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蒼き夢の果てに

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第4章 聖痕
  第30話 アルビオン編の後日談

 
前書き
 第30話を投稿します。
 この話の結果、ゼロ魔原作小説とはかなり違う状況が出来上がる事は御了承下さい。
 一気に話を変えて行く事は有りませんが、矢張り、イレギュラーな人物が登場している事により、少しずつは世界がずれて行っているのです。
 

 
 一瞬のタイムラグの後、翼ある竜(ワイバーン)の背に転移する俺達。
 鉄と赤い生命の源が支配する世界から、満天の星と、少しずれた蒼と紅が存在するだけの夜の静寂(しじま)が支配する世界へと、無事に帰還を果たす。
 まぁ、何にせよ、虎口を脱したのは間違いないでしょう。

「ありがとう、助かったよ」

 戦闘時の緊張を解いた才人が日本刀と鞘に戻しながら、そう感謝の言葉を掛けて来ました。
 それと同時に、夜の闇の中で尚、光り輝いていた左手甲のルーンが輝きを失った。

 成るほど。矢張り、この使い魔のルーンが伝説の使い魔としての能力の源となるのでしょうね。
 ただ、俺の知って居るルーン魔法とは違う形態の魔法ですから、単純にアース神族の加護により発動している訳では無いようなのですが。

 アース神族は多神教。唯一絶対神のブリミル教とは相容れない思想の元に出来上がった神話体系です。まして、この使い魔のルーンや、系統魔法と呼ばれる魔法の発動がアース神族の加護に因る物ならば、この世界にオーディンやその他の神々の神話が残っていなければならないのですが……。
 確かに、月の呼び名などにそれらしき物は残っているのですが、その呼び名の元と成った神の物語については、俺は聞いてはいません。

 そう。まるで、地球世界の十字教により、土着の宗教が駆逐され、古き神々が悪魔として貶められて行った結果の世界のような……。

 もっとも、今は未だ情報不足なので、この辺りについては何とも言えませんか。

「何を水臭い事を言う取るんや。友達がピンチに陥っているのが判っていて、そこに駆け付けんヤツは居らんでしょうが」

 少し、茶化した雰囲気でそう答える俺。それに大した事を為した訳でもないですし、友達を助けに行くのはそう不思議な事でも有りません。

 もっとも、もう少し早い内に一行を発見出来たのなら、もっと安全な形で、更に衆人環視の中で転移魔法を使用するような危険なマネもせずに救出する事が出来たとも思うのですが。
 例えば、あの城の内部に居た時に発見していたのなら、彼らが何処かの部屋に逃げ込んだ時に、その室内に転移した後に救出。アルビオン貴族派の兵士が部屋に乱入して来た時には、その室内はマリー・セレスト号状態、と言う結果にも出来たのですが。

 ……つまり、俺は万能の存在でも無ければ、天才でもないと言う事に成りますか。
 もう少し、能力が高いと思っていたのですが、現実は何時も厳しいみたいです。

「そう言う割には、かなり、登場のタイミングを見極めていたようなタイミングでの登場だったけど」

 一番痛い部分にツッコミを入れてくる才人。流石に、このツッコミは、生命が助かった事に因り、かなりの余裕が生まれた結果の台詞でしょう。

 それに、確かに、才人達があの城壁に追い詰められた状況で騎兵隊宜しく登場した事を、そう表現されたとしても仕方がないですし、美味しい部分を攫って行ったと言われたら、そうなのかも知れません。

 これが物語の世界で、才人達が助かる運命に有るのが判っていたのなら。

「俺やタバサは、ある程度の能力を持っているけど万能やない。才人達が居る場所が、あの城壁の上に現れるまで、何処に居るのかさっぱり判らなかったんや」

 事実を有りのままに伝える俺。もっとも、あの城壁の上に現れる直前に何かが有って、彼らへのダンダリオンに因る諜報活動を阻害していた何かが排除されたのか、それとも、そもそも、あの城の内部が何らかの結界、もしくは聖域と成っていてこちらの諜報を阻止していたのかは判らないのですが。

 俺のその言葉を聞いた才人が、ルイズの方を見つめる。そして、

「あの城壁の上に逃げるように言ったのはルイズなんだよ。必ず、近くまでタバサ達が来ているから、上空から見つけられ易い場所に移動すると言われたからな」

 ……と言った。

 成るほど。才人からルイズに対して、今回のアルビオンへの王命による渡航任務の最中に俺達が現れた理由の説明が為されていたかどうかについては未だ判りません。ですが、彼女自身が、俺達があのラ・ロシェールの街に現れた事が偶然では無いと思っていたとしたら、発見され難い城内に居るよりも、上空からなら発見され易い城壁の上に向かう事は理には適っていますか。

