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銀河英雄伝説〜ラインハルトに負けません

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第百三十五話 イゼルローン要塞、異常なし

 
前書き
引越準備が忙しいのですが、夜間は暇なので新話投下です。 

 
帝国暦484年1月1日

■イゼルローン回廊 アルテナ星域 

イゼルローン要塞では484年の新しい年を迎えていた。昨年の帝国混乱を思いだし多くの人達は今年はよい年であるようにと思いながら天空の人工惑星での新年を迎えるのであった。

しかし、イゼルローン要塞のある恒星アルテナ周辺では工作艦隊、工兵隊、建設部隊などが新年を祝う事も忘れたように、せっせせっせと建設作業に従事していた。

「ブリーシンガルの首飾り設置は順調か?」
現場で活躍する、工兵大将が現場主任の工兵少将に問いかけている。
「イゼルローン要塞に比べたら遙かに小さい玉ですからね、建設は順調です」

「イゼルローンツヴァイの方も順調だし、此等が完成すれば叛乱軍の攻撃など簡単に撃破できるな」
「そうですね、後は建設終了まで敵が来ない事を祈るだけですね」
「その為に、皇太子殿下の喪中を大々的に宣言して頂いたのだから」

「事情を知るもの達以外はヤキモキとさせれれるでしょうね」
「確かにな」
そう言いながら、イゼルローン要塞を見る2人であった。


■イゼルローン要塞

工兵隊がせっせと新施設の建設を続ける中、イゼルローン要塞の司令室では要塞司令官トーマ・フォン・シュトックハウゼン大将と駐留艦隊司令官ハンス・ディーリッヒ・フォン・ゼークト大将が、建設中の施設を見ながら話ていた。

原作と違い勅命により要塞司令官と駐留艦隊司令官の不仲が多少なりとも緩和されたためでもあった。

「うむ、イゼルローンツヴァイとブリーシンガルの首飾りか、僅かの間に技術が進んだものだ」
「そうだな、ツヴァイと首飾りを見た叛徒共の驚く顔を見たい気がするな」
「全くだな、尤も叛徒共が攻めてこない方が良いのだがな」

シュトックハウゼンの言葉にゼークトが頷く。

「それにしても、叛徒共の軍事衛星の細評を良く手に入れられたものだな」
「そうだな、首飾りは360度全方向に対して攻撃能力を有して、レーザー砲、荷粒子ビーム砲、レーザー水爆ミサイルといったありとあらゆる兵器を装備しているそうだ」

「言ってみれば、浮遊砲台を宇宙空間に上げたような物だからな」
「しかも、オリジナルと違い流体金属で回りを囲うそうだ」
「叛乱軍の驚く顔が目に浮かぶな」

「違いない」
「敵もまさか自分達の兵器が向けられるとは思わんだろうからな」
「完成まで敵が攻めて来ない事を祈るだけだ」

シュトックハウゼンとゼークトの心配を余所に嘗てイゼルローン要塞建設を行い予算超過で時の皇帝オトフリート5世により死を賜った、セバスティアン・フォン・リューデリッツ伯爵の時と違い、恐るべき急ピッチでイゼルローンツヴァイとブリーシンガルの首飾りの建設が行われている。其処まで帝国の技術力が上がったのか些か不思議に思う2人であった。


帝国暦484年1月10日

■オーディン ノイエ・サンスーシ 小部屋

この日、定例と成った秘密会議が開かれていた。参加者は皇帝フリードリヒ4世、皇女テレーゼ、兵総監にしてスパイマスターでもあるグリンメルスハウゼン上級大将、博識である憲兵副総監ケーフェンヒラー大将、実際に動く責任者でもある憲兵総監高級副官ケスラー中将の5人である。

「皆、昨年はご苦労で有った」
皇帝の言葉に参加者は自然と頭を垂れる。

皇帝の言葉が終わると、ケスラー中将が報告を行い始める。
「皇帝、皇女殿下、誠に申し訳ないことでありますが、今だリューネブルクを捕縛することが出来ておりません。偏に我ら憲兵隊、警察等の失態に御座います」

ケスラーが非常に済まない表情をしながら、報告を行うが、その言葉を聞きながらフリードリヒ4世もテレーゼも不快感や嫌悪感を見せる事もなく、ケスラー達を慰労する。

「ケスラー達は良くやってくれている。リューネブルクは流石ローゼンリッター連隊長で有っただけあり、一筋縄では行かない男じゃ。尚一相の努力をしてくれればそれでよい」
「御意」

ケスラー達はフリードリヒ4世の言葉に安堵の顔を見せる。
フリードリヒ4世は続いてイゼルローンツヴァイについて説明を求める。
「ケスラー、イゼルローンツヴァイはどの様なじょうたいじゃ?」

「はっ、現在、イゼルローンツヴァイ、ブリーシンガルの首飾り共に485年に完成予定で急ピッチで建造が進んでおります」

「ふむ、イゼルローンツヴァイの細評はどの様なものじゃ?」
「はっ、ツヴァイはイゼルローン要塞と対になる形で設置されております。直径60km、表面が流体金属層で覆われる点はイゼルローン要塞と同じですが、質量がイゼルローン要塞60兆トンに対してツヴァイは100兆トンと40兆トンの増加となっています」

その言葉を聞いて、ツヴァイ建設を主張したテレーゼとの話を思い出したのかフリードリヒ4世は笑みをうかべ、テレーゼは計算道理だと納得した顔で頷いている。

「流石に重くなったか」
「御意、材質が材質でありますので」
フリードリヒ4世とケスラーの話を聞いていた、テレーゼが始めて口を開いた。

「其処はそれ、計算道理ね。材質もそうだけど予算が格段に違うわけだし、お爺様の時代のリューデリッツ伯爵が作ったときとは技術も30年の差があるしね」

「殿下ご命令の秘密研究所の成果と言えましょう」
「まあ、人材を集めて貰ったのは、グリンメルスハウゼンやケスラーのお陰ですから」
「いえいえ、殿下のご命令が無ければ、あたら人材を無駄にするところで御座いました」

