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その男ゼロ ~my hometown is Roanapur~

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2nd bullet 《the last days of Roanapur》
chapter 01 : meeting
  #17 "It\'s a wonderful world!"

いよいよ始まるね ねえさま
いよいよ始まるわね にいさま

たくさんたくさん殺そう ねえさま
たくさんたくさん殺しましょう にいさま

死体を高く高くうず高く積み上げよう
死体を高く高くうず高く積み上げましょう

地面を流れる血で覆ってしまおうか
地面を流れる血で覆ってしまいましょうか

凝り固まった血で道を造ろうか
凝り固まった血で道を造りましょうか

肉のこびり付いたままの骨はどうする
肉のこびり付いたままの骨はどうしましょう

それで家でも建てようか
それで家でも建てましょうか

ふふふ
うふふ

皆を愛してあげよう ねえさま
皆を愛してあげましょう にいさま

それはとてもとても素敵だね
それはとてもとても素敵だわ

あの匂いもまた漂うね
あの匂いもまた漂うわ

排泄物と吐瀉物を混ぜ合わせたような
排泄物と吐瀉物を混ぜ合わせたような

懐かしい匂い
懐かしい匂い

命が流れてゆくね
命が流れてゆくわ

底のない暗黒の底の底まで
底のない暗黒の底の底まで

ああ……昂る鼓動を感じるよ
ああ……昂る鼓動を感じるわ

夜の闇を身に纏おう
夜の闇を身に纏いましょう

腐った血膿を潰そう
腐った血膿を潰しましょう

骨を砕いてしまおうか
骨を砕いてしまいましょうか

肉を突き破るのもいいね
肉を突き破るのもいいわね

全てを狂わせよう
全てを狂わせましょう

鼻をへし折ろう
鼻をへし折りましょう

唇を引き裂こう
唇を引き裂きましょう

眼を抉り取ろう
眼を抉り取りましょう

耳はどうしよう
耳はどうしましょう

やっぱり削ぎ落とそうよ
やっぱり削ぎ落としましょう

臍からその中を覗き込んだ後は
臍からその中を覗き込んだ後は

全ての臓腑を引き摺り出そう
全ての臓腑を引き摺り出しましょう

頭蓋骨は丹念に砕こうね
頭蓋骨は丹念に砕きましょう

中から脳漿が飛び出たら
中から脳漿が飛び出たら

シャワーを浴びよう
シャワーを浴びましょう

勿体無いかな
勿体無いかもしれないわ

楽しいね ねえさま
楽しいわね にいさま

見たいな 血塗られた肋骨を
見たいわ 血塗られた肋骨を

見たいな その奥にある心臓を
見たいわ その奥にある心臓を

ゆっくりと撫でさすってあげようか
ゆっくりと撫でさすってあげましょう

ありったけの血を降り注ごう
ありったけの血を降り注ぎましょう

空っぽになったらそれを舐めようか
空っぽになったらそれを舐めましょう

いっしょにね ねえさま
いっしょにね にいさま

バラバラになった彼らは仲間になれる?
バラバラになった彼らは仲間になれる?

