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八条学園怪異譚

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第一話 湧き出てきたものその十八


「それじゃあ御飯を食べてチロのお散歩の前にね」
「ケーキ食べてから行くね。それでだけれど」
「どうしたケーキかっていうのね」
「うん。どんなケーキなの?それで」
「チョコレートケーキよ」
 それだというのだ。チョコレートケーキだとだ。
「愛実ちゃんケーキは何でも好きよね」
「うん、チョコレートも苺もチーズも」
 無論他のケーキもだ。愛実はケーキならどんなものでも満面の笑みで食べる。それだけ好きなのだ。
「大好きよ」
「そうよね。だからね」
「買ってきてくれたの」
「それじゃあ。後でね」
「御飯をしっかり食べて」
「そう。英気を養ってね」
「それからチロとのお散歩に行って」
 このことはだ。愛実は忘れなかった。
「お風呂に入って。今日は寝るわ」
「あっ、入試の前日に勉強してもあまりよくないのよ」
 愛子はすぐにこうしたことも話してきた。
「実はね」
「そうなの?」
「そう。中間テストとか期末テストなら一夜漬けもあるけれど」
「入試は違うの」
「範囲が広いし。これまでの積み重ねだから」
 勉強自体が積み重ねにより形成されるものだが入試は特にそうだというのだ。これまでどれだけ勉強したかが重要になる。それでだというのだ。
「だからね。もう前日はね」
「思いきって休むのね」
「そう。そうすればいいから」
「そうなのね」
「だからケーキを食べてチロとのお散歩に行ったら」
「それでお風呂に入ったらなのね」
「もう寝た方がいいわ」
 微笑んでだ。愛子は愛実にこう勧めた。
「いいわね。そうしてね」
「ええ、それじゃあ」
 愛実は姉の言葉に笑顔で頷いてだ。それでだった。
 ステーキとカツ、それに一緒にあるサラダや味噌汁に御飯も食べてだ。母が買ってきてくれたケーキも食べてから家の玄関を出た。その時にだ。
 赤いリードを手に取ってだ。玄関の外の小屋にいる茶色の柴犬に対して言ったのである。
「行こう、チロ」
「ワン」
 その柴犬は愛実の声を聞いてすぐに立ち上がり尻尾を振って応えてきた。
 その犬チロにだ。愛実はまた行った。
「今から行きましょう」
「ワンワン」
 愛実に顔をあげて舌を出してだ。尻尾を振って応えるチロだった。
「夜だし寒いけれどね」
「ワン」
 チロを見て笑顔になってだ。そうしてだった。
 愛実はチロと一緒に散歩に行きそれから風呂に入り休んだ。その次の日だ。
 バスに乗りそこから試験会場である八条学園高等部商業科に向かった。そのバスの中にだ。
 聖花もいた。彼女は愛実、バスのつり革を手にして立っている彼女を見つけるとすぐに隣に来た。そのうえでこう言ってきたのだ。
「おはよう、愛実ちゃん」
「あっ、うんおはよう」
 愛実はその聖花の顔を見てすぐに挨拶を返した。
「このバスだったのね」
「うん。ちょっと早いかなって思ったけれどね」
「私もそう思ったけれどね」
「このバスにしたのね」
「お姉ちゃんに言われたの」
 ここでも愛子だった。彼女が大好きな姉がだ。
「テストは早いうちに行くといいって」
「それでなの」
「うん。昨日はたっぷり休んだし」
 よく寝た。このことも聖花に話す。 
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