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戦国異伝

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第十二話 三国の盟約その十一


 ただしそれを抜いてもだ。朝倉義景という男は評判になる程の暗愚な男であった。信長と平手はこのこともわかって話をするのだった。
「朝倉家を出たのです」
「そして将軍家にか」
「左様でございます」
「してどうした者だ」
「よくはわかりませんが幕府に入ってまだ日が浅いというのにです」
「うむ」
「公方様の信任を得ているとか」
 そうだというのである。
「それから察するに」
「その者も切れ者だな」
 信長は明智の話を聞いてこう看破した。
「へつらう者なら朝倉にいていられる」
「はい」
「しかしその朝倉から出て幕府に入りそれだとするとだ」
「やはりかなりの者でありますか」
「おそらく和田もそうであろうが」
 信長は和田のことも忘れてはいなかった。彼のこともだ。
「しかしその明智はだ」
「その中でもですね」
「とりわけ秀でているやもな。その三人も」
「その三人も」
「いや、美濃三人衆も入れるか」
 信長は不敵な笑みになって述べた。
「その者達もな」
「何と」
「六人もですか」
「人は多ければ多い程よい」
 笑ったまま平手と和尚に話す。
「だからよ。ここは六人をじゃ」
「いえ、六人では済みますまい」
 和尚は穏やかな笑みで主の笑みに言ってきた。
「そうでございますな。優れた者ならば誰であろうとも」
「むっ、わかるか」
「殿は昔からそうでございますから」
「人を見ればというのじゃな」
「今で既に尾張中の優れた者を全て集めております」
 その人の質で尾張を一つにしたと言っても過言ではない。しかもその人を政にも使ってだ。尾張を飛躍的なまでに豊かにもしているのだ。それが今の信長であるのだ。
「ですから」
「わしは見られておるようじゃな」
「殿だけでなく尾張も見ております故」
「尾張もか」
「はい、左様です」
 こう信長に言うのであった。
「ですからある程度はわかっているつもりです」
「手強いのう、和尚も」
「いえ、それは拙僧だけではありませんぞ」
 微笑んでそのうえでの言葉だった。
「これは」
「爺もか」
「平手殿もですし。他の方々もです」
「確かにのう。あの者達も見ておるわ」
 信長は袖の下で腕を組んだ。そうしてそのうえでまた述べるのだった・
「わしのことも尾張のことも」
「あえてそうした方ばかり選んでいるのでは?」
 平手の言葉です。
「若しくはそこまで高めるか」
「まあそうじゃ。わしは確かに人を求める」
 それは信長も充分に認めることだった。
「見込みのある者もな」
「そしてそれがですな」
「前田殿や佐々殿達ですね」
「あの者達もやるぞ」
 信長は自信のある声で話した。
「やがては一国を任せられるまでになる」
「そうですな。それは確かに」
 平手は信長の今の言葉に納得した顔で頷いて述べた。
「あの者達ならば必ず」
「今は権六に牛助か」
 柴田に佐久間であった。その二人を出したのだった。
「それと五郎左じゃな」
「五郎左もでござるか」
「あの者、わしの見込んだ通りよ。米じゃな」
 丹羽はそれだというのである。
「それじゃな」
「米ですか」
「そうじゃ、米じゃ」
 丹羽についてさらに話す。
「権六は掛かれよ」
「いつも掛かれ掛かれと仰ってるからですな」
「左様、だから掛かれよ」
 こう和尚に返す。
「そして牛助は退きじゃな」
「殿軍が優れているからですな」
「その通りじゃ。戦の主はやはりこの二人じゃな」
 そしてだった。もう一人の名前を出してきた。
「久助もじゃな。あの者もよいな」
「久助ですか」
「そうじゃ。わしの家臣達の中でもこの四人はやはり大きいな。しかしじゃ」
「しかし?」
「やはり筆頭は爺じゃ」
 ここまで話したうえで平手を見て笑ってみせたのだった。
「爺しかおらぬわ」
「それがしがですか」
「爺は服じゃな。それじゃな」
「それがしは服ですか」
「水でもよい」
 それにも例えるのだった。
「絶対になくてはならぬものよ」
「小言ばかり言ってもですかな」
「それは嫌じゃがな」 
 さしもの信長もこればかりは苦手だった。実際に今の平手の言葉には苦笑いになった。そうしてそのうえで言ったのだった。
「しかしやはり爺は欠かせぬ」
「左様ですか」
「新五郎は常に傍に置いておきたい」
 林のことだった。
「しかし留守役になるとじゃ」
「それがしでござるか」
「御主か勘十郎じゃな。宜しく頼むぞ」
「有り難き御言葉。それでは」
 平手は主に礼を述べながらまた茶を淹れはじめた。そうしてだった。 
 信長と和尚はその茶を飲んだ。そのうえでさらに話をするのだった。今はだ。そうして道三との会見の用意をしていくのであった。


第十二話   完


                 2010・10・8 
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