戦国異伝

「さすれば何が望みか」
「御言葉ですが」
　菅屋はすぐにだ。主に対してこう述べてきた。
「殿のお側にいとうございます」
「わしの側にか」
「はい、そのうえで殿をお守りしたいと思います」
　これが彼の願いであった。
「それえ宜しいでしょうか」
「ふむ、それではじゃ」
　それを聞いてだ。それぞれ左右にいる二人を見た。そうしてだった。
「新助」
「はい」
「小平太」
「はっ」
「そなた等と同じとする」
　こうその二人に告げてであった。
「これからは三人でわしの馬廻衆となれ」
「有り難き御言葉」
「これより馬廻衆は毛利秀高、服部一忠と菅屋長頼の三人とする」
　こう周囲にも話す。
「それでよいな」
「はっ、それでは」
「これより」
「さて、それではじゃ」
　菅屋の話が終わって後だった。信長はさらに話した。今は夕刻で既に陣を敷いている。彼は己の家臣達と共に本陣にいる。白い幕に織田のその家紋がある。
「坂井太膳は討ち取ったな」
「その他にもです」
「信友の主だった家臣の多くを」
「そうじゃな。これだけ倒せばじゃ」
　見ればそこにあるのは太膳だけではなかった。他の信友の主だった家臣達もだ。多くいた。
「かなり楽じゃ。あ奴は手足をもがれたも同じよ」
「さすればです」
「これからはどうされますか」
「無論清洲に進む」
　信長はまずはこう言った。
「そしてじゃ」
「そしてですか」
「さらにですね」
「城を取り囲む。その際やることがある」
　その言葉は早かった。
「朝早くに城の周りに進みそこにある田を全部刈れ」
「全てですか」
「青田刈りですね」
「稲は全てそこの百姓達にやるがいい」
　その稲の使い方も忘れていなかった。
「無論米もじゃ。しかし清洲には一粒も入れるな」
「そうして清洲を取り囲み」
「そのうえで、ですか」
「そうじゃ。攻めはせぬ」
　ここで意外なことを言う信長であった。そしてだ。ここでまた人の名を呼んだ。
「吉兵衛、助直、所之助」
　村井、武井、島田の名が呼ばれた。
「それに与三もじゃ」
「清洲の周りの城にですね」
「今から迎えと」
「そう仰るのですね」
「そうじゃ。それぞれ行って下して来るのじゃ」
　こう彼等に命じるのだった。
「よいな」
「はっ、それでは」
「すぐに」
「それともう一人必要じゃな」
　ここで家臣達の中にいる一人の若者を見た。見れば森に似ているが彼よりも背のある。その彼に対して声をかけるのであった。見れば中々見栄えのいい男だ。
「勝三」
「はっ」
「そなたも行け」
「わかりました。ではこの森長可」
「うむ」
「城を一兵も使わず下して参ります」
「そうせよ。では他の者はわしと共に明日の朝早くじゃ」
　こう話してであった。早速朝早くに各城に人をやりそのうえで清洲城を取り囲む。そして次の日の朝であった。