 但し、もし、俺達が近くに居なかった場合は、進退窮まって、降伏するか、死ぬかの二つしか選択肢が用意されていない、非常に危険な判断だったとは思うのですが。

 そんな事を考えながらルイズを少し見つめる俺。

「タバサの魔法の系統は風。風の魔法の中には、遠見の魔法が存在しているわ。
 それに、アンタやタバサへの信頼は、何処かの馬鹿犬と違って大きいもの」

 その俺の視線に気付いたからなのか、それとも別の意味からなのかは定かでは有りませんが、ルイズがそう答えた。

 確かに、何らかの襲撃が有る可能性から、傭兵たちを雇い入れてまで自分達の事を護ろうとしてくれた相手が、アルビオンに渡ったからと言ってそのまま放置してしまう可能性は低いと判断する事は妥当ですし、ルイズは俺達が風竜(ワイバーン)を連れているのも知っていました。
 ならば、攻城戦の真っ最中で敵に囲まれている城外に出て行く選択肢や、城内に隠れて敵をやり過ごすと言う選択肢よりも、より生き延びられる可能性が高い味方が救援の為に近付いて来ている可能性に賭けて、見事に勝利したと言う事なのでしょうね。

 もっとも、その伝説の虚無とかいう魔法の系統の中に、未来予知のような魔法が存在していたのならば、俺の予想など根底から覆される事と成るのですが。

「それから、シノブ。あの呪符と宝石には助けられたよ」

 具体的にどう言う場面で助けられたのか、と言う部分を語る事なく、才人がそう言った。
 それに、具体的な場面に付いては語る事が出来ない場面での使用だった可能性は有りますから、これも仕方がない事でしょう。

 才人やルイズの今回の任務は、国家機密に類する任務。任務の内容に関わる説明は出来なくて当然です。

「元々、オマエさんの身を守る為に渡した宝貝や。それが役に立ってくれたのなら、それ以上に嬉しい事はない」

 一応、そう答えて置く俺なのですが……。

 そもそも、あの呪符や護符(タリスマン)に関しては、所詮は転ばぬ先の杖。本来ならば、そんな物に頼らずに、自ら危険を回避して行って欲しかったのですが。
 それでも尚、そのアイテムによって一度は生命が救われたのなら、それに越した事はないですか。

「但し、それも一度だけ。次からは劣化して、何れは意味を失くす可能性も有る。
 本来ならば君子危うきに近寄らず、これが一番正しい判断なんやで」

 本当に、一応、クギを刺す意味からも、そう言って置くべきでしょうね。
 何故ならば、これから先も、ずっとこのまま魔法攻撃に対して有利に戦う事が出来ると楽観視されていたら、非常にマズイ結果をもたらせる可能性も有りますから。

 但し、一番説得力のない人物からの格言なので、この言葉が何処まで説得力を持つのかは疑問なのですが……。それでも、これも事実ですから。
 それに、一度でも魔法を無効化したり、反射したりした事を敵が知ったのなら、二度と同じ方法では攻撃をして来ないと考えた方が良いのも当然です。何故ならば、何度も何度も、無駄な事が判っていて、同じような魔法で攻撃を加えて来る阿呆は現実世界では居ません。

 敵がマヌケで、こちらの情報を収集する事なく敵対している、と言う場合ならば、こう言う小細工は何時までも効果を発揮するのですが。まぁ、普通は、そんな可能性はないでしょう。

 兵は詭道。所詮は騙し合い。
 本来なら、最後まで自らの手の内を隠し通した者が勝利する。そう言う世界ですから。

 なので、本当なら、転移魔法も秘匿して置きたい能力だった訳なのですが……。
 しかし、これに関しては仕方がないですかね。

「それと……ワルド子爵の姿が見えないようなんやけど、これについては、聞いても良いかな」

 俺が姑息なのは何時もの事。これに関しては今重要な事ではないので、何処か遠くにさらっと流して……。

 一応、ある程度の事情は察しているので、本来ならばこの質問……ワルドに関しては聞くべきではない部分だとは思うのですが、それでも聞かなければならない部分でも有ると思うのですよね、この質問に関しては。

 もっとも、簡単に話してくれるかどうかについては、微妙だとは思うのですが。

 その理由は、今回の才人達の任務は、表向きはどうあれ、裏は国家間の紛争に発展しかねない内容だからです。その任務の詳細に関わる可能性の有る内容を、いくら命の恩人で有る俺に聞かれたトコロで簡単に答える訳には行かないでしょう。

 まして、俺達をその厄介事に巻き込みたくないのなら、任務に関わる全てに付いては、何を聞かれたとしても答えない、と言う判断が正しいとは思います。

 但し、俺達は、ラ・ロシェールでワルドの姿形を模したフレースヴェルグに出会って居ます。
 もし、あのフレースヴェルグの登場が、ルイズ達の関わった事件と何か関係が有るのならば、情報を得て有る程度の判断をして置かなければ、いざと言う時の判断に迷いが生じて、結果として悪手を打つ可能性も有りますから。

