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八条学園怪異譚

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第一話 湧き出てきたものその十二


「そうしたところは抜けてるのよね」
「忘れものも多いし?」
「そう。何処かぼんやりとしてるのよね」
「それは私も自覚してるけれど」
「もっとしっかりしないと駄目よ」
 咎める目になっての忠告だった。
「本当にね」
「さもないと高校でも愛実ちゃんに迷惑かけるわよね」
「愛実ちゃん困らせたら駄目よ」
 七割方本気の言葉である。
「愛実ちゃんはしっかりしてるけれどね」
「そうなのよね。忘れものとか絶対にしないし」
「いつも聖花ちゃんが忘れものしたら貸してくれてるわよね」
「幼稚園の頃からなのよ」
「そういうことはないようにね」
 こう忠告して咎めるのである。
「くれぐれも。いいわね」
「わかってるわ。しっかりするから」
「少しでもね。完全には無理でも」 
 とにかく聖花のそうしたうっかりさはかなりのものだった。だから完全になおることは難しいだろうと見ていたのだ。だが美紀はそれでも忠告はした。
「少しでもね」
「そうするわね」
「このことも約束してね」
 聖花自身のこともだというのだ。
「心配になるから」
「私のことも?」
「聖花ちゃんもね。見ていると放っておけないのよ」
 愛実とはまた違った意味でだ。そうだというのだ。
「不安になってね」
「それ愛実ちゃんにもよく言われるのよね」
「言われない筈がないわね」
「私ってそんなにうっかりしてるのね」
「かなりね。だからね」
「気をつけるから」
「そうしてね。本当にね」
 聖花自身のこともだ。美紀は切実に告げた。そうしたのである。
 聖花は自分のことも気をつけようと考える様になった。そうして中学生活を送っていた。時は必ず動き未来は現在になっていく。それでだった。
 聖花は何時しか黒髪の奇麗なはっきりとした顔立ちになっていた。日本人離れしためりはりの聞いた目に少し薄いがはっきりとした形の眉、面長の顔はバランスよく整っている。その黒髪は胸のところまで伸ばしている。
 愛実は聖花よりやはり小柄だが少し幼さの残る顔は眉はしっかりとしていて少し大きめの口元はピンク色である。黒髪をストレートにかなり長く伸ばしている。白い肌がそのまま顔の白さにもなっていて鼻立ちも可愛い。二人はそうした外見になっていた。
 どちらも悪くないと言える。だが、だった。
 愛実はやはり聖花のそのめりはりのある顔を見てだ。こう言ったのである。
「やっぱり聖花ちゃんって奇麗よね」
「別にそんなことないわよ」
「ううん、奇麗だから」
 首を横に振ってだ。聖花のその言葉を否定する。
「私なんかよりずっとね」
「ずっとって。愛実ちゃんの方こそ」
「私が奇麗っていうの?」
「可愛いわよ、凄く」
 思ったままのことをだ。聖花は彼女に話した。
「アイドルになれるわよ」
「嘘よ。そんなことを言ったらね」
「そんなことをって?」
「聖花ちゃんなんかモデルよ」
 そうした奇麗さだというのだ。聖花は。
「それもトップモデルよ。私なんかよりずと奇麗じゃない」
「そうかしら」
「そうよ。そんなこと言わないでよ」
 困った顔になってさえしてだ。聖花に言う。
「何か私、それじゃあ」
「それじゃあって?」
「慰められてるだけだから」
「別に慰めてなんか」
「いいの、とにかくね」
 聖花の言葉を遮ってだ。愛実は言った。
「私はそんなのいらないから」
「慰めとかは?」
「ほら、やっぱり慰めじゃない」
 その曇った顔でだ。愛実は聖花にまた言った。 
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