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魔法少女リリカルなのは 平凡な日常を望む転生者

作者:blueocean
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第88話 動き出す者達

「そこで先輩はそのまま………」

部屋に重い空気が漂う。
暫く無言だった中、桐谷が俺に問いかけてきた。

「零治、それでその後バルトマンはどうなったんだ?」

「後に聞いた話だと深手を負ったアイツをシャイデが呼んだ応援の魔導師が捕まえたらしい」

『エリット・クリースだね』

「スカさん!?」

「すまん零治、私がドクターにも聞いてもらった方が良いと思い、勝手に通信を繋げてた」

そう言って頭を下げるフェリア。

「構わないさ。どっちにしてもスカさんの手を借りなくちゃいけないだろうし」

「ドクター、エリット・クリースって誰っスか?」

「今、管理局でエース・オブ・エースと呼ばれる魔導師だな。もっとも今は神崎大悟の方が注目されているがな」

ウェンディの質問にスカさんではなく、ゼストさんが答えた。

「じゃあ強いの?」

セインがそれを聞いてゼストさんに向かって手を上げて質問するが、ゼストさんは何とも言えない顔で言葉を濁しながら答えた。

「いや、魔力ランクもAAと高い方ではあるが、当時、戦闘技術はそこまで高くなかった」

「ん?それってどういう事?」

静かに聞いていたルーもイマイチ分からなかったのか、ゼストさんの服の袖を掴み聞いた。

「………要するにバルトマン程の相手と戦って勝てる程の実力は無かったって事ですか?」

「そう言うことだ」

桐谷の問い掛けにゼストさんは肯定した。

「ゼストさん、それって本当ですか?」

俺自身そんな話を聞いたのは初めてだ。
エリートで高魔力、間違いなく、逸材だと騒がれていたのはニュースになってたりしたが………

「ああ、俺がまだ管理局の魔導師だった頃はそうだった。」

「私も見たことあるけど、そんなに実力がある魔導師じゃなかったわよ」

メガーヌさんもそう言ってるって事は確実なんだと思う。

「でも深手だったんでしょ?だったらいくら残念な奴でもなんとかなるんじゃないの?」

キリエの言うことも最もだが、奴がいくら深手でも簡単に捕まるとは思えない。
って事はもしや………

「う〜難しい話ばっかで訳分かんない!結局どういう事なの?」
「レヴィ、要するにレイの言っている先輩が実はそのエースさんに殺されたのかも知れないってことです」

シュテルの説明を聞いて驚くレヴィ、ユーリ、ウェンディ。
前の2人はともかくウェンディ………

「レイ、結局レイの大事な人を殺したのはそのゴミって事ですか?」

「優理、頼むからそんな言葉使わないでくれ………」

「いえ、ここは敢えて屑ゴミと呼ぶことにします」

「何で更に悪くなった!?………それにこれには証拠も何も無いし、ただの仮定に過ぎないから!!」

「でも気にならないのですか?」

「そうだぜ!!お前の大事な人だったんだろ!?」

意外とキャロもアギトもエリットが怪しいと思ったのか、真剣に聞いてきてくれる。
と言うよりは俺の事を思ってくれているって感じだな。

本当に嬉しい………

「聞いたも何も、色んなインタビューで自信満々に話してたからな………」

それを聞いて、エリットがどんな人物が分かったみたいだ。

「本当に残念な人そうですね………」
「だな、そんな奴に斧男は倒せん!!」
「見かけたら僕の剣の錆にしてやる!!」
「レヴィの剣に錆びはつきませんけど」

チビッ子マテリアル達は取り敢えず置いておこう………いちいち突っ込んでいたら埒があかん。

「ほら4人共、静かに話を聞いてましょう?」

そんな4人の面倒を優しくみるアミタ。
親近感を覚えるのは何故だろうか?

「「「レイ………」」」

そんな中、今まで一言も話して無かった星、ライ、夜美が恐る恐る声をかけてきた。

「どうした3人共?」

「私達、もしかしたらそのウォーレンさんに会ったことあるかもしれないんです」
「僕も………」
「我もだ………」

「えっ!?」

予想外の言葉に俺は固まる。
星達が家に来た頃にはシャイデの依頼も忙しくなり、地球に来れる様な余裕は無かった筈だ。

「………いつ?」

「私達がレイの家に来たばかりの頃です」

「前にレイが買ってきてくれたケーキを食べたくなって、家を出たことがあるの」

「その時、迷った我等3人を助けてくれた人物がレイの話してくれた人に共通点が多いのだ」

そうなのか………
だから先輩はこの3人を知っているような口振りが多かったんだな………

「私達のお父さんになるかもしれなかった人なんですね………」

「ゆっくり話して見たかったな……僕」

「運命は残酷だな………」

夜美の言う通り運命は残酷なのかもしれない………
だけどそれでも俺には大事な家族が出来たし、大事な事を多く教わった。
そして何より1人だった俺に居場所を与えてくれた。
そんな先輩との出会いを残酷だったなんて思いたくない。