 才人が俺の問いに少しルイズを見た。そして、その後に、

「ワルドは敵だった。これ以上は、悪いけど話せない」

 ……と続けた。
 ルイズも、そして、ギーシュもそれ以上は何も言おうとはしなかったのですが……。

 ワルドが敵だった……ですか。

 彼の事を俺は、三銃士内のワルド伯爵と似た立ち位置に居る人物の可能性が有る、と思っていたのですから、この答えに関しては驚愕すべき内容と言う訳では有りません。
 ……って言うか、才人は三銃士を読んでいないと言う事なのでしょうかね。この一連の流れの中での彼の対応から類推すると。

 それで。確かに、部外者で異世界人の俺と、本名を明かせない留学生のタバサには、これ以上の情報を明かす事が出来る訳はないと言う事も理解出来ます。むしろ、ワルドが敵だった、と言う事を明かしてくれた事だけでも感謝すべき事なのでしょう。

 何故ならば、アンリエッタ王女が信頼して任務を命じたグリフォン隊々長が国家に対する裏切り者だったと言う事を報せる事と成るのですから。

 トリステインの統治は盤石では無く、調略は可能だと言う証拠と成りますからね。

「そうか。単に、好奇心から聞いてみただけやから、そう気にしなくてもええんや」

 一応、そう答えて置く俺。それに、あまり詳しい情報については、こちらも話せない内容に抵触する可能性が有りますから。
 例えば、俺の正体や、タバサの魔法。そして、……彼女の正体についてなどが。

 但し、個人の友誼レベルの情報ぐらいなら話して置いても問題は有りませんかね。
 特に、才人やルイズが関わっている事件に関係する可能性の有る内容については。

「そうしたら、俺はこれから少し、独り言を言うから」

 一応、そう断ってから、何かを話し出そうとする俺。
 但し、所詮は独り言ですから、内容に関しては聞き返す事は認めませんし、真実かどうかの確認も認めません。
 まして、その独り言を聞いた後に各人がどう言う判断をするかについても、聞く気も有りません。

 その理由は、俺はルイズの魔法の系統に付いても、まして、才人が伝説の使い魔だと言う事も知らない事に成っているのですから。

「ルイズ達がアルビオンに飛び立った後に、俺とタバサはラ・ロシェールの港で、ワルド子爵の姿をした左腕の無い魔物と戦った」

 俺の独り言に対して、才人が息を呑んだのが判りました。ルイズとギーシュに関しては、表面上は無関心を装っているのですが、何か心当たりが有るのは間違いないですね。彼、及び彼女から発している雰囲気がそれを物語っています。

 これは、フレースヴェルグは、完全に倒せた訳では無い可能性も出て来たと言う事ですか。それとも、ワルド自身が完全に倒された訳ではないのか。

「そう言えば、オスマン学院長が何かが起きつつ有る可能性が有る、と言っていたかな」

 さて、俺の独り言はこの程度が限界ですか。これ以上は、俺の正体やタバサの秘密に関わる可能性が高いので無理でしょう。
 まして、タバサの事情から考えると、国政に関わるような厄介事に首を突っ込むと、彼女の目的に差し障りが出て来る可能性が高くなりますから。

 俺の独り言を聞いた才人がルイズを見る。これは、おそらくは、俺に全てを話しても良いかと言う無言の問い掛け。
 しかし、その必要は有りません。俺の方は、ワルドとあのフレースヴェルグとの関わりが判れば良かっただけ。そして、その目的は既に達しています。

 更に、少なくとも俺自身は、アルビオンとトリステインとの間のゴタゴタに首を突っ込む心算は、全く有りませんから。

「なぁ、ルイズ。今回のアルビオン行きは、ルイズ、才人、そしてギーシュの三人だけで事件を解決した。それで間違いないな」

 少し、冷たい……いや、隔意を覚えるかも知れない俺の発言。

 但し、これ以上、この事件に巻き込まれるのはマズイでしょう。俺がウカツに動くと、タバサが巻き込まれる恐れが有ります。そして、俺が一番に考えるべきは、天下国家の事などではなく、タバサの事。

 俺の突然の問い掛けにタバサは無言で見つめるのみ。ギーシュも俺の言葉の意味を察したのか、口を挟んで来る事は有りませんでした。

 ゆっくりと、無言で首肯くルイズ。その表情は、彼女には相応しくない、妙に透明な表情が浮かんで居る。
 しかし……。

「ちょっと待ってくれよ、ルイズ。このアルビオン行きは、俺達だけでは助からなかった。今、俺達が生きて居られるのは、忍やタバサ達が居てくれたからじゃないか」

 正論を武器に、友誼で守りを固めた才人が、そう少し強い口調で言った。
 成るほど。それは事実でしょう。そして、そんな事ぐらいルイズだって判っていると思いますよ。

 ただ、才人。オマエさんの御主人様の表情を見てから、その台詞は言うべきではないでしょうか。
 彼女自身が完全に納得した上で、俺の言葉を肯定したかどうかを、自らの目で見てから判断した方が。

「才人。そうして、キュルケやジョルジュを連れて、このアルビオン行きを命じた人間の元に行って、恩賞でも貰えと言うのか。
 ゲルマニア貴族のキュルケと、ガリア貴族のジョルジュに」