ジェフリー・ダーマーだね
ジェフリー・ダーマーね

彼は寂しがり屋だね
彼は寂しがり屋ね

くすくす おかしいね
くすくす おかしいわね

僕にはねえさまがいるよ
私にはにいさまがいるわ

他には誰もいらないよ
他には誰もいらないわ

愛しているよ ねえさま
愛しているわ にいさま

どこまでも二人で行こう ねえさま
どこまでも二人で行きましょう にいさま

世界の果てまでも一緒に
世界の果てまでも一緒に

でもその前に
でもその前に

やらなきゃいけないよね
やらなきゃいけないわね

この街で
この街で

いつものように
いつものように

あの頃のように
あの頃のように

教えられたやり方で
教えられたやり方で

自分達で考えたやり方で
自分達で考えたやり方で

今までそうして来たように
今までそうして来たように

永遠を求めよう
永遠を求めましょう

だって
だって

僕達は
私達は

そうするしかないんだから
そうするしかないのだから

ああ
ああ

本当に楽しみだ
本当に楽しみね

さあ
さあ

始めよう
始めましょう

愛しているよ ねえさま
愛しているわ にいさま



















【11月1日 AM 0:14】

Side ゼロ

11月にはろくな事が起こらない。何故かそれは昔から変わらない。
人生の一時期にこの街を離れていた時もそうだった。
あの時は依頼主に裏切られて、ジャングルの中を駆けずりまわったっけな………
確か藪医者にモルヒネの量を間違えられて死にかけたのも11月だったはずだ。
勿論この街に居ればそもそもろくな事なんてないのが当たり前なんだが、それでも11月には嫌な記憶しかない。
俺は普段腕時計なんてしないし、持ち歩いてもいないから分からないが、もしかしたらもう日付は変わってるんじゃないか。
だとしたら11月が始まった事になるな。
今年の11月はこうなるわけか。やれやれだな。
まあ、"奴等"が来る事は想定の範囲内だがまさかこうなるとはな。
これは最早呪いだな。
11月の呪いか。映画のタイトルとしてはイマイチかな。さて、どうしたもの………

横っ飛びに避けた後、そのまま身体を前転させて受け身を取る。
俺が飛び退いた空間を垂直に両断したのはトマホークか。
夜のロアナプラに白い閃光を残した戦斧はかなり使い込まれたものだろう。その刃の部分からは怪しい燐光が染みでてやがる。
片膝を着いた状態のまま、視線は斧の持ち主から外さない。
避けられた事も全く気にしていないのか、すぐに手斧を胸の前で構える"奴"の顔に張り付いてるのは笑いの仮面。

………"奴等"の狙いはマフィアだけだと思っていたんだかな。俺も関係者だと思われたか、 ただの無差別に切り替えたのか。

「おっと!」 再び横に飛び後方からの銃撃を避ける。
地面からは着弾した衝撃で土煙が舞い上がる。弾幕を張ってくるかと思ったが、銃撃はすぐに止んだ。
牽制か、援護が目的か。

すぐに起き上がって距離を取りながら相手二人の位置を確認する。
"手斧"はとっくに姿を隠していた。追っては来なかったようだな。
銃撃してきた方も姿をくらましてる。使っていたのは多分BARか。
しかし、あの身体でよくBARなんて使えるよな。
気配を探りながら、意識の別の部分で "奴等"の事を考える。

BARは確か………全長1200ミリくらいあるはずだ。
殆んど自分の身長くらいある銃を軽々と振り回すなんて大したものだ。
もう一人の動きを考えても、"奴等"ただの殺人狂じゃない。一流の戦士だ。
油断していたとはいえ、バラライカの部下を殺れるくらいだからな。
さて、どうするかな………
建物の壁に背を預けながら、何も握られていない自分の右手を見る。
撃つべきか、撃たないべきか。今更そんな事で悩むとはな。俺もまだまだ……

「来るか!」思案を打ち切り、建物の陰から道路に向けて走り出す。
反対側からは"BAR"が今まさに俺に向けて7.62ミリ弾を喰らわそうとしていた。
撃たれる前に気配に気付けたのは上出来だ。
しかし、よくあんなもん抱えて走れるな。若いってのは羨ましい。
まだ追ってくるつもりかな。
だがまあ、俺が走り続ける限り当てるのは中々難しいだろう。
いくら遮蔽物の少ない道路とはいえ、移動する標的を狙い撃ちするってのはそう簡単な事じゃない。
と言うより拳銃(ハンドガン)ならともかく、ライフルでそれをやるのは曲芸に近い。
ライフルなんてのは基本的に遠距離から狙撃するための銃だからな。

"相手に気付かれる事なく狙い撃つ"

