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戦国異伝

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第十話 信行の異変その六


 それを考えるとだ。信長の決断は妥当だった。
 それで彼につくように命じたのだった。こうして信行の下にだ。その津々木がついたのだった。
 しかしだった。この男のことはだ。後になって家臣達がそれぞれ信長に言うのだった。
 まずは柴田がだ。剣呑な顔で彼に告げた。清洲に戻ってすぐにだ。城内は不穏な空気を感じさせる場になってしまっていた。
 柴田がだ。こう彼に話した。
「殿、あの男ですが」
「津々木か」
「どうも怪しいものを感じてなりません」
「それがしもです」
 次に林が出て来て言う。
「あの男用いたのは誤りでは」
「そう思うか」
 信長は二人の重臣達の言葉にその目を鋭くさせた。
「御主達も」
「我等もとは」
「まさか」
「あの男、おそらく只者ではあるまい」
 こう彼等に告げる。
「尋常な者ではな」
「では何故なのですか」
「あの男を用いたのは」
「左様です」
 松井も彼に言ってきた。
「怪しいと思われるのなら何故用いられたのですか」
「何かお考えがあるのですか?」
 今言ったのは管屋である。
「それでなのですか」
「信行の目よ」
 信長がここで言ったのはこれだった。
「あの目、普段の信行と全く違っていた」
「むっ、そういえば」
 ここで言ったのは佐久間重盛だった。
「信行様の目は普段は澄んでおられるのにあの時は」
「大学、気付いたな」
「はい」
 佐久間重盛は主の言葉に頷いてみせた。そのうえでまた語る。
「何か濁り。そして囚われているような」
「あの様な目の勘十郎は見たことがない」
 信長の顔もここで剣呑なものになる。
「間違いなくあの男と会ったことが原因だ」
「では殿」
 池田が言ってきた。
「あの男、除きますか」
「幾ら剣の腕があろうとも」 
 前田は今にもいきり立たんばかりである。
「わしの槍があれば」
「いや、叔父御それはだ」
 その彼を慶次が止めるようにして言ってきた。
「わしがやる」
「何っ、慶次わしの手柄を横取りするのか」
「ははは、その通り」
 わざとこう言ってみせた慶次だった。笑ってまでみせてだ。
「そうさせてもらいたい」
「ふざけるな、あの男どうにもいけ好かぬ」
 前田は目を怒らせて自分とそれ程歳の離れていない甥に言い返した。
「成敗するというのならわしがだ」
「二人共よさぬか」
 いいあらそ二人を池田勝正が止めた。
「殿の御前ぞ」
「むっ、済まぬ」
「これは失敬」
「それはよい。しかしだ」
 信長は前田家の叔父と甥の喧嘩はいいとしてさらに話した。
「ではあの男は除くべきと思わぬ者はおらぬか」
「はい」
「一刻も早くです」
「斬るなり追放としましょう」
「それが宜しいかと」
「確かにな」
 信長は家臣達の言葉に袖の奥で腕を組んでまずは応えた。 
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