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ソードアートオンライン VIRUS

作者:暗黒少年
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正体

 
前書き
今回、ようやくゲツガの中の正体が出てくる。まあ、タイトルで分かるけどね。 

 
 ゲツガたちは安全エリアに戻り、ユイを無言のまま見つめている。記憶が戻った、と言ってから、数分も黙ったままだ。ユイの表情はとても悲しそうだ。意を決したようにアスナがユイに訊ねる。

「ユイちゃん……。思い出したの……?今までの、こと……」

 ユイはしばらく俯いていたが、しばらくしてこくりと頷く。泣き笑いのような表情のまま、口を開く。

「はい……。全部、説明します……キリトさん、アスナさん、ユキさん、ゲツガさん」

 そして、ユイの言葉が安全エリアに響く。

「《ソードアート・オンライン》という名のこの世界は、一つの巨大なシステムによって制御されています。システムの名は、《カーディナル》、それが、この世界のバランスを自らの判断に基づいて制御しています。カーディナルはもともと、人間のメンテナンスを必要としない存在として設計されました。二つのコアプログラムが相互のエラーの修正を行い、更に無数の下位プログラム群によって世界の全て調整する。モンスターやNPCのAI,アイテムや通貨の出現バランス、何もかもがカーディナル指揮下のプログラム群に操作されています。しかし、一つだけ人間の手に委ねなければならないものがありました」

「人間の精神……メンタル面だな」

 ゲツガがそう言うとユイはこくりと頷く。

「GM……」

 キリトが呟く。

「ユイ、つまり君はゲームマスターなのか?アーガスのスタッフ……?」

 ユイは数秒間沈黙したあと、首を横に振った。

「カーディナルの開発者たちは、プレイヤーのケアすらもシステムにすら委ねようと、あるプログラム作成したのです。ナーヴギアの特性を利用してプレイヤーの感情を詳細にモニタリングし、問題の抱えたプレイヤーのもとに訪れて話を聞く……。《メンタルヘルス・カウンセリングプログラム》MHCP試作1号、コードネーム《Yui》。それが私です」

 その言葉にユキとアスナは息を呑む。そしてかすれた声で訊ねた。

「そ、そんな……ユイちゃん……嘘……だよね……」

「プログラム……?AIだって言うの……?」

 ユイは悲しそうな笑顔のまま頷く。

「プレイヤーたちに違和感を与えないように、私には感情模倣機能が与えられています。……偽者なんです、全部……この涙も……。ごめんなさい、アスナさん、ユキさん」

 ユキとアスナはユイにそっと歩み寄り、手を差し伸べる。しかし、ユイは首横にを振って拒んだ。ユイはアスナとユキからの抱擁を受ける資格がないといったように。

 いまだ信じることが出来ないといった、ユキとアスナは言葉を絞り出す。

「でも……でも、記憶がなかったのは何で?」

「そ、そうだよ、AIにはそんなこと起きないんじゃ……」

「二年前……。正式サービスが始まった日……」

 ユイは目を伏せ、説明した。

「何が起きたかは私にも詳しくは解らないのですが、カーディナルが予定にない命令を私にしました。プレイヤーに対する干渉禁止……具体的な接触が許されない状況で、私はやむなくプレイヤーのメンタル状態のモニタリングを続けました」

 予定のない命令、それは茅場晶彦が命令したことはこの中の誰もが理解した。そして、ユイは口をまた開く。

「状態は……最悪といっていいものでした。ほとんどのプレイヤーは恐怖、絶望、怒りといった負の感情に常時支配され、時として狂気に陥る人もいました。私はそんな人たちの心をずっと見て気ました。本来であればすぐにでもそのプレイヤーに接触して話を聞き、問題を解決しなければならない……しかしプレイヤーに接触することが出来ない。義務だけがあり権利のない矛盾した状況の中、私は徐々にエラーを蓄積され、崩壊しました……」

 静かなダンジョン内にユイの細い声が流れる。ゲツガたちはその言葉を黙って聞いた。

「ある日、いつものようにモニターしていると、他のプレイヤーとは大きく異なるメンタルパラメータを持つ二人のプレイヤーに気付きました。その脳波パターンはそれまで採取したことのないものでした。喜び……安らぎ、他にもたくさん……。この感情はなんだろう、そう思い、私はその人たちをモニターし続けました。会話や行動に触れるたび、私の中に不思議な欲求が生まれました。そんなルーチンはなかったはずなのですが……。その人たちの近くに行きたい、直接、私と話して欲しい……。あの二人の近くにいたくて、私は毎日、二人の暮らすプレイヤーホームに近いコンソールで実体化し、さまよい続けました。その頃の私はかなり壊れてしまってたんだと思います……」

