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戦国異伝

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第十二話 三国の盟約その八


 そしてだ。また彼に告げた。
「よいな、竹千代よ」
「だからこそそれがしに」
「その時はわしと共に先陣を務めてもらう」
「そして殿を都に」
「お送りするのじゃ。よいな」
「はい、それでは」
「してじゃ」
 ここでだ雪斎の言葉が変わった。急に穏やかな調子になった。
 優しい声にもなった。その声で元康に言ってきた。
「竹千代よ」
「今度は何でしょうか」
「そなたももういい頃じゃな」
 微笑みさえ浮かべて彼に話す。
「そろそろ嫁を迎えるのじゃ」
「妻をですか」
「まさか生涯一人でいるつもりではあるまい」
「はい、それは」
「さすればじゃ」
 こう言ってであった。
「そなた、嫁を迎えよ」
「相手は」
「既に考えてある」
 彼に優しい目を向けて話す。
「よい相手をな」
「そうでございますか」
「そなたには是非幸せになってもらいたいのじゃ」
「幸せに、ですか」
「そなたはわしの弟子じゃ」
 これは紛れもないことであった。駿河に来たその時から全てのことを手塩にかけて教えてきた。雪斎にとって元康はまさに愛弟子であったのだ。 
 そしてだ。こんなことも話した。
「義元様、氏真様と同じじゃ」
「御二人と」
「左様、同じじゃ」
 そうだというのであった。
「わしにとってはまことに大事な愛弟子じゃ」
「和上・・・・・・」
「そのそなたには幸せになってもらう」
 また彼に話す。
「大きくなってもらうと共にな」
「大きくですか」
「左様、大きくじゃ」
 このことも話したのだった。
「なってもらうからな」
「それがしの様な者にそこまで」
「いや、実際にじゃ」
「実際にとは」
「そなたは日増しに大きくなっておる」
 その元康を見ての言葉だ。
「わしは名馬を得たと思っていたがじゃ」
「違うというのですか」
「麒麟じゃった」
 元康を見続けていた。
「そなたはな」
「それがしは麒麟ですか」
「うむ、やがてこの国を駆け回ることになろうな」
「流石にそれはないかと」
「いや、ある」
 元康のその謙遜は許さなかった。そうした言葉だった。
「人は己の才に導かれる時もある」
「その時もですか」
「そうなるかは多分に運もある」
 そうした世の無常もだ。元康に対して語っていた。全ては彼に教える為である。
「だがそなたはだ」
「運があるというのですね」
「その顔の相を見る限りはな」
 そうだというのであった。
「ある。そのことも安心してよい」
「左様ですか」
「そなたは麒麟じゃ。そして天下を駆けるであろう」
「して何ができるでしょうか」
「おそらく。この世に泰平をもららす者の一人になる」
 そうなると。元康自身に語った。
「必ずな」
「そうであればいいのですが」
「何、なれる。ただ」
「ただ?」
「そうした意味でも織田の下には多くの者が集まっておるな」
「左様ですか」
「降せなければ倒されるのは我等よ」
 雪斎はその危険を現実のものとして考えていた。そこには何の楽観もなかった。現実を見てそれを厳しいものと断じている声であった。
「それはわかっておくことじゃ」
「はい」
「ではじゃ」
 ここまで話してまた話を変えてきた。
「茶でも飲むとするか」
「茶ですか」
「そなたには茶も教えておきたいのでな」
 また微笑みになっての言葉だった。 
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