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戦国異伝

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第十一話 激戦川中島その三


「宜しいでしょうか」
「むう・・・・・・」
「そして」
 幸村は今度は直江に対して言うのだった。
「直江兼続殿であられますな」
「如何にも」
「貴殿も傷ついた者と戦われるのは好きではありますまい」
「それがしが欲しいのは」
 直江はその彼の言葉を受けて己の言葉を返したのだった。
「大丈夫な強き者の首でござる」
「それはここはです」
「宜しいでしょう。ただ」
「はい」
「その手にある二本の槍」
 幸村が両手に持っているそのそれぞれの十字槍を見てであった。
「貴殿が真田幸村殿であられますな」
「その通りでござる」
 幸村は清々しい笑みで直江の言葉に頷いてみせた。
「それがしがです。真田幸村でござる」
「一度貴殿と手合わせしたいと思っておりました」
 そうだというのであった。
「宜しいでしょうか」
「それがしもです」
 幸村も応える。
「上杉家に名を馳せる直江殿とです」
「左様ですか、それは」
「はい、いざ」
「参ります!」
「覇っ!!」
 二人の若武者の戦いもまたはじまったのだった。
 武田と上杉の死力を尽くした戦いは続く。その中でだ。
 黒い、車懸かりの本陣の中にだ。いた。
 女に、しかも絶世の美女にしか見えない。涼しげな顔立ちに流麗な面立ち、鼻も目も実に整いいい形をしている。白い雪の如き顔に紅の小さな唇、黒い鎧と服に白い陣羽織に頭巾をしている。その者こそがだ。
 上杉謙信。戦国のこの世に現れた軍神である。その女にしか見えぬまでの流麗な美貌を見せる者がだ。今戦場を見据えてそこにいた。
 そしてだ。こう周りの者に問うた。
「直江はどうしていますか」
「はっ、直江殿は」
 黒い鎧の男達のうち一人がその問いに答えた。
「今真田幸村と一騎打ちの最中です」
「真田とですか」
「はい、武田の若き虎とです」
「わかりました」
 謙信はその言葉を聞くとまずは納得して頷いた。その声もだ。女のものにしか聞こえはしない。そしてその姿形もだ。実に整いさながら男装の麗人である。
 その美しき者がだ。今言った。
「時は来ました」
「では」
「行かれるのですね」
「甲斐の虎、決着の時です」
 言うとだ。謙信の前にだ。
 馬が来た。漆黒の馬がだ。
 それは謙信の前で止まりだ。今主を呼んだ。
「わかっています。我が愛馬よ」
 謙信も馬の声を聞いた。そうしてであった。
 風の如き素早さで馬に乗り。すぐに前に駆けた。
「参ります、甲斐の虎!」
 何とだ。ただ一騎で駆けはじめたのだ。
 そしてだ。死闘の続く戦場を駆ける。
 武田の者達がだ。その姿を見つけ口々に言う。
「まさかあれは!?」
「そうだ、間違いない」
「上杉だ」
「上杉謙信だ!」
 その姿を見て驚きを隠せない。精強を謳われた武田軍がだ。
 思わず道を開ける。その姿を見てだ。
「くっ、一騎でだと!」
「大将自ら来るか!」
「と、止めろ!」
 こういう声もあることにはあった。
「上杉謙信を止めろ!」
「し、しかし!」
「速い!」
 謙信はあまりにも速かった。その速さはまさに疾風であった。誰もが追いつけるものではなくだ。謙信は一直線に進んできていた。 
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