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ソードアート・オンラインーツインズー

作者:相宮心
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SAO編-白百合の刃-
  SAO29-ヤンキーガール

 食事を取り、アイテムを確認し、武装を整えた私達はユリエールさんの先導に従い街路を進んでいく。これからシンカーさん救出作戦が決行するためにもだ。

「あ、あの……」

 後ろからイチが声をかけてきて振り返ると、深緑色の全身ガッチガッチのゴッツイ鎧姿に一瞬びっくりしてしまう。
 それは仕方ないことだと思うんだよね。小柄で噛みまくる基本的におとなしい女の子が、下手に近づいてしまうと食べられてしまいそうな恐くて重そうでトゲトゲしい鎧を着用しているのだ。初見もビビるし、慣れてもビビる。
 まずイチの問いかけに、これを言うべきだな。

「い、イチさ……まだ戦闘に入らないから、さ……それ脱いだら?」
「大丈夫です。重くないですし、作戦はもう始まっています。いつ何が起きても守れるようにしていますので」
「そ、そっか……」

 ご、ごもっとな意見だった。その存在感だけで我々を守ってくれるに違いない。もし私が悪党だったら返り討ちに遭いそうだから下手に近づかないな。

「それでさっきなんか言いかけたけど?」
「あ、はい。その……ユイちゃんとスズナちゃんを連れてっていいのでしょうか?」

 イチの表情は悪魔のような形をしたヘルムをかぶっているので、どんな顔をしているのかはわからないけど、心配していることはわかった。
心配はない。多分、大丈夫だと思っている。だって守れればそれでいいんだもん。だけど、例外があることを私は知っている。サーシャさんに預けておけばさまざまな危機に巻き込みこまれることはない。私も最初は教会に預けようとしたけど、ユイちゃんもスズナもシンクロしたかのように一緒に行くって頑固に言うもんだから、それに主張に負け、二人に甘えてしまった私達は二人も連れて行くことにした。
 それでも二人を守れれば何も問題はないはずだ。そうしなければ、いけない。何が何でもスズナを、ユイちゃんを死なせてはいけない。
 
「大丈夫。いざとなれば、転移結晶で脱出すればいいんだから」
「そうですけど……それでなんとかなるのですかね……」
「絶対とは言い切れないけど、基本的に問題はないよ。兄がいて、アスナとドウセツもいる。そしてイチがいて、その助っ人も来てくれる。そうでしょ?」
「……そうですね。うん」

 イチは先ほどよりも不安が解消されたみたいだ。

「すみません。どうしても、万が一って考えちゃうので……」
「それは仕方ないし、イチは別に間違っていないよ」

 まぁ、難しく考えていざとなったらスタートダッシュに失敗して後悔するんだったら、少し緩んだ方がいいと思うんだよね。当然、緩みすぎには気をつける。何事も柔軟に。

「問題のダンジョンってどこなの?」

 ドウセツはユリエールさんに訊ねると、返した言葉は簡素だった。

「ここ、です」
「ここ?」

 聞いていたアスナが首をかしげる。

「第一層?」
「そんなわけないでしょ。まともじゃない頭を壊れるくらい回しなさいよ」
 
 ドウセツからありがたい冷たい言葉を頂きました。わ、わかっているもん。第一層にシンカーさんが閉じ込めるメリットがないことだってわかっているもん。

「ここって……どう言う意味ですか?」

 首をかしげていたアスナは、追及しようと問いかける。

「この……『はじまりの街』にある中心部の地下に、大きなダンジョンがあるんです。シンカーは……多分、その一番奥に……」
「マジかよ。ベータテストの時にはそんなのなかったぞ。不覚だ……」

 兄はうめくように言う。いわゆる条件つきで明かされる隠しステージみたいなもんかな?

