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戦国異伝

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第十一話 激戦川中島その七


「私と同じく」
「殿のお相手はやはり」
「そうです、甲斐の虎です」
 彼に他ならなかった。信玄である。
「その彼と出会えた私は今このうえない喜びの中にいます。貴方もそうですね」
「確かに。真田殿とまた剣を交えたいと思っています」
「ならば。今はです」
「後詰を」
「この戦いの後詰は困難」 
 天下で最強とまで言われる武田軍の攻撃を防いでそのうえで軍を退かせるのだ。このことが困難でない筈がないことだった。
 謙信はその困難な戦にだ。あえて彼を向けた。そしてその理由も話した。
「その若武者に相応しい男になる為に」
「では」
「任せました。それでは全軍」
 黒い鎧の軍勢が謙信の言葉に応える。一万を超える大軍が彼の言葉の下に集まりそのうえで動いていた。
「越後に戻ります」
「はっ!」
「では!」
 こうしてだった。上杉軍は退きに向かった。後詰は謙信の言葉通り直江が務める。その彼に武田の名だたる将達が向かう。
「我こそは馬場信房!」
「秋山信友!」
「飯富虎昌!」
 それぞれ名乗ってだ。直江に向かう。
 しかしだった。直江はその彼等の前に槍ぶすまを作りそのうえで徐々に下がっていく。弓矢を放つもことも忘れはしない。
 その退く軍の最後尾にいてだ。彼は指示を出していた。
「よいか、誰も死んではならぬ!」
「死ぬなと」
「戦の場においてもですか」
「そうだ、死ぬな!」
 これが直江の指示だった。
「そして越後に帰るのだ」
「戦場で死ぬなとは」
「それはまた面妖な」
「死ぬ場所ではないのですか、戦の場とは」
「いや、そうではない」
 戦場に残って戦う彼等に対してだ。こう返す直江だった。
 自ら剣を振るいそのうえで。指示を出していた。
「それはだ」
「では何だというのですか」
「戦の場は」
「生きる場所だ」
 そうだというのだった。
「漢が生き、その己を見せる場所だ」
「そうだというのですか」
「この場所は」
「そうだ、だからこそだ」
「生きよと」
「そう仰るのですか」
「私もまた然り」
 実際にだ。彼は武田二十四将の者達と果敢に戦う。その武勇は幸村と大した時と全く同じであった。両手に持つ二本の刀を縦横に振るう。
 そのうえで戦いだ。彼は上杉軍の主力を見た。
 見ればだ。彼等は既に戦場を離脱していた。それを見てだった。
 直江はだ。己が率いる兵達に告げた。
「傷を負っている者を担げ!」
「はい!」
「では!」
「そしてだ。最後に弓矢を一斉に放て。鉄砲もだ」
「そのうえで、ですか」
「我等も」
「戦場を退く」
 そうするというのだ。
「わかったな」
「はい、では」
「今より」
「放て!」
 まずは弓矢を放たせる。そしてだ。
 鉄砲も撃たせた。数は僅かだがそれでも撃たせた。
 そうして一斉に戦場を離脱した。最後に直江もまた。
 無事川中島を後にした。残ったのは武田の軍勢だけだった。 
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