 それだけで終われば良いのですが……。
 才人達の任務の内容を知った可能性の有る異国人を、果たしてトリステイン王家がどう扱うか考えてみると、どうもそんな甘い見通しは建てられないと思いますよ。

 何故ならば、たかがラブレターの存在すら危険視して回収を命じる王家が、そのラブレターの存在を知り、剰え、魔法衛士隊のグリフォン隊々長の謀反と言う事実を知っている外国からの留学生をどのように扱うかを考えたら、俺達の事は自らの内に仕舞って置いてくれた方が百万倍マシだと思いますね、俺は。

 この世界には外交官の身分を護る法律はないと思います。まして、タバサ達は単なる学生。更に、タバサに到っては、貴族の家と言うバックはない。
 この状態で、トリステインの国家機密を握るのは危険過ぎるでしょうが。

 それでなくても、タバサの立場は本国ガリアの方でも微妙なのですから。

「このアルビオン行きに、留学生の三人とその使い魔は一切関わらなかった。その方が良い」

 未だ完全に納得した雰囲気ではない才人と、その才人を少し悲しそうな瞳で見つめるルイズ。
 確かに、正論を言っている才人の方としたら、これは仕方がない事ですし、普通の日本の高校生なら国境線の事など考えていないのは当然です。

 但し、その気性では貴族社会の中で生きて行くのは難しいとは思いますが。

「まぁ、これは時間が解決してくれる問題やから、そう、硬く考える必要はないで、才人。
 アメリカでは、情報公開制度により機密文書でも何時か公開される。それぐらい先には、今回のアルビオン行きの正当な論功が行われる事になるやろうから」

 少しぐらいのフォローは必要でしょうか。そう思い、この台詞を口にしたのですが……。

 もっとも、日本の三十年未来を行くと言われているアメリカの制度でも、関係者が生存中の公開は難しかったと記憶していますけどね。まして、中世のトリステインでは、情報や知識を独占する事が権力の象徴となるのではないかとも思いますし。

 国民は無知で有るべきですから。その方が、為政者は統治し易いのでね。

 但し、信賞必罰と言う言葉を知っているのなら、それが正しく為されない国家に明るい未来など訪れないのですが。
 ただ、信賞必罰とは、味方に対しては賞が与えられ、敵に対しては罰が与えられる類の物の方が多いのも事実です。故に、公明正大な論功と言うのも、歴史的にはそう無かったとは思いますが。

 そして、そうやって国家とは徐々に内側から腐って行き、何れ滅ぶ事に成るのですから。
 王が王たる徳を失えば、天帝は別の徳を持つ者を王として認め、命を革める。つまり、革命が起きると言う事ですから。

「まぁ、と言う訳やから、その辺りの事を宜しく頼むな、ルイズ」


☆★☆★☆


 それで、結局、朝日が昇る頃にラ・ロシェールに到着。
 これは、ワイバーンを飛ばしていた距離よりも、転移魔法で往復した距離の方が圧倒的に長かったから、こう言う結果と成った訳なのでしょう。

 そこから、ルイズ達は馬を調達して、何処か(王都)に向かう為の準備を行い、俺とタバサはキュルケとジョルジュに合流。
 尚、キュルケにしても、ジョルジュにしても、ルイズが帯びていた密命とやらには一切触れる事は無く、俺達が無事にルイズ達を連れて戻って来た事のみを喜んでくれました。

 向こう岸で何が有ったかを聞く事も無く。

 気楽なように見えて、結構、シンドイ事も有ると言う事ですか。留学生と言うヤツも。

 そして……。
 もう一人、俺とタバサの帰還を待っていた(おとこ)が、このラ・ロシェールの港に残っていました。


「よう、坊主ども」

 遠近感を無視した暑苦しい傭兵のラウルが近寄って来て、片手を上げながら、そう俺とタバサに挨拶を行った。
 もっとも、約束の報酬に関しては昨日の内に支払って居ますので、もう用はないはずなのですが。

「一応、ここを離れる前に挨拶だけはして置こうと思ってな。オマエさん方の帰りを待っていたんだよ」

 そう言いながら、ニッと嗤う口元から、不自然なまでに白い歯が零れる。
 尚、同時に体感気温が三度ほど上がったような気がするのですが……。これは、おそらく俺の勘違い、気のせいなのでしょう。

「彼女達があの危険な中で無事に船に乗り込む事が出来たのは貴方達の御蔭です。改めて御礼を言って置きます。ありがとう御座いました」

 そう言ってから、少し頭を下げて見せる俺。一応、彼は自らの仕事を熟しただけですが、こう言う台詞も必要な時も有ると思います。

 まして、ルイズ達だけでは流石に港に無事に到着する事は難しかった可能性も有ります。
 それに、時間を掛け過ぎて居たら、俺達のように港で足止めを食らっていた可能性も高かったと思いますから。

