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万華鏡

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第七話 お泊り会その九


「勿論スコーンとかケーキもね」
「えっ、ケーキも?」
「そっちも駄目。もうね」
 里香の話は続く。
「日本人にはとてもね」
「食べられないのね」
「お肉のお料理も酷くて」
 それもだった。
「ローストビーフだけはいけるって言うけれど」
「若しかしてそれも?」
「日本のロースとビーフの方がずっと美味しいわよ」
 これが現実だった。かつての世界帝国の味覚だ。
「それでイギリスにいる間、家族で行ったけれど」
「何食べてたの?」
「マクドナルドで食べてたの」 
 そうしていたというのだ。
「そうしていたの」
「ううん、そこまで酷いの」
「和食も。えび天の握りがあっても」
「あれ美味しいわよね」
「日本ならね」
 里香の言葉には彼女がこれまで言ったことのないまでの暗さがあった。その暗さはまさに絶望であった。
「美味しいけれどイギリスのは別料理だから」
「別料理って?」
「そう。お握りになってるのよ」
「お寿司がお握りって」
「一目見ただけでお父さんもお母さんも」
 まずは里香の両輪だった。
「お兄ちゃんもお姉ちゃんもね」
「つまり家族全員がなのね」
「そう。駄目だってね」
 本当に一目見ただけでだというのだ。
「思ったわよ。それ見た時は」
「日本じゃそんなの出したら」
「お店潰れるわよね」
「というかネタになるわよ」
 店が潰れるとかそういう域を超えているというのだ。
「それがイギリスなのね」
「そう、イギリスなの」
「私台湾に言ったことあるけれど」
「私もあるわよ」
「台湾のお料理が美味しかったわよ」
「台湾はイギリスじゃないから」
 それに尽きた。何もかも。
「麺類だってそうでしょ」
「うん、美味しかったわよ」
「イギリスにもパスタはあるけれど」 
 麺としてそれがあるというのだ。だがこれもだった。
「延びてるから。出て来た時点で」
「コシは?」
「イギリスにはそんな発想ないから」
 その時点でないというのだ。
「それでソースも。味付けが滅茶苦茶で」
「ううん、、聞けば聞く程」
「とにかくイギリスのお料理は違うから」
 それに尽きた。何もかも。
「全然ね」
「そうなの」
「琴乃ちゃんのお料理は美味しいわよ」 
 里香は今度はサンドイッチを食べる。ティータイムのものなのであっさりとした野菜サンドで統一している。
 里香はその野菜サンドを食べながら琴乃にさらに言う。
「幾らでもね」
「食べられるのね」
「うん。だからもう一切れね」
 里香はサンドイッチを一切れ食べるとまた一切れ手に取った。そうしてそれも食べる。
 他の三人もどんどん食べていく。景子はワインを飲みながら琴乃にこんなことを言った。
「私のお家って神社だから」
「ワインとかないの?」
「そう。あまり飲まないの」
 日本の神社故にだというのだ。 
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