賞められて多少こっ恥ずかしいテレーゼであった。

「しかし、ブリーシンガルの首飾りとは、此は又殿下も冗談がきつすぎますな」
ケーフェンヒラーがニヤニヤしながらチャチャを入れてくる。
「まあ、叛徒の兵器がアルテミスの首飾りでギリシャ神話なら此方は対抗して北欧神話の処女神の首飾りで行くのが、お持て成しって物でしょ」

ウインクしながらテレーゼが小首を傾ける。

「確かに叛徒にして見れば、驚愕の事態でしょうな。イゼルローン回廊へ侵入してイゼルローン要塞が2個も存在し、更にその要塞に自らの首都星の護り神たるアルテミスの首飾りソックリの軍事衛星が12個に対して16個も存在するのですから」

「確かそうよの、予とてイゼルローン要塞が2個も存在したなら驚くはずじゃ。ましてや自ら威力を知る軍事衛星がイゼルローン要塞に遊弋していると知ったらどの様な顔をするであろうか」

「見て見たい気がしますな」
「誠に」
「まあ、敵が攻めてこないことが肝要なんですけどね。要らぬ犠牲を出す必要は無いのですから」

テレーゼの言葉に、参加者全員が頷く。

「しかし、心配なのは敵がこの建造を知り、破壊しようと無理に攻め込んで来るのではないかと言う事です。現在の所、陛下の発布為された、社会秩序維持局の廃止などや皇太子殿下の喪に服すという事で叛徒では、主戦派は出兵論を述べているようですが、市民及び政府には慎重論が多く成っているようです」

ケスラーが心配そうに資料を捲り説明する。

「つまりは、イゼルローン要塞が難攻不落になる前に占領しようという、宇宙艦隊司令長官ロボス大将の焦りが生じていると言う訳なのね」
「良くお分かりで」

テレーゼの的確な指摘にケスラーも驚きを隠せない。

「良い教師が居ますからね」
テレーゼは、グリンメルスハウゼン、ケーフェンヒラー、ケスラーを見ながらウインクする。

「ハハハ、謀略の冴えは、グリンメルスハウゼン仕込み、情報の収集と照査はケーフェンヒラー仕込み、戦闘についてはケスラー仕込みと言う訳じゃな」

上機嫌でフリードリヒ4世が笑い出す。

「いやはや、恐縮ですな」
グリンメルスハウゼン、ケーフェンヒラー共に苦笑いをしている。

「しかし、あれじゃな。首飾りが16個なのはなぜなのじゃな?」
「父様の疑問も尤もな事なんですけどね。ハイネセンにある、首飾りは赤道の回りにしか無いそうで、じゃあ北極と南極から攻められたらどうするんだと言う疑問からシミュレーションしてみたところ、死角があることが判明したので、北極と南極を結ぶ線を縦に回転する4個の衛星をプラスさせてみたら、旨く行ったからなんですけどね」

「成るほどの、予は軍事に関しては余り詳しくないからの、テレーゼに軍事の才が出たわけじゃ」

フリードリヒ4世を含めた全員がテレーゼの話に関心していたがそれぞれの考えは複雑であった。

フリードリヒ4世にしてみれば、男児で有ればルードビィヒによって抹殺されていたであろう、女児で良かったのかも知れないと言うこととを。

グリンメルスハウゼンにしてみれば、男児で有れば次期皇帝陛下として申し分がないものをという事を。

ケーフェンヒラーにしてみれば、流石殿下、益々お仕えする事が楽しみだと言う事が。

ケスラーにしてみれば、僅かの情報から此ほどの事を推測し指示をする姿に安心感を持ち、陛下とグリンメルスハウゼン閣下が、ラインハルト・フォン・シェーンヴァルトにさせる予定であった帝国の再生をテレーゼ殿下に託そうとしていることを。

四者四葉の考えではあったが、根本的にはテレーゼの次期皇帝への道を切り開いてやりたいという事では一致していた。

そんな事は露知らず、テレーゼ自身は、何れ来る門閥貴族との皇位継承争いやラインハルトによる、帝位簒奪に頭を回しながら日々過ごしていくことになる。

暫くするとフリードリヒ4世がテレーゼにににこやかに話しかけた。

「そうじゃ、テレーゼが作る帝国歌劇団じゃがどの様な題目をするのじゃな?」
いきなりの話題の変更にテレーゼも困ったような顔をするが、それでも幾つかの題目を教えた。

「えーと、まだ団員も決まってないから、概略ですけど。歌と踊りをモチーフにした斬新な劇にする予定ですけど、問題はケスラーの頼んでいるように、恐らくだけど門閥貴族やフェザーンなんかのスパイが紛れ込む可能性が多いので、私が出るわけには行かないのですよね」

「殿下、無論ですぞ。劇に出るなど危険すぎます」
「ケスラー判っていますよ、以前ならまだしも、今の状態で我が儘言えませんよ」
「そう仰って頂けて恐悦至極に存じます」

「テレーゼ主演の劇も見てみたかった気がするがの」
「陛下」
「冗談じゃ冗談じゃ」

ひとしきり笑いが起こりながら、会議は続いて行った。
 
 

 
後書き
イゼルローンツヴァイですけど、余りに建設が早いという理由は追々判るはずです。 
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