 そして、一番大きな理由は、俺が頭を下げて感謝の言葉を告げるだけなら、元手は必要有りませんから。

 少しの余韻を残すように巨漢の傭兵を見つめる俺。そうして、更に続けて、

「また、何か仕事が有ったら、依頼させて貰いますよ。その時は宜しくお願いします」

 ……と伝えた。

 もっとも、今回のような厄介で危険な事件に巻き込まれるのは、本音を言うと、もう勘弁して欲しいのですが。
 実際、運が悪ければ、何処かの戦闘で死亡していた可能性だって有るのですから。

 特に、一番ヤバかったのは、ティンダロスの猟犬との戦いでしょうか。

「あぁ、俺は金払いの良い雇い主は嫌いじゃないからな」

 そう言いながら、少し嗤う巨漢の傭兵。
 そして少し屈んで、俺の耳にだけ聞こえる声で更に、こう続けた。

「あの娘は、ガリアの王族だな、坊主」

 ニヤリと嗤うラウル。但し、これは今までとは少し質が違う嗤い。もっとも、陰に属するタイプの嗤いではないように感じますが。
 ……この嗤いは、多分、悪戯坊主の笑いに近いな。

 一瞬、虚を突かれて、少し反応が遅れる俺。
 尚、タバサの方には聞こえて居なかったのか、まったく反応はしませんでした。

 いや、もしかすると、彼女の頭の中では王家の一員で有る事をはく奪された時から、そんな事など気にして無かったのかも知れませんが。

「あの髪の毛の色は、ガリア王家の一員にしか現れない色だからな」

 少し嗤いながら、ラウルが種明かしを行った。相変わらず、少し屈んだ姿勢のままで。
 ……って言うか、180近い身長が有る俺に耳打ちする為に少し屈む必要が有る人類と言うのにも、早々出会えないとは思うのですが。

 それにしても、言われて見ると、この世界の人間にもかなりの人数に出会って来たけど、確かに蒼の髪の毛を持つのはタバサただ一人でした。
 珍しいと言われて居る黒髪でさえ、シエスタとギトー先生のふたりは存在して居ましたし。

 後、ツェルプストーの赤毛と言うのも、一族を指し示す目印みたいな扱いらしいですから、蒼髪がガリア王家を示すトレード・マークだったとしても不思議ではないですか。

 ……と言う事は、実は、彼女が魔法学院で名乗っている偽名など意味を為していない可能性も有る、と言う事に成ると思うのですが。

 何故ならば、ガリアの王弟が不慮の事故で死亡した後のガリア国内でのゴタゴタは、積極的に情報を集めていない貴族でも知っているレベルの情報のはずです。
 そして、同時にタバサの周辺に友人と言えるのがキュルケ一人しか居ず、更に、彼女の美貌に目がくらんだ男子生徒が一人も居ない理由にも、ようやく納得出来ましたね。

 偽名の蒼髪の留学生がガリアの王族ならば、彼女の周辺は危険だと、ある程度の情報を収集している貴族なら知っているはずですから。

「そして坊主が王族専属の護衛騎士と言う訳か」

 更に、ラウルがそう聞いて来た。
 尚、この部分に関しての彼の予想は少しずれた認識なのですが、それでも人間が使い魔などと言う話はこの世界の常識の範疇から外れると思いますから、こう思って置いてくれた方が良いですか。

「まぁ、そんなトコロかな」

 一応、そう答えて置く俺。まして、どうやら、タバサの正体に関しては、知られたトコロでどうと言う事もない情報のようですから、これぐらいの反応で良いでしょう。
 それに、傭兵ならば、雇い主の情報を簡単に売り渡す事もないはずですから。

「成るほどな」

 そう言い、少し考えてから一度タバサの方を見つめるラウル。
 そして、

「ガリアでは、辺境。北の方の領主がきな臭い動きをしている、と言う情報が傭兵仲間の間で流れている」

 ……と告げて来たのでした。


☆★☆★☆


 そうしたら、少し歴史が動いたので、その経過について少し説明したいと思います。

 先ず、俺達が学院に戻って来てから五日後にトリステイン王国王女アンリエッタと帝政ゲルマニア皇帝アルブレヒト皇帝の長子ヴィルヘルムとの婚姻が発表されました。

 ……と言う事は、あのアルビオン行きは、この婚姻の為に過去を清算する意味でのラブレターの回収だったと言う事ですか。ホンマにショウも無い任務だったと言う事ですね。

 普通の王家同士の結びつきに愛情など無いですし、この場合、トリステイン王国とゲルマニア帝国が結びついて、ゲルマニア=トリステイン帝国と成る、と言う訳ですから、結婚相手のヴィルヘルムくんにしたトコロで、アンリエッタの過去に拘りなど見せないでしょうに。
 彼が娶るのは、アンリエッタ個人ではなく、トリステイン。そこに、個人の感情が含まれるとは思いませんし、それに、アンリエッタ姫もかなりの美少女でしたから、トリステインの王位込みの結婚ならば、問題はないと、俺は思いますけどね。

