| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

戦国異伝

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

第九話 浮野の戦いその三


「しかしこの三つの家が重要ですね」
「やはり」
「しかもじゃ」
 信長はここでさらに言うのであった。
「この三つの家は何処もお家騒動を抱えておる」
「ではそこに付け込み」
「そのうえで」
「ここは安芸の毛利に習うとしよう」
 涼しげに述べる信長だった。
「その時が来ればのう」
「毛利にですか」
「あの男に」
「しかしわしはどうもあの男程徹底はできんな」
 信長は首も傾げさせもした。
「あの男は平気で暗殺だの謀殺だのをするがじゃ」
「殿はそこまではですか」
「考えておられませんか」
「そこまではできん」
 実際にそうだというのであった。
「三つの家の主はまあ命までは取らぬ」
「ではその様に」
「その時は」
「まあ先の話じゃがな」
 それでもであった。ここで信長が言うには理由があったのだった。
「しかし今から種を撒いておく」
「種をといいますと」
「今から」
「そうだ、仕掛けておく」
 既にだというのであった。
「尾張を統一すればまずは伊勢だ」
「伊勢街道を押さえますか」
 佐久間盛重がこう指摘した。
「そこをですね」
「左様。さて、その時問題となるのは」
 信長は己の横の正妻を見た。帰蝶はたまたま同席していたのである。
「そなたの親父殿じゃな」
「父上が、ですか」
「どう出るかのう。もしやわしと」
「その時は思う存分戦われませ」
 帰蝶は落ち着いた声で信長に告げた。
「殿の思われるままに」
「ほう、それでいいのか」
「はい。帰蝶はです」 
 そして言うのであった。あのことをだ。
「殿の妻でありますから」
「言うたな。その時が楽しみぞ」
「尾張の蛟龍と美濃の蝮」
 帰蝶の言葉には思わせぶりな笑みが宿っていた。
「どちらが龍になるでしょうか」
「ははは、龍か」
 龍という言葉を聞くとだ。信長は急に顔を崩して笑った。そうしてそのうえでだ。こう言ってみせたのであった。
「龍は既におるわ」
「といいますと」
「越後にのう。上杉がじゃ」
「上杉?長尾だったのでは?」
「今日話が入った。長尾から関東管領の職を譲り受け上杉となった」
「上杉家を継がれたというのですね」
 帰蝶も何故姓が変わったのかはすぐにわかった。戦国の世では常にあることだからだ。
「それでなのですか」
「左様じゃ。そして名前もじゃ」
 信長はそれについても話した。
「公方様から一字貰い受け輝虎となった」
「輝虎ですか」
「今の龍の名前は上杉輝虎よ」
 それが今の彼の名前だというのだ。
「わかったな」
「わかりました。それが龍ですね」
「わしは龍にはならん」
 信長はさらに言ってみせた。 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