溜め息を吐かれる。
 やや気になる物を感じて、腰に手を当てて振り返った。

「なんだよ、猿飛殿。らしくない溜め息ばかり付いて」
「そうか? オレはお前に関わってから溜め息ばかりな気もするが」

 ――失敬な。

「他人事だが、お前だって立派な候補の一人なんだからな。そこんとこ、肝に命じておけよ」
「そうは言うけどなぁ……。オレじゃなくても里長に相応しい人は大勢いるだろ」

 子供達に服の袖を引っ張られ、宥める様に頭を撫でれば、にっこりと微笑みかけられた。
 可愛いなぁ、癒されるわ。

「柱間様〜、今日はどうするの?」
「んー、そうだなぁ」

 兎のぬいぐるみを抱えた女の子に声をかけられ、ちょっと考え込む。
 そうだなぁ、色々とあるけど……そうだ!

「ちょっと離れててね――木遁の術!」

 地面に片膝を付いて、印を組む。
 重々しい地響きと同時に、真っ平らだった大地から瑞々しい生命力に溢れた若葉を茂らせた木が生えて来た。
 子供達が興味津々の様子で見守る中、軽く勢いを付けてその枝に飛び移る。

「柱間様? なにしてんのー?」
「んー、皆の遊び場を作ってるんだ」

 用意していた縄をしっかりと枝に括り付けて、ぎゅうぎゅうに結ぶ。
 それから垂らされた縄の先に丈夫な板を括り付けた。
 ――これで、ブランコの完成だ。

「なーに、これ? 見た事無い」
「これはね、こうやってここに座って、それから地面を蹴るんだ。――やってごらん」

 初めて見る遊具に興味津々な子供達。
 無邪気な姿に頬を緩ませ地上へと飛び降りれば、猿飛殿は真剣な眼差しで私を見つめていた。

「お前はそうやってどうでも良さそうにしているが、複数の忍び一族が集ったこの里の中で誰が実権を握るのかは皆の注目の的なんだぞ。下手な人物に頂点に立たれてみろ、作り掛けのこの里なんぞ一瞬で崩壊しかねない」
「けどさ、それは下手な人物が成った場合だろ? この里の人達はそんな馬鹿じゃない。候補に挙げられている人達だって、それなりの実績と影響力を持った人達ばかりの筈だ」
「そうだな。そしてその中で最も有力株はお前だ。――その自覚を持て」

 確かに今のままの合同会議じゃ、里の規模が大きくなるにつれて対応が遅れがちになる。
 誰か一人を突出した権力を持つ人間として選んで、それに従う形にするのが一番手っ取り早いだろう。

「里長かぁ……。なんだかきな臭く感じて来たな」

 憂鬱な気分で空を眺める。
 雄大な景色広がる大空は私の気持ちとは正反対に晴れ晴れとしていた。



 私の零した呟きを耳聡く聞きつけたミトが、夕餉の後片付けをする手を休めて振り向いた。
 近くで忍具の手入れをしていた扉間もまた、私達の会話に聞き耳を立てる。

「里長……ですか。それで、柱間様は何を悩んでおいでなのです?」
「なんでかな? よく分かんないんだけど……胸の当たりがもやもやすると言うか、何か大事な事を忘れている様な気がしてならないんだ」

 ううむ。なんというか、喉に魚の骨が引っ掛かっている様なそんな感覚に近い。
 なんでこんなに気になるのだろうか。
 大事な事……里長の選出は確かに大事だが、それだけでこんなに気になる物かしら。

「まー、この規模の里長ともなれば単純に里内だけでは済まないだろうね。火の国の方からも指名が来そうだし……功績や年齢から言っても、日向の長老殿や志村の旦那が有力だろうね」
「そう済みますかねぇ」
「何だよ、扉間。やけに勿体振ってさ」

 くすくすとミトが笑う。
 それから可憐な微笑みを浮かべながら、私の方を見やった。

「柱間様は、里長になりたいと思われないのですか? これっぽっちも?」
「里長になるのもいいけど、先にしたい事があるからね。長になれば出来る事も増えるけど、出来なくなる事も増えそうだし」

 ある程度木の葉の成長を見届けたら、今度は火の国以外の隠れ里へと訪れたい。
 そうして、以前マダラへ告げた様に次は国と国との間での平和を成立させるのだ。

「オレとしては、扉間やマダラみたいな真面目で責任感の強い奴が里長になるべきだと思うよ。――最も、今のマダラに里長はちょっと難しいだろうが」
「あら? どうしてですか?」
「あいつの頭の中にはうちはしか含まれていないからな。あいつがうちはと同じ位木の葉の事を大事に思ってくれるようになったら、オレは喜んで一票を投じるぞ」

 今の私は千手だけじゃない。
 木の葉の里自体が私に取って守るべき対象であり、一族の垣根を問わずにここに住んでいる人々を守りたいと思っている。
 里の未来を担う子供達の健やかな成長と里に住む人々の幸せを望まずにはいられないと、つくづく感じてる。

「姉者は……随分とマダラの事を評価なさっているのですね」
「そりゃあ、何度も戦場で刀を交わした仲だからな。イズナ君程じゃないけど、あいつのことをそれなりに理解しているつもりさ」

 不貞腐れた表情の扉間の銀色の頭をワシワシと撫でれば、そっぽを向かれる。
 久方ぶりの子供っぽい仕草が可愛くて尚も撫で続ければ、今度はミトがくっ付いて来た。

「どうしたんだ、ミト?」
「――別に。ちょっと憎たらしくなっただけです」

 私達の柱間様なのに……という言葉の意味が分からなくて、戸惑う。扉間を見れば、ミトに同意だとばかりに深々と頷いていた。
 お年頃だからなぁ、この子達も。色々と悩みどころがあるんだろうな。




 そんな事を考えた兄弟団欒の晩から数日後。
 私の予想を裏切って、里の者達の推薦と大名側からの指名を受けたのは千手柱間――つまり私だった。
 こうして私は木の葉隠れの初代里長――『火影』へと任命されたのである。 
 

 
後書き
原作知識を駆使して〜みたいな話を読むのは好きなんですけど、個人的にはそこまで残る物なのかと思ってしまいます。だから彼女はもう残っていないというか、思い出せないし、忘れてる。 
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