 もっとも、あのラブレターの回収騒ぎは、ゲルマニア側に情報が漏れる事を恐れての事ではなく、トリステイン内の反ゲルマニア勢力。つまり、ゲルマニアとトリステインに結び着かれると困る連中の蠢動をけん制するための任務だったのでしょうかね。

 ただ、その辺りに関しては、真相はやぶの中、なのですが。

 そうしたら次。
 俺達がルイズ達を救い出した日……正確にはその翌日が、アルビオンの王朝テューダー朝滅亡の日で、その後、新たにアルビオンの王に即位したのが、理由もはっきりしない内に兄ジェームズ一世に因って誅殺された弟モード大公の遺児ティファニアと言う少女らしいです。

 ……と言うか、アルビオンにも『タバサ』が居た、と言う事ですか。

 王家の血筋と言うのは、大抵が自らの一族の血によって染め上られた歴史を持っている物なのですが、それにしても、ガリアと同時にアルビオンでも、王と王弟の争い。簡単に偶然の一致だと片付けて仕舞うには問題が有るとも思うのですが。
 まして、その結果による内乱の発生……。

 それで、一応はテューダー朝の血は引いているとは言え、本人、ティファニア新女王はその事を否定したいでしょうね。彼女の置かれていた立場から推測すると。

 そして、そのモード朝と言うべきアルビオン新王家から、トリステイン及びゲルマニアに派遣された特使オリバー・クロムウェル護国卿によって相互不可侵条約が締結される運びと成りました。

 しかし、この不可侵条約、本当に信用しても良いのでしょうか。聞くトコロによると、テューダー朝の滅亡した最後の夜襲は、本来、明朝総攻撃を開始すると告げて来た日の夜、それも、潜入していた工作員によるウェールズ皇太子及び、ジェームズ一世暗殺に始まる殲滅戦だと言うウワサが流れています。
 更に、地球世界のイギリスと違い、この世界のアルビオンに植民地は有りません。その上、この世界には大航海時代は訪れていない為に、ジャガイモやトウモロコシなどの大量に収穫可能な穀物が存在してはいません。

 果たして、大ブリテン島だけで国民を養って行けるだけの食料を準備する事が出来るのでしょうか。

 確かに、新たに女王を推し抱いて、今までとは違う新生アルビオンを構築しようと言う意気込みで国内をまとめ上げる事は不可能では有りません。しかし、それでも、新しい国家ですから、国内の不満を外に向ける可能性もゼロでは有りません。そこから先に、彼らの目的、聖地奪還の名の元に新たなる討伐軍を編成して、戦争に討って出る可能性も高いと思います。

 つまり、大陸への橋頭堡となるトリステインが狙われる可能性も有ると思うのですが。

 こんな連中の約束を信用しては、後で取り返しのつかない事に成る可能性も……。

 もっとも、政治を動かす方たちが何を考えて居たとしても、俺には関係ないですか。俺はタバサの使い魔で異世界人、そして、タバサはガリアの人間。

 まして、彼女は貴族として生きて行く心算はないみたいですから。

 それで、アルビオンが送り込んで来た人物の肩書の護国卿と言う物なのですが、この役職は幼い王の後見役の事で、実質、現在のアルビオンのトップの事です。

 それに、そのティファニア女王と言うのは、未だ十六,七歳の少女のはずですから、後見役と言うか、テューダー朝に不満の有った連中の神輿として担がれただけの存在の可能性は有りますね。
 それに、執拗に繰り返されたテューダー朝の捜索から、そのティファニアと言う少女を護り抜いたのは、何でも教会で、そのティファニアと言う少女も信仰に生きて来た少女らしいです。

 確かに、王族が身分を隠して教会に潜むのはお約束のパターンですから、大して珍しい話でもないのですが、これでレコン・キスタの目的、聖地奪還の意味が良く判りましたよ。
 単なる、仲間を纏める為の御題目などでは無く、本気でそう考えている可能性が有る、と言う事ですから。

 信仰によって生命を守られた少女が、自らの父母の仇を討つ。中々良くできたシナリオです。少なくとも、一気に貴族中心の政権……共和制を打ち立てるよりも、一度緩衝材的に、この少女を女王位に即けて置いて王をお飾りと為し、三部会を作って議会で国政を動かすようにして行った方が良いでしょう。

 まして、アルビオンには、王女が王位に即いてはいけないと言う法律は有りません。
 地球世界のイギリスのように……。

 おっと、少し間違えて居ましたか。このハルケギニア世界に三部会の必要は有りませんね。貴族と聖職者だけで良かったはずです。この世界の平民の扱いは、地球世界の農奴と言うべき存在に近い扱いで、政治に対する発言力は無いに等しいですから。

 例え少々の経済力が有ったとしても、貴族には魔法と言う有無を言わさない絶対的な武力が存在していましたから。
 それに、この世界には、ジェントルマンの語源と成ったジェントリと言う階級に近い制度が有るのはゲルマニアだけでしたしね。