「そのダンジョンの入り口は黒鉄宮…………つまり、軍の本拠地の地下にあったのです。おそらく、上層攻略の進行具合によって解放されるタイプのダンジョンなんでしょうね。発見されたのはキバオウが実権を握ってからのことで、彼はそこを自分の派閥で独占しようとしていました」
「なるほど。未踏破(みとうは)ダンジョンは一度しか出ないレアアイテムも多いから、キバオウ達は独占して儲かったんだろうね」

 私がそう言うと、ユリエールさんはわずかに痛快と言った色合いを見せる。

「それがそうでもなかったんです」
「と言うと?」
「基本フロアにあるにしては、そのダンジョンの難易度は恐ろしくて、高くて……基本配置のモンスターだけでも六十層相当くらいのレベルがありました」
「あぁ……なるほどね」

 ユリエールさんの話を聞いて納得した。『軍』のこと考えると、上手くいかないのも想像できる。それができたら、七十五層のフロアボスに対してもう少し戦えたはずだ。

「キバオウ自身が率いた先遣隊(せんけんたい)は散々追いまわされ、命ながら転移脱出する破目になったそうです。そして使いまくったクリスタルのせいで『軍』の資金は大赤字になりました」
「そのことも含めて救出が難しくなったってことかしら」
「はい」

 ドウセツ冷静に口に出すと、ユリエールさんはすぐに沈んだ表情を見せた。

「キバオウが使った回廊結晶は、モンスターから逃げ回りながら相当奥まで入り込んだ所でマークしたものらしく、シンカーがいるのはそのマーク地点の先なんです。レベル的には、一対一ならどうにか倒せなくもないモンスターなんですが、連戦はとても無理です。…………失礼ですが、皆さんは……」

 私達は……。

「ああ、まぁ、六十層くらいなら……大丈夫だろう」

 兄は問題ない。

「別に問題ないわ」

 ドウセツも同じ。

「なんとかなると思います」

 アスナも同様。

「みなさん心強い人達ですし、防御は任せてください」

 イチ、そして私を含めた攻略組は問題ない様子だ。六十層配置のダンジョンを充分にマージンは取るとして、攻略するレベルは70ぐらい必要だと考える。私達のマージンは十以上レベルをとっているから大丈夫。しかも兄に至っては90を超えていて、ユニークスキルの二刀流を習得している最強の一人である。それを含めて私達はそう簡単にやられはしない。ユイちゃんとスズナがいても、六十層配置のモンスターなら守りながらでもシンカーさんを助けられる。

「あ、でも……もう一つだけ気になることがあるんです」
「気になること?」

 私はそう訊ねると、ユリエールさんは気がかりな表情を浮かべながら、言葉を続ける。

「先遣隊に参加していたプレイヤーから聞きだしたんですが……ダンジョンの奥で巨大なモンスター、ボスを見たと……」

 そのことを聞いた私達は顔を見合わせた。

「ボスも六十層くらいの奴なのかしら……。あそこのボスってどんなのだっけ?」
「えーと、アスナが言っているのって、石でできた鎧武者のこと?」
「そう、それそれ」
「あー、アレかぁ。アレ……あんまり苦労しなかったなぁ……」
「それは……キリトさんが強いからじゃないですか?」

 私達は軽い思い出話をするように大丈夫だと判断した。

「当時と違って少人数ですけど、なんとかなると思います」
「そうですか、良かった!」

 私の発言でユリエールさんは口許を緩め、何か光眩しい物を見るように目を細めながら言葉を続けた。

「そうかぁ……皆さんはずっとボス戦を経験していらっしゃっているんですね……。すみません、貴重な時間を割いていただいて……」
「大丈夫ですって、私と兄達は休暇中ですし……イチは?」
「わたしも同じです。それに自分の意志でシンカーさんを助けたい、と思って一緒についていますので、無駄な時間ではありません」
「キリカさん、イチさん……」

 そうこうしているうちに、『生命の碑』が設置されている黒光りする巨大な建築物、『黒鉄宮』に到着していた。『軍』のテリトリーは奥に続く大部分の敷地である。

「ところで、イチ」
「へぇい! ひゃんくしょん!」

 ヘイ! フィクションって、どんな作り事だよ。イチはいい加減兄に慣れなさいって。
 それに比べて兄は流石にイチの扱いが慣れたのか、そのまま話を続けた。

「助っ人呼んだみたいだけど……」
「あ、しょのこ……」

 イチは一回咳払いをして、深呼吸する。

「ゴホン……そ、そのことですが、助っ人ならもうすぐ来ます。なんだって、わたしの信頼する親友です」

 …………。
 イチが信頼している親友で、誇らしげに呼び出す程のプレイヤーで思い当たるのは……やっぱり“あいつ”しかいないな。
 マジか……頼りにはなるんだけどなぁ……うん……うん、しょうがないか。本当のことだし。