「夜美、それは違う。俺は先輩と出会ったことで人生を大きく変えてもらった。そんな先輩との出会いを残酷だったなんて言わないでくれ………」

「レイ………」

「確かにあの直後は自分を呪って八つ当たりする様に片っ端からテロリストを潰してきた。自分の事を考えずにただがむしゃらにな。だけどそれを救ってくれたのは家族に成り立てだったお前達3人なんだよ」

「「「レイ………」」」

「人の人生は辛く苦しいことが多い。それを支え会うのが家族だったり好きな人だったり親友だったりする。俺は家族に救われた。だから俺は家族を一番大事にしてるんだ」

そんな俺の言葉をみんな真摯に聞いてくれた。

「本当に君はときどき大人のような事を言う………まるで年長者の言葉かと思ったぞ」

「ゼストさん、俺はまだ若いっすよ」

『だけど私も時々思うときがあるよ。その精神年齢の高さも、もしかしたらそのウォーレンという人物との出会いで培ったものだったのかもしれないね』

ごめんスカさん、精神年齢は30近いんだ………

「だからさ、シャイデをこのままほおっておく訳にはかない。誤った道に進もうとしてる家族を止めるのも家族の役目だ。だけど俺達だけじゃとても無理だ。だからみんな、協力してくれ!頼む!!」

皆に頭を下げて俺は頼んだ。
アイツだって俺の大事な家族なんだ。先輩にだって頼まれてる、絶対に犯罪者にさせてたまるか!!

「私達は当然手伝います」
「そうだよ僕だって!」
「我の答えも当然決まっている」

先ずは家のマテリアル達が、

『私達も当然手伝うよ。零治君にはいつもお世話になっているしね』

「俺も手伝う」
「当然私達もよ。ね、ルー?」
「うん」

スカさんとルーテシア一家が、

「なら私達も手伝わなければな」
「そうだねフェリア姉」
「ノーヴェ、足を引っ張ったらダメっすよ」
「お前だけには言われたくねえ!!」

フェリアとダメっ子達が、

「フェリア達4人が協力するのに俺が動かない訳にもいかないな」

桐谷が、

「お兄ちゃん、私も協力します!!」
「レイの敵は私の敵です」
「アタシは言わなくても分かってるよなマスター?」

キャロ、優理、アギトが、

「………ここまで来て帰るなんて事は出来ないわね」
「当たり前です!!ここで見捨てたら女が廃ります!!」
「よく言った赤いの!!我等の力をもってすればどんな相手でも問題ない!!」
「僕達最強!!」