 もっとも、その辺りについても、俺にはまったく関係のない話ですか。アルビオンの後の支配階級に関わる話ですから。

 それから、これが最後。どうも、このアルビオンの内乱……革命騒ぎは、地球世界の清教徒革命に相当する事件の可能性が出て来たと言う感じなんですよね。
 オリバー・クロムウェルなんて、そのままの名前じゃないですか。まして、護国卿に任じられていますし。

 ただ、王位に即いているのは、ある程度の正当な血筋を引いている人物ですから、王政復古は行われる意味も無いですし、更にブリミル教の神官達がティファニア姫を匿っていたのは事実です。ロマリアの教皇も彼女が王位に即く事を、直接は未だ表明してはいませんが、間接的には支持しているみたいな物ですので、地球世界の清教徒革命のような結果に終わるかどうかは微妙な線なのですが。

 むしろ、差したる理由もなくモード大公家を潰した事に対する不満が、この革命に繋がった可能性が高いので、アルビオンがひとつに纏まる可能性が有るぐらいですからね。


☆★☆★☆


 五月(ウルの月)第三週(エオローの週)、ラーグの曜日。

 本日の授業は、ルイズの魔法の暴発によりコルベール先生が失神して仕舞い休講。そして、何故かその流れのままに午後の授業も休講となってしまった為に、現在は、生活空間のお掃除タイムと成っています。

 これは、内燃機関……つまり、エンジンの点火プラグ代わりにルイズの爆発魔法を使ったら問題が有る、と言う教訓を得た事件でしたね。

 それにしても、蒸気機関すらないこの世界で、いきなり内燃機関って、問題がないのでしょうか。

 えっと……。俺の記憶が確かなら、同時代には大砲が既に中国では開発されていたはずですし、この世界にも臼砲は存在するはずです。
 そして、とあるSF小説には、火薬の代わりに、揮発性の油を使用して玉を飛ばす砲を作ろうとして、内燃機関……つまり、エンジンの原型が出来上がったとするSF小説は存在していましたね。
 確かに、いくら揮発性の油を使っても、火薬ほどの爆発力は得られませんから。

 う~む。そうすると、コルベール先生の愉快なヘビくん(エンジン)も、東方では既に実用化がされている可能性の有る代物かも知れませんね。

 何故ならば、そのSF小説の舞台は、『元』。つまり、モンゴル帝国でしたから。
 それに、確か、あの世界では蒸気機関よりも先に内燃機関が作られていたかな。

 尚、部屋の掃除をしているのは俺だけで、タバサはベッドの上で、普段通り読書タイムです。
 もっとも、最近では、アガレスに日本語を学び、ハルファスに調達して貰った和漢の文字で綴られた書物を紐解くように成りましたが……。
 おっと。学んだと言っても、アガレスの職能を利用して、直接頭に叩き込んで貰ったと言う方が正解なのですが。

 それに、俺の知識の源は和漢の書物ですし、俺がハルケギニアの言語と文字。更に、ルーン文字を短期間で頭に叩き込んで貰ったのですから、タバサが日本語に興味を持ったとしても不思議では有りませんが。

 それに、流石にこの世界の書籍は値段が高い割にはいい加減な内容の物も少なくない。
 逆に、日本で出回っている書籍は安価で間違った内容を記している書物は少ない。
 同じように対価を支払うなら、ハルファスに調達して貰った和漢の書物の方を優先するように成ったとしても不思議では有りませんか。

 但し、ハルファスが調達出来るのは大量生産品までです。魔導書などの一般に出回っていない貴重な書物の類を手に入れる事は出来ません。



 掃除の手を休め、少し伸びをした後、一当たり、周囲を見渡してみる俺。

 しかし、殺風景ながらも、俺が暮らすように成ってから、本の数が増え、食器の類が増え、俺の荷物が増えて来ましたね、この部屋も。
 最初と比べて、少し手狭になって来た生活空間を見渡しながら、そう考えてみる。
 俺自身が壺中天(コチュウテン)の再現は出来ないので……部屋を新しくするか、何処かに部屋を借りて、その部屋とこのタバサの部屋に転移魔法で簡単に行き来できるように、ゲートを作って置くか。

 現実的なのは、部屋か家を借りる事ですか。

 そんな、あまり意味のない事を考えながら掃除をしている俺の目に、今まで、タバサの部屋では一度も見た事のない奇妙なアイテムが、彼女の机の上に置かれている事に気付いた。
 少し、気になって、その奇妙なアイテムを見つめ直してみる俺。

 ふむ。大きさとしては、直径が大体十センチ程度の手の平サイズ。色は翡翠。全体的に丸い作りで足は三本。上部は穴の開いた形の蓋に成っていて、細かな意匠が施されている様子もなく非常にシンプルなデザイン。