「あのイチさん。助っ人と言うのは……どなたでしょうか?」

 この場で知らない人はユリエールさんだけか、助っ人の件について訊ねる。

「わたしと同じギルドに所属している攻略組の一人です。性格にちょっとトゲがありますが、とても頼りになります」
「え、えっと……」

 ユリエールさんは多少混乱してしまっている。どういった人物なのか想像もできないからなのもそうなのだが、性格についても十分混乱する原因なんだろう。
 だからと言って、イチが嘘を言っているわけではない。確かに頼りになるし、助っ人としても十分な逸材のプレイヤーなんだろう。
 ただ、少し……いや、結構……性格が変わっている。
 ストレートにハッキリ言えば、ヤンキーである。

「ユリエールさん」
「あ、はい」
「今から合う奴は…………多少、大目に見てやってください」
「どう言うことですか?」
「えっと、ですね……や、ヤンキーと言いますが……」

 私がストレートに言うか、少しオブラートに包んで説明しようとする時だった。

「誰がヤンキーだ、オラァ!!」

 タイミング良く、いや悪く、聞いたことのある一人のプレイヤーの声が響く。

「!?」

 ユリエールさんは声にビビり、ビクッと驚いてしまう。それに対して私は響いた声が誰なのかを理解してしまった。そして自然に口から「やっぱりか」と、ため息をついた。
 今、注意事項をユリエールさんに教えようとしているのに、簡単に空気を読んでとは言わないけど、ある程度は空気読んでほしかったな。
 私は軽蔑するように、視線を声の主を捉える。
 目に映っていたプレイヤーは、タンクトップに左右対称のチョッキのようなものに、膝にかかるくらいのダメージショートパンツに加え、籠手を装着、主に赤を基調とした服装。そして服装の色から表すような赤髪のショートヘアの少女は、可愛らしい顔立ちをしながらも雰囲気は路地裏のたまり場に居座ってそうなヤンキーガール。
 
「紹介しますね、ユリエールさん」

 イチは赤髪の少女に寄っていき、ユリエールさんに紹介した。

「ギルド『怒涛の快進撃』の一員で助っ人の、エックスです」

 エックス。
 それがイチの助っ人のであり彼女のHN。イチが誇らしげに呼び出せる攻略組の一人。更に言えば、エックスもイチと同様に『ソロ十六士』とも呼ばれるうちの一人で、かつて私やドウセツらと共に裏五十五層を攻略した『赤の戦士』だ。
 助っ人というなら、これ以上もない助っ人だ。頼りがいもあるし、実力も十分だ。それだけで良かったのになーと思ってしまう問題が一つあった。
 そんな不安をこれから証明されるように、エックスはユリエールさんに話かけた。

「よお、あんたがユリエールって奴?」
「あ、はい」
「あんたの話はイチから聞いた。シンカーって奴を助けたいんだよな」
「は、はい」
「たく、めんどうなことになる前に落とし前は付けろよな。あんた、そいつと同じ所属なんだろ。他人に助けを求めるめで放って置いているんじゃねぇよ」
「す、すみません……」
「いちいち謝るな。そういうのいらねぇから」
「は、はい」
「イチの頼みなら仕方なくやるが、お前のために動くんじゃないからな。ぶっちゃけ今回のことはどうでもいいと思っているしな」

 エックスはぶっきらぼうな態度をとり、ユリエールさんに冷たく言い放つ。当然ユリエールさんは申し訳なさで気が沈んでしまった。
 想像していたけど、想像通りになってしまったわね。助っ人としては申し分ないんだけど、性格が釣り合っていない。ユリエールさんに取った態度ように、基本的にエックスはぶっきらぼうな態度を振る舞うことが多く、キツイ感じにどうしても捉えてしまう。おまけに口も悪ければ態度も悪い。可愛らしさの欠片もない。男と間違われてもおかしくない。いや、男だ。

