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戦国異伝

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第九話 浮野の戦いその六


「しかもじゃ」
「斉藤も出ているとなれば」
「尚更ですね」
「ここは弾正に全力を向けたかったがのう」
 悔しさもここで見せる。
「しかし言ってもはじまらぬ。それでは頼んだぞ」
「はっ、わかりました」
「それでは」
 こうして山内と堀尾は千の兵を率いて尾張北東の犬山方面に向かいそこの砦の一つに入った。そうしてである。信賢は五千の兵を率いて信長の元へ向かうのだった。
 両軍はぶつかったのは。浮野であった。
 まずはだ。信長が言った。
「伊勢守よ!」
「何じゃ!」
「あくまでわしに従わぬか」
「笑止!」
 こう返す信賢だった。
「何故貴様なぞに従わねばならん。わしは尾張守護代ぞ」
「だからだというのか」
「そうよ。弾正、貴様は所詮大和守の家の者」
 その対立する立場を会えて強調する言葉であった。
「その貴様に何故わしが従うか」
「わしは今や守護様亡き今尾張を治める座にあるからよ」
「それはわしの立場。今それを教えてやろうぞ」
「どうしても従わぬというのか」
「如何にも」
 引かない。彼もまただ。
「それではじゃ。弾正、今から貴様のその首を取る」
「抜かせ、ならば来い!」
 こうしたやり取りの後で攻撃に出る信賢の軍だった。六千の軍は一斉に向かって来た。そしてこの時にだ。信賢はあることに気付いたのである。
「ふむ」
「殿、どうなされました」
「一体」
「弾正の兵思ったより少ないのう」
 気付いたのはこのことだった。
「どうじゃ。そう思わぬか」
「確かに。八千はあると聞いていましたが」
「思ったより少ないですな」
「六千程度かと」
 家臣達もその信長の青い軍勢を見て言う。
「あとの二千は一体」
「どちらへ」
「今川への備えか」
 ここでこう考えた信賢だった。
「それでなのかのう」
「成程、それならばです」
「説明がつきますな」
「確かに」
 家臣達は主のその言葉に頷いた。
「さすればこのままですね」
「数は互角です」
「そのうえ地の利があります」
「では」
「よし、一気に攻めるぞ」
 信賢は好機と見た。それで、であった。
 そのまま攻める。それに対して信長はだ。
「敵の勢い、凄いものだな」
「はい」
 傍らにいる平手が彼の言葉に応える。
「まさに火ですな」
「それに対して我が軍はじゃ」
「何というのですかな」
「木じゃな」
 笑ってこう言ってみせたのである。
「それじゃな」
「木、ですか」
「そうじゃ。木じゃ」
 彼はまた言ってみせた。 
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