 ……って言うか、これって多分、香炉だと思うのですが。

「なぁ、タバサ。何故に、こんなトコロに、香炉なんかが有るんや?」

 そう聞く俺。但し、それと同時に

【シノブ。その香炉は問題が有るのです】

 ……と言う強い警告。これは、ダンダリオンからの【念話】なのですが。
 そして、俺が指差す香炉をしばらく見つめたタバサが、一言、彼女に相応しい声で、その香炉の正体を告げた。
 そして、そのタバサと同時に、俺の精神(こころ)の中に、やや高い声質のタバサとは違う少女の【声】が響く。

誘いの香炉(いざないのこうろ)
【誘いの香炉なのです】

 そう。ゆっくりとした落ち着いた口調のタバサと、かなりの早口で、少し焦った雰囲気のダンダリオンの【念話】が同じ内容を俺に伝えて来たのでした。
 そうして……。

【使った者に望みの夢を見させる魔法のアイテム。このアイテムは、普通に使う分には問題がないのですが、タバサのように、現実では取り戻せない物を持つ人間が、夢の世界でそれを手に入れた場合……】

 ダンダリオンのみが、その香炉の効果を【念話】で伝えて来る。

 成るほど、つまり、
 現実(うつつ)は夢、そして、夜の夢こそ真。……と成る可能性が高いと言う事ですか。

 ……いや、俺に、その気持ちを否定する事が出来る訳は有りません。
 タバサに何が有って現在の彼女が形作られたのかは判りません。しかし、彼女は元々、大公家の姫で、普通に考えるのならば、ごく普通の少女として育って来たはずです。

 その普通の少女が父親の不審死、自身の暗殺未遂に、母親が毒を煽らされた結果の精神異常。そして、生家の取り潰し。
 こんな過酷な運命に晒されていたのですから、今の彼女の表面上に現れている性格は仕方がないと思いますし、少しぐらい怪しげなアイテムによって精神の安定を求めたとしても不思議ではないでしょう。

 まして、少なくとも俺が召喚されてから彼女は、この誘いの香炉を使って眠った事は一度も有りません。

 つまり、彼女は逃げ込む先を持って居ながら、その誘惑に打ち勝つ事が出来たと言う事なのですから。

 そう考えながら、俺は何の気なしにその誘いの香炉と言う魔法のアイテムを持ち上げて眺めて見る。

 大きさから考えると、予想よりは少し重い雰囲気ながらも、それでも通常の翡翠製の香炉とそう違いが有る訳では無いその誘いの香炉をしげしげと見つめる俺。

 こうして見ると、別に普通の香炉と何が違っているのか判らないですね。
 それに、何処から見ても普通の香炉で、ダンダリオンが警戒する程の危険な雰囲気を感じる事などはないのですが……。

 うむ、それでも、少し使用した形跡は有りますか。

 そう思った刹那、何か、ホコリのような物が宙に舞ったような気がした。

 そして次の瞬間……。

 
 

 
後書き
 今回の後書きは、大きなネタバレに繋がります。そう言う部分が気に成る方は目を通さない事をお勧めします。

 それでは、第30回の内容の重要な変更点。ティファニアに関して。

 先ず、何故、原作小説通りに、ウェストウッドの森に隠れ住む事が出来なかったのか。

 そんなの、普通に考えたら簡単です。ティファニアの忘却の魔法は、前線の兵士には有効ですが、彼女に直接魔法を掛けられない、命令を下した存在達には無意味ですから。
 自らの弟を手に掛けてまで殺さなければならないエルフをあっさり見逃すほど、この世界のジェームズ一世は無能では有りませんし、覚悟を決めずにモード家やサウスゴーダ家を襲わせた訳でも有りません。
 まして、そのジェームズ一世に、弟とその愛妾。更に娘の生命を奪えと命令した存在も、そんなに簡単に、ティファニアの存在を忘れるような方々では有りません。もっとも、ティファニアに関しては、生命までも奪う心算は無かったのですが。

 おそらく、ジェームズ一世に関しては、破門にされるとでも脅しつけられたのでしょう。これだけブリミル教の支配力が強い世界なら、この言葉はかなりの影響力が有るはずです。

 故に、現在、アルビオンの女王と成っているティファニアは、原作小説に登場するティファニアとは姿形は同じですし、虚無の担い手ですが、心は違います。

 それに、この平行世界で有るこの物語内でモード家が滅ぼされた理由は、ティファニアを不幸にする事が理由です。この部分に、神の思し召しにより、才人が現れるまで、ウェストウッドの森で彼女が静かに暮らすと言う選択肢が現れる事は有りません。
 いや。良くある設定。過ぎたる力は、その持ち主に不幸をもたらせる。……と言う、小説や物語では良く取られている設定を踏襲している、と言う事です。

 そして、この世界に於ける『虚無』への覚醒には必要なイベントだった、と言う事でも有ります。

 この辺りを指して、アンチだ、ヘイトだと言われる方が居られるかも知れません。しかし、私は最初から『原作崩壊』と銘を打ち、『平行世界』での出来事だとタグに記載して有ります。更に、何度も、『御都合主義的な結果は排除する』と記した上に、『敵をマヌケにしない』とも記載して来ました。

 それでは、次回タイトルは『夢の世界へ』です。
 
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