それが本来の使い方なんだが、どういう意図でBARなんて選んだのやら。
相手の意図はわからんが、逃げるだけなら何とかなる。まあ、もっとも、

「アハハ♪やるね、お兄さん♪」

頭を下げてトマホークを避けた俺に、称賛の声が掛かる。後方を警戒した一瞬の隙を突いてきたか。

頭を下げたまま一歩前へ踏み出し、振り向いて"トマホーク"の顔を確認する。そこには変わらず微笑みがはり付けられていた。そして右手で斧の柄を掴んだまま、ピタピタと手の平で弄んでいる。

正面から奴を改めて観察する。髪は銀色でウルフカット。もしくはショートのウルフボブと言えば いいのかな。あまり詳しくはないんだが。
服は何処かの学校の制服のようだ。黒を基調としているせいか、人によっては喪服のようだと捉えるかもな。ショートパンツに上はコートか。胸元にリボンまで着けて、一体誰の趣味なんだか。

「あら、お兄さんまだ生きてたの? とっても強いのね♪」

後ろから聞こえてきたのは追い付いてきた"BAR"の声。
俺は身体を90度右に捻り、一歩退がりながら両者を視界に納める。

"BAR"の方も同じ銀色の髪。ただストレートのまま伸ばした髪は腰まで届いている。
頭には胸元にあるものと同じ黒いリボン。
そして"トマホーク"と全く同じ顔。さすがは双子だ。それにしても良く似ているな。
フリルの付いたロングスカートを身に纏う "BAR"を観察しながら、 俺はそんな感想を抱いていた。

「姉様、このお兄さんスゴいんだよ。僕の斧を器用に避けるんだ」

"トマホーク"が"BAR"に向いて笑顔で話し掛ける。相変わらず手斧を弄びながら。

「ええ、分かるわ。兄様。私もさっき撃とうとする前に避けられてしまったの」

此方も笑顔で返事をする。勿論ライフルを腕に抱えたままで。

兄妹か姉弟か知らんが、手に抱えてるものを無視すれば実に微笑ましい光景だ。全くこの街には似合わんが。

「どうしようか、姉様」

「どうしましょうか、兄様」

笑顔のままで言葉を交わし合う二人。仲の良い二人に割って入るのは忍びないが、このままと言うわけにもいかんしな。少し話し掛けさせてもらおうか。

「話し中済まないが、俺の話も聞いてもらえないか」

両手を挙げた状態で双方に目を配りながら話し掛ける。
内心では結構緊張しながらだってのは誰にも言えんな。

「「何?お兄さん」」

二人が同時に声を掛けてくる。一応武器は向けてはこない。その顔は愛らしい笑顔のままだ。

顔は動かさず目だけを二人に向けながらゆっくりと口を開く。

「君達の目的はマフィア連中だと思っていたんだが違ったかな?
俺はただの運送業者でこの街のマフィア共とは関係ないんだがな」

二人は視線を交わした後、交互に語り出す。
その場から動かないまま語る二人と、それを大人しく聞いてる俺。
そんな滑稽とも言える情景を見ているのは空に浮かぶ月だけだった。
此処等は街でも人気のない通りだからな。
………二人は何故こんなとこにいたんだろうな。
まあ、俺も他人の事は言えないわけだが。

頭の片隅でそんな事を考えながら、俺は改めて確信した。
11月はやはりろくでもない事が起こる。きっと今は12時を越えているに違いない。
全くとんだシンデレラ・タイムだ。取り敢えず今夜はこれからどうなるんだろうな………












 
 

 
後書き
トマホーク: 北米のネイティヴアメリカンが使う斧。元々は開拓目的のため、ヨーロッパから大量輸入したものを入植者やネイティヴアメリカン達が改良した。 刃先が反っている小型の斧で汎用目的に使われる。 原則として柄は木製で、長さは30~50cm。 現代では軍用としてスチール製や強化プラスチック製のものも造られている。 作品中で使用されているのはスチール製のもの。

BAR:"Browning Automatic Rifle" ブローニング自動小銃M1918の略。 20世紀を通してアメリカ軍を始め各国の軍隊で使用された。 7.62mm弾を使用し、装弾数は20発。 重量は形式にもよるが7.3kg~8.6kg

 
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