「それが、あの二十二層の森なの……?」

「はい、キリトさん、アスナさん……私、ずっとお二人に会いたかった…。森の中で……お二人を見かけたとき……うれしかったです。そのあとに、出会ったユキさん、ゲツガさんあなたたちとも会えてよかった……。おかしいですよね、そんなこと、思えるはずないのに……。私、ただのプログラムなのに……」

 涙をいっぱい流し、口をつぐむ。アスナはそんな状態のユイに優しく声をかけた。

「ユイちゃん……あなたは……ほんとうのAIなのね。本物の知性を持った」

「私には……解りません……。私が、どうなってしまったのか……」

 そして、今まで黙っていたキリトが一歩前に出て、言った。

「ユイはもう、システムに操られるだけのプログラムじゃない。だから、自分の望みを言葉に出来るはずだよ、ゲツガもそう思うだろ?」

「そうだな。キリトの言うように、ユイはシステムに操られるだけのプログラムじゃないんだ。俺からも言うぞ。ユイ、お前の望みは何だ?」

「私は……私は……」

 ユイは、ゲツガたちのほうに細い腕をいっぱいに伸ばして叫んだ。

「ずっとみなさんと、一緒にいたいです……パパ、ママ、お姉ちゃん、お兄ちゃん!!」

 アスナとユキは近づいてきたユイをぎゅっと抱きしめた。

「ずっと……ずっと一緒だよ、ユイちゃん」

「私たちはいつまでも一緒だよ」

 少し遅れてキリトはユイとアスナ、ゲツガは、ユキとユイを包み込む。

「ああ……。ユイは俺たちの子供だ。家に帰ろう。みんなで暮らそう……いつまでも……」

 だがユイは腕の中で首を振った。

「「え……」」

 アスナとユキが声を上げる。

「もう……遅いんです」

 キリトが戸惑ったような声で訊ねる。

「何でだよ……遅いって……」

「私が記憶を取り戻したのは……あの石のせいなんです」

 そしてユイは中央に鎮座する石を指差す。

「私は、ゲツガさんがここに退避させたとき、ゲツガさんが待ってるようにと言ってこの石に乗せました。そして、知りました。あれは、ただの装置的オブジェクトではなく……GMがシステムに緊急アクセスするために設置されたコンソールなんです」

 ユイの言葉によって黒い石に突然数本の光の筋が走った。そして、キーボードが浮かび上がる。

「さっきのボスモンスターは、ここにプレイヤーを近づけないようによって配置されたものだと思います。普通のプレイヤーでは倒せないように……」

 そう言ってユイはゲツガの方を向いて、言った。

「ゲツガさん……あなたには一ついっておかなければなりません……」

 ゲツガは抱きしめていた身体を離し、ユイをまっすぐ見る。

「ゲツガさん、あなたの仮想体(アバター)は、ウィルスに感染しています」

 ユイは溜めもなしに言った。

「そうか……」

「はい。しかも、アバターはウィルスに侵食されていて、幾つかのあなたを守るシステムが再起不能になっています」

「……」

 ゲツガは、ユイの話を黙って聞いた。

「私が最初怖がっていた理由はそのせいです。今は、安全と理解しているから大丈夫なんですけど、ここからが大事です」

 ユイの顔が険しくなる。

「あなたの中に居るウィルスは一度、カーディナルによって削除されたと思いました。私がちょうどノイズが走った時と同時に。そして、どうやってかは解りませんが私をコンソールに座らせた時に、私を通してゲツガさんの身体に戻ってきました。より強力になって……。その結果、もう一度あのモンスターを倒そうとした力を使うようなことがあれば、仮想体(アバター)は完全に侵食され、カーディナルがゲツガさんを完全にバグと判断し、削除されます」