「あン?」

 エックスは突然私の方へ顔を向け、睨んできた。
 流石に言い過ぎたな。まさか本音が聞こえたように睨んでくるとは思わなかった。
 ともかく、エックスの性格はイチと正反対のヤンキーガール。そしてそれは戦闘スタイルとビルドにも影響されている。
 イチが鉄壁なら、それに反するエックスを表すのは破壊。つまり攻撃特化である。武器は片手斧の盾なし。シンプルな破壊的攻撃力は、時に無双ゲーに化ける程の圧倒的な火力。単純な火力ならSAOの中でも一番あるかもしれない。けどその分、他は劣っているに違いない。きっと耐久力なんて紙も同然なはずだ。
 それでもなお、HPが0になればリトライ不可能のSAOの世界で生き続けているのはエックスがそれだけ強いし、その強さの証が常に背水の陣の精神で挑んでいるのと、性格に釣り合うこともない冷静で繊細な思考を持っているからなんだろう。
 挑発したりバカにしたりすると怒ってしまうけど、ここぞって時には人格が変わる程の冷静さと平常心。けして衝動的には動かない策士のような戦闘スタイル。それが加えることで、エックスの爆発的な攻撃力が活かされているんだろう。
 なんでそういうことができるのに未だにヤンキーガールでいるんだろう。いろいろと損するだけだと思うけどなぁ……とりあえず、ユリエールさんを励ましつつ、フォローでもしとこう。

「嘘ついている」

 突然、誰に対して嘘をついていると指摘した。
 発したのはユイちゃん。そして嘘をついていると思われるプレイヤーは……。

「赤髪のお姉ちゃん嘘ついている」

 エックスだった。そしてユイちゃんは追い打ちと言うばかりにもう一度指摘した。

「…………」
 
 ユイちゃんに指摘されたエックスは清ました顔ながらも、表情を見せないように俯く。そしたら一気にユイちゃんの仮保護者であり、抱えているアスナに寄ってガンを飛ばした

「……おい、閃光の副団長さんよ? この子は、一体どういうことだ?」
「この子? この子はユイちゃんだよ。可愛いでしょ?」
「そう言うことじゃねぇよ、アホ! 事情は知らんがあんたがその子の保護者的立ち位置にいるなら、オレに失礼なことを言ったのに対してその子を叱れよな!」
「なによそれ、ユイちゃんは嘘つくような子じゃありません!」
「ならなんでコイツはオレが嘘ついたって言うんだよ! オレがいつ嘘をついたんだ!」

 一応ユイちゃんには「あの子」と自重していたのに、数秒で「コイツ」呼ばわりかよ。しかも、エックスはユイちゃんに対して、ヤーさんみたいな態度で接してくる。

「おい、小娘。次適当なことぬかしたらな、世にも恐ろしいおしおきしてやるからな。発言に注意しろ」

 エックスも大概だけどな。私も昔は口も態度も悪かったけど直せたんだから、エックスもこの機会に直せばいいのになぁ……。
 それは置いといて、エックスよ。ガラの悪いアンちゃんな口調で忠告しても、ユイちゃんは恐がることも笑うこともなくあんたを好意的に見えているわよ。
 そんなエックスは想像つかない反応に戸惑っているのは明確だった。

「……な、なんか言えよ。泣いたりとか怖がったりとか、ビクビク震えたりとかよ!」
「それは別に発言ではなく表現じゃない?」
「うっせ、白百合野郎! おめぇは黙ってろ!」

 口が悪いからって、女性に野郎って言うなよ。野郎はあんただ。あと何気に『白ばっか野郎』から呼び方変わっている。そこはいい加減名前で呼べよ。

「あのようにエックスは口も態度も悪いのですが、根は悪くなく、優しいので大丈夫です。安心してください」
「そ、そうなんですか?」

 エックスが困っている間にイチはユリエールさんを励ましつつフォローしていた。それを聞いたエックスはそれが気恥ずかしいので、衝動的に否定するような発言をする。

「イチ、てめぇ何言ってやがんだよ! なわけあるか! おい『軍』の奴、勘違いすんじゃねぇぞ!」
「エックス、落ちついて。そんな大声で言わなくても伝わるから」
「嘘つけよ! 明らかに話流すような発言だったじゃねぇか! だいたい、オレは好きでここに来ているわけでもなく、自分のためだけに仕方なく助っ人として来ているんであってだな」
「赤髪のお姉ちゃん嘘ついている」
「だぁぁぁぁぁっ! うっせよ! びびったりしろよオラ!」
「お姉ちゃん面白い」
「だがあぁぁぁぁぁっ! このガキ笑うなぁぁぁぁぁ!!」
「コラ、ガキがユイちゃんをガキって言わないで!」
「さり気なくオレをガキ呼ばわりしてんじゃねぇ!」