「あの………ディア、ライ?」
「王、私達は人探しをするのですよ」
「なんと!?」
「王様バカだなぁ〜」
「貴様もだろうが!!」

再びバカ騒ぎを始めるチビッ子マテリアル達。
だけど平行世界組も協力してくれることになった。

「………」

「加奈………」
「分かってるわよ桐谷、分かってる………」

加奈は何も答えてはいないが協力してくれると思う。

「本当に俺の回りにはこんなに助けてくれる人たちがいる………」

その事に心から感謝して静かに頭を下げた。

「先輩………先輩は死んじゃったけど俺の周りにはこんなに大事な人達が出来たよ。シャイデも必ず連れて帰るから安心して見ていてくれ………」

俺は先輩に誓うように呟き、これからの事をみんなと相談し始めた………














「で、どうなのこの子の調子は?」

薄暗い一室。
一組の男女が手術台のような机を間に挟んで話していた。

「ふむ、まだ拒絶反応が多少見えるが、これくらいなら許容範囲だろう。いつでも始められるよ、君の復讐を………」

男にそう言われ、机に寝かされた女の子を見る。
その女の子の頭には多くのコードが伸びており、首には何かの機械の首輪がついている。

「じゃあ、早速明日動くわ。アイツは今どこにいるの?」

「今日中に第9無人世界グリューエンから本局の拘置所へ移送されるだろう。死刑まであと半年に迫ってきたからね。移送完了は大体15時位になると思うよ」

「なら明日の15時に始めるわ」

「おや?もっと早く始めなくて良いのかい?」

「ええ、それで良いわ」

「分かったよ、ならばそれまでしっかりと調整しておくから君は隣の部屋で休んでれば良い」

「結構よ、あなたは私に協力してくれてはいるけど信じられないから」

「おやおや………」

男は苦笑いしながらつぶやいた。

「まあ無理をしないように頼むよシャイデ・ミナート」

「貴方こそ失敗は許されないんだからねクレイン・アルゲイル」

その後は2人とも何も喋らずただ単に時間だけが過ぎていった………









「バルトマン・ゲーハルトがミッドに来る?」

神崎は自分の家の机に座り、ディスプレイを見ていた。
自分の所属している武装隊からメッセージが入っていたので、折り返し連絡したのだが………

『はい、半年後の死刑のためだって聞きました』

ディスプレイに写っている武装隊の一人が言う。
今日は色々とあって家でゆっくり休みたかったんだけど………

「………俺、明日も完全休暇の筈だったよな?」

『こっちも困ってるんですよ!!いきなり上から移送を早める伝達を受けて………』

「上から………」

神崎はその言葉に嫌な予感を感じた。
原作では全くというほど触れられていない場所ではあるが、この世界は既に原作離れしている。
何が起こるか分かったもんじゃない………

「はぁ、何事も無ければいいけど………」

神崎大悟。
心代わりしてからというもの、皆からの評価がかなりうなぎ登りし、実質上管理局最強の魔導師と共に、管理局最後の砦でもある………













『私達も警備ですか?』

「ああ、そこまで神経質になる必要もねえと思ってるんだがな、上からの命令でな………」

『分かりました、なら私も行きます』

「ああいいって、いいって!!はやての嬢ちゃんは少ない休みなんだからゆっくりしとけって。どうせ警備だけだから大丈夫だって」

『そうですか?ならいいんですけど………』

「今日連絡したのは一応伝えておこうと思ったからだ。じゃあそっちでゆっくりしとけ」

『ありがとうございますゲンヤさん』

そこで通信が切れ、通信していたゲンヤ・ナカジマは自分の椅子に深くもたれ掛かった。

「ふぅ、俺も久しぶりの休みだったんだがな………」

自分のデスクの上に置いてある写真立てを取り、写真を見る。
そこには青い髪の女性とその娘なのか5歳位の女の子と3歳位の女の子が笑って写っていた。

「スバルは怒るだろうな………はぁ………」

誰もいない一室でゲンヤのため息が
大きく吐かれた………








「ああ、分かった、準備しておく」

「お兄ちゃん、誰から?」

「ん?ああ、ウォーレンの元相棒からだよ。さて、飯にしようティアナ」

そう言って通信機を置き、自分の席に座るティーダ。

「お兄ちゃん、明日の事なんだけど………」

「あ、ああ済まない。さっき管理局から連絡があって急に仕事が入っちゃたんだよ………」

「じゃあ買い物は!?」

「また今度って事で」

そう言ってティーダは妹に対して深々と頭を下げた。
そんな兄を見て、不機嫌になりかけていたティアナも苦笑いして兄の頭にチョップを落とした。

「痛っ!?」

「それで勘弁してあげるから次こそ約束は守ってね」

「………ありがとうティアナ」

その後も2人の楽しい食事は続いた………






その日の深夜………

「………バルトマン・ゲーハルト」

その声の主をバルトマンは聞いたことがある。
かつて自身のデバイス、バルバトスを渡した張本人でもあり、冥王教団とのパイプとして動いたのもこの声の主である。

「迎えにきたよ」

「………」

目隠しをしている為、誰なのか分からない。
しかも囚人に着けるマスクのせいで声を出すこともできない。

「君にやってもらいたい事がある。君を殺したい女性がある方法を使って君を襲ってくるだろう。その方法は私の研究成果でね、どれくらいの出来かを調べて見たいんだよ。だから君にこれを………」

そう言って声の主が取り出したのは赤い玉。
それは直接バルトマンの左胸に飛んでいき、そのまま左胸に突き刺さった。

「!!?」

「大丈夫、体に害はないよ」

しかしバルトマンにはその言葉も耳には入ってなかった。
なぜなら………

(力が沸き上がってくる!!今すぐにでも破壊してぇ!!殺してぇ!!)

自身の体の変化で頭が一杯になっていたからだ。

「ふふ、やっぱり君はレリックとも相性が良いみたいだね、だけど今すぐに行動されても面倒だからロックさせてもらうよ」

そう言った瞬間、バルトマンの体が思うように動かなくなった。

「!?!?」

「大丈夫だよ。明日時間になったらロックを外してあげる。後は自由に暴れるといいよ」

そう聞いたバルトマンは安心したのか体から力が抜けた。

「では、明日を楽しみにしてお休みなさい」

そう言って声の主は静かに消えていった……… 
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