「そ……そんな……そんな何で!!何でゲツガ君がそんな目にあわなきゃいけないの!!」

 ユキがそれを聞いて叫ぶ。

「ユキ!!」

 ゲツガはユキを一喝してからユキの方を向いて言った。

「ユキ、これは仕方ないことなんだ。俺がこんなものに感染しちまったのが悪いんだから」

「でも……ッ!!」

「ユイも言っただろ。あの力さえ使わなければ何も起こらないって」

 そしてユイのほうを向く。ユイはこくんと頷いた。それを見たユキは安堵の表情を浮かべる。しかし、ユイは自分の身体を見てから言った。

「……そろそろ時間みたいです」

 ユイがそう言うとみんなが叫ぶ。

「ユイ、他に方法があるはずだ!!」

「ここでお別れなんてないよ!!」

「そうだよ、ユイちゃん!!まだ……まだ、いっぱいお話したいことだってあるから!!」

「クソッ!!ここから出れば、どうにかなるのか!!」

「皆さん、ありがとう。これでお別れです」

「嫌!!そんなの嫌よ!!」

「駄目!!行っちゃ駄目!!」

 アスナとユキは必死に叫ぶ。

「これからじゃない!!これから、みんなで楽しく……仲良く暮らそうって……」

「暗闇の中……いつ果てるとも知れない長い苦しみの中でパパとママ、それにお兄ちゃんにお姉ちゃん、あなた達の存在だけが私を繋ぎとめてくれた……」

 そして、ユイの身体が徐々に光始める。

「ユイ!!行くな!!」

「ユイ!!」

 キリトとゲツガはユイに叫び、存在を引きとめようとする。

「皆さんのそばに居るとみんな笑顔になれた……。私、それがとってもうれしかった。お願いです、これからも、……私の代わりに……みんなを助け……喜びを分けてください……」

 ユイの黒い髪やワンピースの端の部分が光の粒子となって消えていく。そして、ユイの身体も半透明になっていく。

「やだ!やだよ!!ユイちゃんがいないと、わたし笑えないよ!!」

「ユイちゃん!!行かないで!!」

 溢れる光び包まれながら、ユイはにこりと笑った。消える寸前、ユイの小さな手がユキとアスナの頬を撫でた。

ママ、お姉ちゃん、笑って……。

 そして、ユイは光の粒子となって飛び散り、ユキとアスナの腕の中にいたユイは完全に存在がなくなった。

「「うわあああああああ!!」」

 ユイとアスナは大きな声を上げて膝を突いた。子供のように大きな声で泣いた。二人の涙は、ユイの残した光の欠片とともに消えていく。

 しかし、キリトは涙を流さなかった。

「カーディナル!!」

 キリトは、上を向いて叫んだ。

「そういつもいつも……思いどうりになると思うなよ!!」

 叫んだあと、コンソールに飛びつき、ホロキーボードを素早く叩く。

「キリト、なにをしてるんだ」

 不意にゲツガがキリトに聞いた。

「今なら……今ならまだ、GMアカウントでシステムに割り込めるかもしれない……」

 そういい終えると、キリトの前に巨大なディスプレイが出現し、高速でスクロールする文字列の輝きが部屋を満たす。その様子を呆然と立ち尽くすしかないゲツガは憤りを感じていた。