 アスナから出てこないであろう言葉を与えられ、ユイちゃんは好意的な印象を持たれてしまう。思い通りにいかず、からかわれるエックスはイチの言った通り悪い人ではない風になってしまった。

「悪い人じゃなかったら、こんなに面白くなるわけないもんね」
「聞こえてんぞ、白百合野郎」

 エックスは口を開くたびにからかわられ、身の負担がかかると思ったのか、雰囲気をひっくり返すかのように、大声でユリエールさんに話しかけた。

「おい! 銀髪の軍女! さっさと『軍』の野郎を助けにいくから案内しやがれ!」
「え?」
「さっさと助けに行くんじゃねぇのか!? 早くしろ、バカ!」
「あ……はい!」

 乱暴な口調で言われたものの、ユリエールさんはエックスが優しい人であることを理解できたようだった。そうじゃなきゃ、顔が晴れることはないし、嬉々した表情で先頭に立って案内はしないだろう。

「ユリエールさんも、エックスの優しさに気づきましたね」

 イチは視線をエックスに向けながら私にそう言った。

「そうだね」

 さっきはあんな突き放すとうなことを言ったくせに、シンカーさんを助ける気満々じゃないか。ユリエールさんもそれに気づいたからこそ、認識を変えることができたんだ。

「相変わらず騒がしい猿のようだったわね」
「ドウセツは相変わらずエックスには手厳しいよね」
「私にとってはストレス発散人物。それだけは高く評価しているわ」
「絶対その高さ、思った以上に底辺だろ」
「よくわかったわね。ええ、その通りよ。あの猿には評価を底辺にまで下げてないこちらに感謝してほしいくらいだわ」
「すげぇ図々しさだ……」

 ドウセツとエックスの仲はけして悪くはないけど、良くもない。火と油どころかハブとマングースのようにけして仲良くなることはない気がする。それもそのはず、エックスはドウセツの淡々とした発言と冷淡な態度につっかかることが多く、そんでもってドウセツはお得意の毒舌でエックスを毎回火に油を注いでいてストレス発散している関係なのだから。
 この二人はもうしょうがないと諦めよう。きっとお互いに言えないけど認めているところはあるはずだ。
……多分…………きっと…………そ、そううなってほしいなー。

「スズナ。これから未知なところに行くけど一緒に行く?」
「行く」

 ドウセツに負けず衰えない即答ぶりだった。親が子に似るのは血が繋がんなくても共通らしい。
 それじゃあ、スズナの答えも聞いたところで『はじまりの街』にある地下ダンジョンに行くとしましょう。



 ユリエールさんに案内してもらった場所、そこは宮殿の裏手に回って数分ぐらい歩き、道から堀の水面近くまで階段が降りる場所がダンジョンの入り口だった。そこから下水道に入り、黒い石造りのダンジョンに侵入して数分後、全身ぬるっとした巨大カエルと黒光りするハサミを持ったザリガニモンスターのモンスター集団に遭遇してしまう。

「ぬおおおおおお!!」
「バッキャッロ!! それはオレの獲物を取るんじゃねぇ黒ばっか野郎!!」

 だが問題はなかった。
 なにせ、兄が右手の剣でズバッと斬っては左手の剣でドカーンっと吹き飛ばし、スコールのように二刀流で無双している。しかもそれだけではなく、エックスがもの凄い腕の速さで片手斧をブンブン回してモンスター集団を一掃。

「わたし達の出番ないですね……」

 イチは兄とエックスの戦闘を見て苦笑いしていて、アスナは呆れて、ドウセツは普通に二人の戦闘を眺めていた。

「す、すごいですね……」

 ユリエールさんからすれば、目と口にして驚くのもわかるような気がする。兄とエックスを見ていると無双ゲーを見ているような気分になってしまう。それ関係なしに『軍』には絶対にいない、攻略組の腕前を見ているんだから驚くのは必然だろう。

「パパーがんばれー」
「おう!」

 ユイちゃんの声援に応える余裕もできているから、本当に私達の出番はないんだろう。それどころか、エックスなしでも兄一人で十分かもしれない。
 楽できるのであれば、それに甘えでのんびりと眺めていましょうかね。楽できるところは楽しよう。

