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木の葉芽吹きて大樹為す

作者:半月
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若葉時代・プロローグ

 その空間には、大勢の人々の姿があった。
 どの顔も緊張した表情を浮かべたまま、視線は逸らされる事無く、ただひたすらに正面へと向けられている。

 彼らの見守る先、一段高く設けられた壇上には二つの人影があった。

 ――肩にかかる黒髪に黒目の、中性的な面差しの背の高い人物。
 ――硬質な黒髪を結わずに背に流している、赤い目を持つ青年。

 一人はどこまでも静謐な表情のままで、もう一人はどこか固い面持ちで。
 そんな二人の間に銀髪の青年が進み出て、明朗たる声を空間中へと響かせた。

「――以上が両一族間で交わされた盟約の内容です。異論のある者、不服のある者はおりますか?」
「……っ」

 壇上に立つ青年が、唇を小さく噛み締める。
 それに気付いた向かいに立つ人物は、哀しげに視線を伏せた。
 しかし、それも一瞬の事。
 黒い瞳が真っ直ぐに青年の両目を見つめ、そうして青年の前にその人の手が差し出された。

「兄上……」

 銀髪の青年が目を見開いて、小さな声を零す。
 一段下がった所で食い入る様に彼らの姿を見守っていた人々の間でも、あちこちで驚きの声が上がった。

「……」

 無言で、差し出された右手を青年が赤い目で見つめる。
 ゆっくりと、青年の右手が伸ばされる。
 僅かに躊躇う様に一度その手が竦んで――ややあって、二つの手は確りと結ばれた。

 結ばれた両手に視線を落とし、黒い瞳がゆっくりと伏せられる。

「……確かに、我らは昨日までは敵対者であった――しかし」

 静かな声が、室内にいる誰もの心に沁み入る様に言葉を紡ぐ。
 柔らかな微笑みが、その人の顔を彩った。

「――――今日のこの時から、我らは同盟者だ」

 ……うちはと、千手。
 長い間対立し合って来た彼らは、この日、同じ目標を目指して協力し合う『仲間』となった。
 
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