『何で……何で俺はこんな時に何も出来ないんだ……』

『久しぶりだな、元気か?』

 不意に頭の中に声が流れる。

『お前、チェンジャーだったな?』

『おッ、覚えていたのか』

『今俺は虫の居所が悪いんだよ。出てくんじゃねぇ、ウィルスが』

『おお、怖い怖い。つうか、俺らのことを聞いたんだったな。それだったら少し俺らについて話といてやるよ』

『……何だ?』

 しばらく考えて言った。

『俺らが抜けた理由、削除された、って聞いたよな?』

『ああ』

『あれはぜんぜん違う。俺らは命令されて抜けたんだよ。お前の仮想体(なか)から』

『どういう意味だ?それよりも誰にされたんだ?』

『そりゃあ、マ……』

 突然チェンジャーが黙った。その理由は、すぐに理解できた。頭の中なのに、身体が竦むような、ものすごい重圧(プレッシャー)に当てられたからだ。

『チェンジャー……貴様、何喋ろうとしている』

 今度は、初老ぐらいの男性の声が聞こえた。

『コントロール……お前こそ……誰に向かってそんな口聞いてんだ?』

『コントロール?操作?』

『貴様が喋ろうとしたから黙らせただけだ。それに私以外は、あの方の半身。立場などは全て対等といわれている』

『ちッ!何であの人は一番最初に作られた俺じゃなくてテメェのような一番最後に生まれた青二才に指導権をやったんだ』

『貴様が精神的に幼いからだ。それに最初に出来たのはお前だけではなかろう。それより、初めて会うな。器の人間』

『器の人間?テメェ、どういうことだ』

『貴殿はまだ知らなくていいことだ』

『コントロール……テメェ、殺されたいか?』

 チェンジャーがさっきのことで相当頭にきているようだ。

『お前には私と違ってまだ動くための身体がなかろう。その状態でどうやると?』

『パスとは違うがテメェはまた違ったウザさがあるな』

『言ってろ。それよりも、勝手に出てきてあの方が呆れとる。早く帰れ』

『フンッ!!』

 そして、チェンジャーの気配が消えた。

『帰ったか、それでは私も帰るか』

『待て』

 ゲツガはコントロールと呼ばれていた男に声をかける。

『お前に聞きたいことがある。答えろ』

『なぜ、貴殿の質問を答えなければならん』

『俺の身体の中にいるならそれぐらい答えろ』

『断『じゃあ、私が答える!!』……』

 突然、幼い女の子の声が響く。

『……レストア、何でお前が居る。ここに入るための能力はお前にないだろう』

『誰だ、お前は?』

 突然出てきた、幼い声に訊ねる。

『私、レストア!』

『その前に質問に答えろ』

『もう、コントロールはめんどくさいな。パスにリンクしてもらったの』

『パスか。あいつもめんどくさいことをする。私はもう帰る。お前は喋るのであれば余計なことを答えずに早く帰って来い』

『はーい』

 そして、コントロールと呼ばれる奴の気配が消えた。

『コントロールは過保護だなー。それよりも、ねえ、お話しようよ』

 レストアと呼ばれる少女の声が話しかけてくる。

『話じゃない。質問だ。出来る範囲で答えろ』

『えー』

 レストアはそう言うが無視して質問に入る。

『まず、ボスは誰だ?』

『教えない』

『次だ。お前のほかにチェンジャー、パス、コントロールがいるな。お前をあわせた四人以外にもいるのか?』

『いるよ。あと三人』

『誰だ』

『私からは言えない。でも、三人の中の一人は最初に生まれた三人のうちの一人ってことだけ言っとく』

『意味が解んねえよ。もっと解るように言え』

『私たちは生まれる時はなんかのプログラムとあの方からのプログラムと能力を与えれてできるんだ。その時には、あなたの身体にも影響があるはずだよ』

 そう言われた後、自分に起きたノイズのことを思い出す。

 確か、チェンジャーがパスが初めてきた時に生まれたばかりの癖にと言っていた。そして、その数日前にグリームアイズとの戦闘中にノイズが走った。つまり、あの時にパスが造られたことになる。

『それで、感染時、最初に生まれたのがチェンジャーと私ともう一人。たぶん頭の回転の速いからすぐ解ると思うよ』

『機械についてはそこまで詳しくないんでね。まったくわからん』

『そうなの、残念だなぁ』

『最後だ。ユイから聞いた話だと、俺は、殺陣、錬金術、狂乱。この力をあと一回でも使うとどうなるんだ?』

『そう呼んでるんだ、チェンジャーとあいつの能力。まあ、好きに呼んでいいと思うけどね。それをあと一度でも使ったら、私たちがあなたの身体を完全に侵食する。って言ったって、こればかりはパスとチェンジャーがするらしいから私にはわからないんだけどね』

『分かった。もう帰れ。それと、チェンジャーに伝えろ。使い時に使ってやるよってな』

『はーい、じゃあね。器のお兄ちゃん。それと、お姉ちゃんとは次の世界で会えるよ。大事な人を助けに行くんだったらね』

 レストアが最後に意味深な言葉を言った。

『おい、それはどういう意味だ!』

 そう叫んだときにはもう、レストアの気配は完全に消えていた。

 現実に意識を戻すと、破裂音が響き、キリトが吹っ飛ばされていた。そこにアスナとユキがそばに行く。そのあとに続き、ゲツガも近づく。キリトは頭を振りながら上体を起こし、薄い笑みを浮かべて、ゲツガたちに見せるように、手を開く。そこにあったのは、涙の形を模した大きなクリスタルだった。

「キリト、これは?」

 ゲツガがキリトに問い返す。

「ユイが起動した管理者権限が切れる前にユイのプログラム本体をどうにかシステムから切り離して、オブジェクト化したんだ……。ユイの心だよ、この中にあるのは……」

 そう言って、アスナの手の上にそっと置く。ユキはアスナの手の上からそれに触れる。

「また……一緒にいられるねユイちゃん……」

「私はそうじゃないけど、また……会えるんだね……」

 二人は涙を流した。その涙に反応したのか一瞬だけユイの声が聞こえたような気がした。

『ずっと一緒です……』

 ゲツガは返事を返すように呟いた。

「ああ、これからも一緒だ……」

 そして涙の形をしたクリスタルはもう一度、今度は確実に瞬いた。

 
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