「お父様はやらないんですか?」

 そう思っていたらスズナが訊ねてきた。

「兄だけでも大丈夫だからね」
「そうですか……」

 するとスズナは視線を兄とエックスに向ける。向けるけど、ちらちらと私の方を見ていた。

「……スズナは私がかっこいいところ見たい?」
「見たい」

 もしかしてと思っていたら、スズナは私の活躍を見てみたかっていた。多分だけど、ユイちゃんがパパである兄を応援するように、スズナも私を応援して、私のかっこいいところが見てみたいと思ったのかもしれない。運動会でパパが活躍しているのを見るように、自分のパパもかっこいいところが見たい、可愛い嫉妬と願望。
 そういうことなら、喜んで受け入れよう。

「私が無様なところが見たいわね」

 流石ドウセツ。私がスズナの要望を受けると思っての発言。残念だけど、無様な姿なんかスズナには見せたくないので、真面目にかっこいいところを見せ付けてやる。ドウセツの要望は聞訊き受けませんよーだ。

「私はドウセツの思い通りにならない悔しいところが見たいわね」
「なにそれ、そんな趣味あったの? 気持ち悪い」
「引くな! さっきの発言の対抗だっつうの!」

 ドウセツに返答しつつ、私はこれ以上も必要しない戦場へ乱入した。

「うおぉ!?」
「お、おい!」

 兄とエックスは私が乱入してくるのを想定していなかったようだった。勝手に乱入したことは謝るけど、二人だけで活躍する戦場は一旦降板してもらうわよ。

「危ないから回避してね」
「は?」
「あぁ?」

 ここからは私の独壇場。スズナに良いところを見せるかっこいい必殺技をお披露目する舞踏会。それで下手してオレンジになりたくないわね。

「はああああああ!!」

 真紅のエフェクトを纏った薙刀を振り回しながら、自分自身もその場で回転する。身体の限界ギリギリまで、腕の振り、足の踏み込み、腰の回しなど含めた速さで、自分自身が刃の竜巻なるような二十連続攻撃。名は『戦刃無双(せんじんむそう)』範囲攻撃でもあるが、一撃の次による攻撃の間に反撃する機会もあたえない速さで振っているために、単体でも使える。これを外したら回転しているだけになるけど、今はスズナに見せる最大の見せ場。
 一回転一撃ごとに次々とモンスターを斬り裂き、静止した頃にはモンスター集団の跡形もなく消えていた。

「ふぅ……」

 息を吐き、スズナの方に振り返ってみる。

「お父様、かっこいい」

 その言葉が心に染みて、思わず歓喜極まってしまった。親バカになる気持ちもわからなくはない。イエーイ、スズナさいこー!

「おい、コラ」

 隣にいる赤いかっこうをした片手斧使いが不機嫌そうに口にしてきた。

「なんだぶふぇ!?」

 聞こうとしたら殴られた。しかも顔面。さらに言えば、問題を起こさない程度の調整された痛いパンチだった。

「いきなりなんだよ! あぶねぇし、巻き込まれそうになるわ、人の獲物を狩っているんじゃねぇぞ! くそったれ!」
「そ、そりゃ悪かったと思っているよ。悪かった!」
「まったくだ! 次こんなことしたら、ミンチにしてやるからな!」

 エックスはそっぽ向いてイチの元へ寄って行った。流石にいきなり過ぎたか。

「なんだかすみません、任せっぱなしで……」

 申し訳なさそうに首をすくめるユリエールさんに何か言おうとした時、ドウセツが先に答えてしまった。

「気にしなくてもいいですよ。バカで中二病なキリトに、猿みたいにうるさいエックスに、バカかつ変態で気持ち悪い気持ち悪い趣味を持っているキリカですから、勝手にやらせていいですよ」
「俺はいつから中二病扱いなんだよ。あと、バカじゃねぇし」
「おとなしいかと思えば口閉じさせるぞ、この清まし野郎!」

 兄とエックスの主張はともかく酷い言われようだ。特に私だけ二人と比べて二倍、三倍増しの罵詈雑言。気持ち悪いに関しては二回も言われた。あれか、大事なことだから二回言ったのか。ユリエールさんもなんか困っているし、混乱させてどうするのよ。

