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万華鏡

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第十話 五月その十


 二人で手を洗ってからトイレを出て廊下を進みながら話す。琴乃の話を聞いて景子はこう言った。
「私は大体だけれど決まってるのよね」
「神社とか?」
「今も実家で巫女のアルバイトしてるけれど」 
 そのアルバイト料がお小遣いになってもいる。
「大学を卒業するまで続けて」
「それからもなのね」
「大学を出たら八条神社に入ることになってるのよ」
 この町にある日本の屈指の規模の神社にだというのだ。
「そこで巫女や事務をすることになってるのよ」
「もう進路決まってるのね」
「八条神社に残るか実家に戻るか他の神社に行くかまでは決まってないけれど」 
 そこまでの進路は決まっていないというのだ。
「けれど多分ね」
「八条神社に残るの?」
「違うの。結婚の話よ」
 景子はさらに一歩踏み込んだ将来の話をした。
「結婚。お寺とか神社の娘ってお坊さんとか神主さんの奥さんになることが多いの」
「えっ、そうなの」
「天理教でもそうだし多分キリスト教でもそうよ」
 キリスト教の場合はプロテスタントになる。カトリックの神父は妻帯できないからだ。ただし子供はいたりするのは昔からある話だ。
「同じお仕事の人と結婚するのよ」
「職場結婚?」
「家同士の結婚でもあるのよ」
「家同士なの」
「お寺も神社も家だから」
 教会もだ。天理教もキリスト教も教会である。
「家同士の結婚でありしかも個人同士でもあって」
「色々あるのね」
「神社の娘の結婚ってそうなのよ」
 当然他の宗教も同じだ。
「凄いケースだとお寺にお嫁さんに入ったりとか」
「宗教違うじゃない」 
 これには琴乃も思わず何それ、という顔になった。
「仏教と神道だから」
「けれど日本じゃ神社の中にお寺があったりその逆もあるから」
 神宮寺がそれだ。これも日本独自である。
「そういうのもあるのよ」
「宗教が違っても」
「日本じゃカトリックの人とプロテスタントの人が何の気兼ねもなく結婚するしね」
 日本人の考えでは同じキリスト教でしかない。欧州での血生臭い対立からは少なくとも解放されているのだ。
「そういうものだから」
「それでなの」
「そう。そういうのでもいいのよ」
「じゃあ景子ちゃん将来は頭剃るの?」
 景子のその見事なロングヘアを見ての言葉だ。
「折角そんな奇麗な髪なのに」
「お坊さんの資格は得られるけれど剃らないわよ」
「そうなの」
「実際に頭剃らないといけない宗派も減ってきてるのよ」
 景子は琴乃に仏教の事情も話した。
「禅宗の方はそうでもないみたいだけれど」
「そういえばよく見たら」
「法衣着ても頭剃ってない人多いでしょ」
「ええ」
 琴乃は巷で見る僧侶達を思い出しながら答えた。
「そういえばね」
「浄土宗とかはそれでいいのよ」
「仏教も変わったのね」
「資格があればいいの」
 僧侶のそれがだというのだ。
「だから私もお寺の奥さんになってもね」
「髪の毛はそのままなの」
「そう。資格を持っていない限りはね」
 それでいいというのだ。
「だから髪の毛もそのままよ」
「そう。よかったわ」
「ただ。染めることはしないから」
 それはないというのだ。
「巫女さんでもどっちかっていうとその方がいいのよ」
「染めないままの方がなのね」
「その方がいいのよ」
 琴乃にこの事情も話す。 
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