「そもそも、なんで清ましブス野郎がこんなところにいるんだよ!」
「清ましブス野郎っていう人なんかいるの? ついにバカを通りこして人の名前すら認識できなくなったのね」
「てめぇのことを言ってんだよ! バアアアアアアカアアアア!!」」

 エックスが猿のようにキーキーとドウセツに突っかかっている間、私はユリエールさんにシンカーさんの件で訊きたいことが思いついたので話しかけた。

「ユリエールさん、シンカーさんの位置がどれくらいかわかります?」
「ちょっと待っててください」

 ユリエールさんは左手を振ってマップを表示させる。ユリエールさんはシンカーさんとフレンド登録していうるので、現在位置を示すフレンドマーカーの光点を示した。

「シンカーさんの位置は数日間動いていません。多分……安全エリアにいるんだと思います」
「どれどれ……」

 可視表示されているユリエールさんのマップを拝借。光点の道しるべは空白である故に道筋は進んでいかないとわからない。今のところは大丈夫だから問題ない。このままいけば普通にシンカーさんを救出できるのであろう。だから、イレギュラー的な問題が訪れないことを祈ろう。

「そこまで到達できれば、あとは結晶で離脱できますから……。すみません、もう少しだけお願いできますか?」
「あぁ、大丈夫大丈夫。ここで抜けるなんて無責任すぎるし、最後まで付き合いますよ」
「キリカさん……」

 そう言うわけで先に進もうとした時、兄達の会話が耳に入ってきた。

「さっき良いアイテム手に入れたぜ」
「なんかいいもの出ているの?」
「おう」

 視点を兄へと映し変える。兄がアスナにモンスタードロップしたアイテムを見せようとしているところだった。
 ……兄よ。兄にとっては良い物なんだろうけど、アスナにとっても良い物とは限らないんだよ。

「兄が良いアイテムってさ……これでしょ?」

 兄の変わりにアイテム一覧から取り出したのは、赤黒い肉の塊。分類されると食材アイテムであるが、少々グロテスクな食材だ。当然、グロテスクな食材でもアスナの料理スキルにより美味な料理に生まれ変わる。
 まぁ……本人が料理する気があればの話だけど。

「な……ナニソレ?」
「お、キリカわかっているな。これだよ、これ」

 アスナが顔を引きつりながら言った赤黒い肉の塊。それは先ほどのカエルのモンスターから手に入れた食材であることは、残念なことに理解してしまう。

「カエルの肉。ゲテモノなほど旨いって言うからな」
「同感だ」

 エックスが会話に入ってきて二度くらい頷いて、語り始めた。

「例えカエルだろうが、ヘビだろうが、アヒルでもクモでも、口に入れて美味しければみな一緒だ。むしろ見た目が悪い程中身が美味しいって良く聞くしな」
「味が美味しければいいけど、口に入れるまで勇気がいるでしょ」
「うっせぞ! それでも人間か!」
「人間だよ」

 クモめちゃくちゃ旨そう! このアヒルなかなかいけるな! なんて……そんな風に味わいたくない。正直ゲテモノ料理には抵抗がある。やっぱり見た目で駄目になってしまう。つうか普通に食欲湧かない。むしろ減る。

「と言うわけだ、この中で料理できる奴はいるか?」
「それならアスナに作ってもらおう。帰ったらゲテモノフルコースだな」
「え、キリト君!?」

 食べる気ではなかったアスナは恐る恐る兄とエックスに訊ねる。

「それって……私も食べるの?」
「当たり前だ。イチもそう思うだろ」
「えぇぇぇぇぇえぇぇ!?」

 いったいなんなんだ。シンカーさん救出成功ゲテモノパーティをやる流なのか? 悪いけどイチとか私もそう言うのは平気で食べられないんだから二人だけでやってほしい。

「と言うわけで頼むな、閃光の副団長さんよ」
「俺からも頼むぜ、アスナ」

 アスナの返答は、

「絶・対・嫌!!」

 悔い気味に拒否。そしてウインドウを開いて操作し始める。

「あぁっ!?」
「おい、どうした!?」
「あああぁぁぁぁ……」

 情けない声を上げてうずくまる兄の様子を見たエックスはアスナに問い詰めた。

「てめぇ! 捨てやがったな!?」

 兄とアスナは結婚しているので、アイテムは共通になっている。故に兄のアイテム覧はアスナでも操作できるようになる。兄のうずくまっている様子から見れば、カエルの肉を全部捨てられたんだろうな……。

「こうなったら仕方ねぇ、オレが手に入れた奴を料理しろ!」
「駄目だって、エックス! アスナさんはそんな物、料理したくないんだから」
「そんな物とかバッサリ言ってんじゃねぇ! こうなったらイチでもいい! ゲテモノ料理を作れ!」
「いりません! 食べたくもないです! 今すぐ捨ててください!」
「全力で否定していんじゃねぇ!」

 今ここに、食べる派と食べない派に分かれてカエルの肉の激論会が始まった。うずくまっている兄も、ゲテモノ料理をアスナに食べてほしいと諦めていないはず。だけどアスナの意志は頑なに曲げることはない。それは食べる派のエックスは兄と同意見で、食べない派のイチもアスナと一心同体。
 なんか長くなりそうだな……私は食べない派に入れば収まるかな?

「超どうでもいいわね」
「「「「!?」」」」

 あ、ドウセツの冷淡な一言で見事に四人に突き刺さった。ドウセツにとっては争う必要もない、言葉通りにどうでもいいんだろうな。流石っていうか、いつも通りですね。私も関わってないことにしといてユリエールさんに謝ろう。
 
「ユリエールさんすみませんね……」
「い、いえ……」
「ユリエールさん?」

 一体どうしたんだろう。ユリエールさんが笑いを漏らさないように堪えていた。
 
「お姉ちゃん、初めて笑った!」

 ユイちゃんが嬉しそうに叫ぶと、ユリエールさんは満面の笑みを表した。

「超くだらないことに対して笑われているわ。良かったわね、貴方達」
「悪かったな、超くだらなくて」
「なによ、ドウセツ! 自分だけ関係ないような顔して」
「おめぇ、ホントいちいちムカつく野郎だな!」
「ドウセツさん、流石に酷いですよ……」

 ドウセツの煽るような発言に対するカエル肉で口論していた四プレイヤーは不満を口にする。そんな姿を見て、ユリエールさんはクスクスと笑っていた。
 どのような形にせよ、笑っていることはなによりも良いことだ。笑顔は何よりも勝らない大切な証。ユリエールさんのことだから、シンカーさんのことで頭がいっぱいで余裕がなかったと思うから、笑うことで少しはリラックスできたはずだ。それにユイちゃんも最高の笑顔を見られたし、良いこと尽くしだ。
 ふと、ドウセツと手を繋いでいるスズナに視線を向ける。私達のやり取りをただ見ていた様子と言ったところだ。
 ……ユイちゃんは、昨日のよりも感情が豊かになったというか、成長した様子だった。昨日の発作の件で感情が入ったと言うか、戻ったのか、もしかしたら生来の性格が蘇ったように変わったんだろう。だけど、スズナはユイちゃんのように特に変わったところは見えないでいる。もしかしたら、元々のそういうような性格なのかもしれない。

「……お父様」
「ん?」

 私の視線に気がついたスズナは小さなお口で発言した。

「頑張って」

 頑張って。小さな声ながらも綺麗に耳へと届いていた。それを私はしっかりと受け止めた。
 受け取ったものの、スズナは私になにを頑張ってと言ったのか理解できないでいる。スズナがどんな気持ちで言ったのは本人に訊けばわかるんだろう。でも、不思議となんとなくだけど理解している私がいる。勝手で矛盾な思いかもしれないけど、私にしかできないこと、みんながいればできることがある。
 だからここはあえてスズナには聞かない。違ったとしてもその選択は間違いではないはずだ。

「頑張るよ」

 スズナと同じ目線になるようしゃがみ、頭を撫でて優しく返事する。

「私としては、少しカッコ悪いところも見たいわね」
「嫌ですよーだ」

 べーと、舌を出しながらドウセツの言葉を拒んだ。そういうコミカルなところは、全部終わってから悩んであげますよ。 
 

 
後書き
SAOツインズ追加
エックス。
イチの正反対キャラ。今更だけどこの性格だったら男でも良かったと思い、更に言えば変な設定も作らなければ良かったと思ってしまいますw でも後悔はしたくない 
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